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今週は、狭い路地に飲食店やさまざまな商店がひしめく吉祥寺の『ハモニカ横丁』で、実に12軒のお店を営む方をご紹介します。株式会社 ビデオインフォメーションセンターの代表、手塚一郎さんのHidden Story。

ハモニカ横丁で飲食店を経営する会社の名前がなぜ『ビデオインフォメーションセンター』なのか?そこには、こんな理由があります。

「1989年くらいかな?僕はビデオの機材のお店を日本で初めてやっていて、駅から歩いて10分くらいのところにあったんですけど、駅に近いところでビデオテープを買ってもらいたいと思って、ハモニカ横丁にビデオテープ専門店を出店したんです。でも、1990年代になると普及してしまって、もうそろそろ自分たちの仕事も終わりかなと思っていたころ、ビデオテープ屋の2階も借りていたんですが、そこでたまたま、建築家とデザイナーとシルクスクリーンのプリンター、3人で僕が入って金土日だけ、僕、焼き鳥が好きなので、夜7時から12時くらいまで焼き鳥をやったら意外と面白かった。どうして面白いかというと、当時はソニーショップをやっていたんですけど、ウォークマンを売るとなるとウォークマンコーナーを作ってソニーが何をどういう風に売りたいのか忖度する。でも、飲食店を始めたら、自分でメニューはできるし、内装も勝手だし、これは随分自由だなと。もうひとつ、電気屋をやっていて、1個のものを世界に売っていくという形と、1回かぎりの何かみたいな、ハモニカ横丁のそこでしか食べられなくて、でもハモニカ横丁にこだわって、フランチャイズじゃないね、ここでしかない何かをやると誰もやってないから面白いなと。」

手塚さんが 吉祥寺のハモニカ横丁に 最初に出店したのは、ビデオ機材、ビデオテープのお店でした。そのお店の2階で週末だけの焼き鳥屋さんを始めた手塚さん ですが、

ハモニカキッチンという名前で2階で始めて。(笑)1日の売り上げ2000円みたいなのもあるんですよ。『何だよこれ。だいたい誰だよ、ハモニカキッチンって名前つけたの』とかケンカになったり、デザイナーは『バーみたいにすれば僕のトークで客が集まる』とか言って全然集まらない、とかやっているうちに、僕はあの横丁に2店もビデオテープを売るお店を持っていたので1階も飲食にしちゃおうと。そのときに表参道にクレヨンハウスというのがあって、ランチでオーガニックのバイキングをやっていたんですが吉祥寺にそういうのないので1階を改装してランチバイキングを始めた。そして、年末になって、この坪数で1階2階でやっても採算があわないなと、だめだというレジュメを作ったんですよ。そしたら目の前にお茶屋さんがあって、『おれやめるけど、お前借りないか』と言われて、そこも借りて、そのときにバワリーキッチンやロータスを作っていた形見一郎さんに内装をお願いして。形見さんが白とステンレスとガラスとアルミで非常にきれいなカフェを1998年かな、に作ってくれたんですね。」

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横丁のご近所さんから、さらに声がかかりました。

「そこで一生懸命やっていたら、不二屋さんっていう、今、てっちゃんになっているところ、隣りが魚屋さんだったんですが、そこのおじさんが病気になっちゃって、『このあとうちの代わりにやらないか?』と言われて。え、そんな広い所を、と半年くらい考えました。それで、フードラボっていうコンセプトをたてて、もちろん食品は売っている、食べられる、それから台所用品も売っている、という食べるに関してオールラウンドなやつを作ったんですね。また形見さんに頼んできれいなお店ができましたけど、でもそれだけだと何となく物足りなくて。この横丁に『ブレードランナー』のような、逆行の光と煙と路面に水があって『煙がほしいな』と思って、ごく一部だけ焼き鳥屋を作ったんです。そしたら、焼き鳥屋だけが成功して、あとは絶滅しましたけどね。」

焼き鳥屋さんの『てっちゃん』には、建築家の隈研吾さんも関わっています。どんな経緯で、隈さんが 横丁の焼き鳥屋さんのデザインを担当することになったのでしょうか?

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吉祥寺のてっちゃんが入れない入れないと言われて、広くしようかと、さっき言った形見さんに作ってもらったハモニカキッチンの壁をとばして広げようとなったときに、誰にやってもらおうかなと。その時、飲み仲間、毎日飲んだくれている建築ジャーナリストの渕上さんがたまたまその前で飲んでて。もしかしたら隈ならやってくれるかもしれないっていうんで、急遽簡単に企画書を書いてお願いしたら、1月のすごい大雪の日の10時くらいにやって来て、横丁の焼き鳥屋で食べながら、『こういうところは面白いから残さなきゃいけないんだよね』と快く引き受けてくれて、それからの始まりですね。」

手塚さんが経営するお店は、吉祥寺のハモニカ横丁に12軒。

『ハモニカキッチン』『ヤキトリてっちゃん』ローストチキン専門店『ポヨ』、ビアホール『ミュンヘン』、スペインバル『モスクワ』など、業態も名前も多様なラインナップとなっています。

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「『モスクワ』という名前はカウリスマキっていう映画監督の『過去のない男』という映画を見まして、なかなかいい映画なんですよ。フィンランドでアタッシュケースを持ったサラリーマンが電車を下りて、カフェで一杯くらい飲むのかな、カフェを出て歩いていくと後ろからカーンとなぐられるんですよ。それで過去を忘れてしまうんですが、そのカフェの名前が『モスクワ』で、その『モスクワ』っていうのはカウリスマキが本当に持っているカフェなんですよ。その地下に映画館があって、そこに行くとすべて過去がなくなるみたいな。で、『モスクワ』って名前つけたけど、ピロシキとかできない、わかった、じゃあ、モスクワにあるスペインバルみたいな、もうどんどんわけわからなくしてやろうと思って。もっともっとアートなのかな、みんな横丁だと思ってやって来たら、横丁でもないしずれてるな、みたいな。イメージで固まって消費されないようにもっともっとやりたいんだけど。」

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『すべては、なるべく 行き当たりばったり』と語る手塚一郎さん。最後に、こんなことを話してくれました。

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「大掛かりに同じことを繰り返す、建築でいうとね、どんどん同じようなビルをぐわっと建てるというのがそろそろ限界にきている、限界というか、面白くなくなってきている。で、飲食でいうとひとりで『俺はこれ得意だ』というのをこじんまりと6坪とか10坪とかでやっている。これ物販もそうなんだけど、みんな自分で面白いものをやっていい。結局、人ってひとりだから、ひとりにかえって面白いというのを淡々とやっていい時代なんじゃないかな、そうじゃないとね、面白くないんですよ。」

ハモニカ横丁ウェブサイト