今回ご紹介するのは、髪があってもなくても楽しむことができるファッションアイテム、【N HEAD WEAR】の誕生秘話。
西陣織を波打つようにデザインしたものや、ベレー帽のようなデザインのもの。頭をやさしく、素敵に飾る【N HEAD WEAR】。これは、中島ナオさんが作り出したアイテムです。
「きっかけは2年とちょっと前になります。私はがんという病気を患っていまして、その2年ちょっと前というのは転移がわかったタイミングだったんです。それまでの生活においても一度、治療にともなう症状としてすべての毛が抜ける経験したことはありました。そのあと、その治療をやめると生えてはくるんですけど、私はずっと頭のてっぺんが薄い状態が続いてしまっていて、頭髪についての悩みはずっと抱えたまま生活していたんです。なので、転移してまたふたたび抜けるとなったときに、それまでの生活のストレスだったり心地の悪さをどうにかしたいと、強く思ったんだと思います。」
2016年の秋、中島さんは動きだしました。
「はじめからこういうものを作ろうというイメージが浮かんでいたわけではなく、髪の毛がない自分をどうしたらいいだろうというところから始まったんです。失うものを引きずり続けていてもつらいだけなので、今の自分でどういう装いをすると心地よく過ごせるのかというのを考えていきました。そんなとき、帽子というアイテムは髪の毛があることを前提に作られていると思ったんです。帽子は髪のない状態でかぶっただけだと後頭部が隠れなかったり、もみあげをカバーできない。ちょっと足りないとか、私にはちょっとあわないというのが多くて、それらをすべて形にしていったものが N HEAD WEARなんです。私にとっては、使っていたウィッグというのが、髪の毛があった自分に近づけるためのアイテムでした。近づけようとはするけれど、髪の毛があった自分にはなれないというか、そのときの自分よりマイナスというような感覚がありました。 でも、N HEAD WEARは今の自分を対象にしているので、そこからどう見せるかなんです。」
中島さんは、自分でデザインを考え、手を動かし、試作を始めます。一番始めにできたのは、丁寧に編んだふわふわのニットにリボンをあしらったもの。
「この白いもしゃもしゃしたヘッドウェアを、『できた!じゃあ、かぶって出掛けてみよう』というときも、この姿がどう映るか不安があるわけです。髪の毛がないことを前提に作って身につけようという強い想いはもちろんありましたが、人からどう映るのかということには不安があったんです。でも、これをかぶって出掛けた日にバス停で並んでいたら、自分の母親くらいの年齢の方が近づいてきてくださって『あなた素敵ね』って声をかけてくださったんですよ。それがすごく大きくて、その一言があったからこそ前を向いて立っていたられたと思うんです。例えば、初めてウィッグで出掛けた日とか、変に見えないかな?とかいうときって姿勢が悪くなっていたり人と目があわせられなかったりしたこともあったんですけど、そういうお声が今につながっています。」
最初にできたのは、今のところ商品化はされていない【Aライン】というアイテム。
続いて、東京ビッグサイトで開催されていたイベントでの出会いをきっかけに、西陣織を使った【Fライン】が誕生。
そして、商品として多くの人に届けるための準備も進められました。
「商品化という点に関しては、ビッグサイトで杉野服飾大学というファッションの学校の先生とご挨拶していたんですが、後日、先生がご連絡をくださったんです。『帽子の授業があって、その授業の中でN HEAD WEARのコンセプトを使いたい』とうことで、2017年は帽子を学ぶ学生の卒業制作のテーマにしていただいたんです。その帽子の授業の先生をしていたのが TERAI craftmentというブランドの武市さんで、その方が今も N HEAD WEARを作ってくださっている帽子職人さんでもあるんです。」
N HEAD WEARを世に送りだした中島ナオさん。いま、新しいアクションをスタートしています。プロジェクトの名前は【deleteC】、つまり、Cを消す。企業は商品名に『C』がつく商品からがんを意味するCancerの頭文字『C』を消し、わたしたちがそのCの消えた商品を買うと売上の一部ががんの治療研究に寄付される、という仕組み。
「このdeleteCというのはCを消すというアクションを通じて、がんという病気を治せる病気にしたい、その日が1日でも早く来るようにという想いを示すことを目的としたプロジェクトです。どういう風にしたらがんが治せる病気になるのかと言ったら、やはりがんの治療研究につながっていくんですけど、何人もの医師、その分野の専門の方にお話を聞くなかで、今はまだ日本で使えない薬の存在だったり、それを進めるためにはやはりお金が必要になるという現実を知りました。同時に、がんに触れていない方たちからすると、今どういう風にしたらいいかという分かりやすいアクションも見当たらないかなと思っているんです。触れていない方がこれだけいるということは、その人たちが行動し始めたらきっと何かは変わります。例えばdeleteCの日だったり、ある商品の、Cが消えた商品が発売になりました、というときに、『それ好きだし買おう!』とか、それぞれの目線でそれぞれの想いで関わってもらえる存在になれば、がんという病気のイメージも変わるかもしれない。そして、ガンの治療研究の分野もたぐりよせることができるんじゃないかなと思ってスタートしました。」
delete Cに込めた想い、中島ナオさんは、こう続けます。
「がんという病気の難しさは自分にあう治療がどれなのか、数ある薬だったり治療法のなかでどれが実際自分にあうのかというのがわかりにくいというのがあります。がんのタイプにもよりますし、体質もそうだし、個人差があるものなので、その選択肢は多ければ多い方がいいという現状があるんです。それをひとつひとつ増やしていくというのがこのプロジェクトの出口と言いますか、リアルに選択肢が増えていくのをみんなで応援できるようにしたいなと。がんを患って5年になるんですけど、ほんとに治療は進歩していて、1年前2年前だけじゃなく、それこそ5年前10年前と比べると受けられる治療や、副作用をおさえる薬も進歩していて、それは生活するなかでだいぶ違うんですよね。そういうことを自分自身も実感しているなかで、例えば、そこにもっといろんな企業さんや力が集まれば、1日は絶対にたぐりよせられるなと思って。その1日が1週間になったとしたら、今病気を抱えながら生活している私たちにとってほんとに意味があることで大きなことだなと思っています。」