今週は、コンクリートの側溝に落ちたカエルを救うアイテム、【お助け!シュロの糸】。当時、小学生だった女の子が発案。今や側溝をつくる会社とも協力し、商品化されています。現在、高校1年生、山口県に暮らす藤原結菜さんにお話をうかがいました。
コンクリートの側溝、アルファベトのUの形になっているU字溝。そこに落ちたカエルを助けようと思ったきっかけは、どんなことだったのでしょうか?
「結菜さん:シュロの糸を作ろうと思ったのは、小学校3年生のときにカエルがU字溝に落ちてそのまま流されていったのを見たからです。もしかしたらU字溝はカエルにとって危険な場所なんじゃないかなと、カエルがU字溝から自力であがれるものがあればと思って、シュロの糸をつくりました。今は山口市に住んでいるんですけど、以前は美祢市に住んでいて、美祢市は田んぼがいっぱいあってカエルがすごく身近にいる存在だったんです。私が田んぼのあぜとかを歩いていると、カエルがそれに驚いてピョンとジャンプしたときにU字溝に落ちて、水が流れていたら流される感じ。そのままずっと流されていって、これはもう助からないんじゃないかな、自力であがるのも何か垂れ下がっていたりとかそういう場所がないとなかなか登れないんだろうなと思いました。実際、流れていったカエルを助けようと思って、U字溝のなかに網をつけていたらもう溺れて死んでしまっていたんです。あと水がないU字溝でも乾燥してひからびて死んでるのも何度も見たから。」
U字溝に落ちたカエルを何とか助けたい。そのためにはどうすればいいか?当時、小学生の結菜さんはさまざまなアイディアを試しました。
「結菜さん:自分がすべてのU字溝を見てカエルをあげていくわけにもいかないし、どうにかしてカエルが自力であがれるものを作れたらなと思って、いろいろ試しました。田んぼは草が垂れ下がっている場所もあったので、そういう草にカエルがつかまれば登れるんじゃないかなと思って、バケツに草を垂らして実験したり、あと垂れ草以外にもホームセンターで買った人口の草も試したし、いろいろやったんですけど、どれもデメリットがあって。例えば、垂れ草は登るのは登ったけど、草刈りとか時期によってなくなってしまうから、シュロの糸を人工的に取り付けるのがいいのかなと思いました。【シュロの糸】とは、シュロという木の皮があって、その繊維が髪の毛みたいに縦横になっているんです。それをとって、なかに水苔をいれて三つ編みにしたものをU字溝に垂らすものです。カエルのことをいろいろ教えていただいている、田原さんという方がいるんですけど、その方に『この繊維があるんだけどどうですか?』と教えていただいて、それをまとめるために三つ編みにしてみよう、と思って三つ編みにして垂らしたのがよかった、というのが作ったきっかけです。」
ヤシ科の植物、シュロの皮の繊維のなかに水苔を入れ、くるっと巻いて筒状にしたものを3本つくり、それを三つ編みにしたのが【お助け!シュロの糸】。農家の方に頼んで、実際のU字溝に設置。効果を観察しました。
「結菜さん:実際外に取り付けたら200匹以上のカエルがのぼっているのを確認できました。夏はカエルが卵からおたまじゃくしになって、子ガエルになる時期なんですが、その子ガエルがU字溝に落ちちゃうんですよね。落ちたカエルたちを助けられたので、よかったなと思いました。」
結菜さんが考えた【お助け!シュロの糸】。これに、ある会社が注目します。
「結菜さん:カワノ工業の岡崎さんがシュロの糸のことを知って、実際につけている場所を見に来てくださったんです。シュロの糸はひもでとめているので、ひもが朽ちて切れてしまったら流されていってしまうという欠点があって、それをどうしたら解決できるかなと思っていた時に、岡崎さんに声をかけていただきました。そういう環境のことを考えて、小学生のやっていることに目を向けてくれる大人がいるんだなと思って、嬉しかったし、ありがたかったです。」
山口県にある カワノ工業株式会社の岡崎雄次さんにもお話をうかがいました。
「岡崎さん:弊社はもともと水路をつくっているメーカーですので、我々は製品をつくっている側としては生物に悪い影響を与えているものをつくっている側です。だから、生物を助ける製品をつくりたいということで彼女と一緒にやってみようかなと思ったんですね。もともと小動物を助ける製品もないことはなかったんです。水路にスロープをつけるというタイプのものがあったんですけど、彼女はカエルを助けるということを考えていて、そのスロープの製品の問題点は、夏場で暑いとコンクリート面がからからになってしまうので、カエルがのぼっていくなかで体の水分をとられてしまうんです。そうすると、カエルがのぼる途中で動けなくなってひからびて死んでしまう。だから、彼女の自然素材のシュロを使うという発想を、水路に取り入れるのは面白いと思いました。」
カワノ工業は、最初からシュロの糸が設置できるスペースのある水路を開発。商品化しました。さらに今も、それによってどのくらいのカエルを救うことができるのか、結菜さんと一緒にデータを集めています。
「岡崎さん:これまで、コンクリートの製品に天然素材をとりつけるのは経験がなかったんです。確かに手間はかかるんですが、彼女の想いを大事にしたかったので、シュロは外せないねというところで、共同で研究させていただいております。販売はしておりますが開発の途中でもあります。改良してよりよいものをつくっていきたいと思っています。
結菜さん:やっぱり、今つくっているシュロの糸付きU字溝とか私がやってきた研究を見て、田んぼのU字溝で命を落とす生き物もいるんだというのを多くの人に知ってもらうのが一番いいと思います。」
最後に、山口県に暮らす高校1年生、藤原結菜さんにうかがいました。 将来の夢、どんなことでしょう?
「結菜さん:やっぱり、生き物に関わることに興味があるので、将来は医療関係の仕事を考えています。何かしら、命を救う仕事につきたいなと思っています。」