今回、注目するのは布ぞうり=ニット製ルームシューズのブランド【MERI】。

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こちらは、墨田区の小高莫大小工業から生まれたブランドです。

「私自身はニット工場の三代目で、墨田区がメリヤスといいましてニットの一大産地なんです。メリヤスって漢字で書くと『莫大小』って書くんです。今ではニット全般を表す言葉になっていますが、ニットって伸び縮みするので、莫大に大小するからと言われています。私は1972年、昭和47年生まれなんですが、大学卒業の時期がバブル崩壊直後でした。実家のニット工場もお客様は衣料品のメーカーさん、アパレルさんが多かったので、バブル崩壊の影響を受けてたわけです。うちは服自体ではなくポロシャツのエリとかジャンパーのそでとかすそとか、服のパーツを編んで納める工場だったので、服自体を作るメーカーさんよりは影響がおくれていたんですが、それでも徐々にあおりがきて、とにかく売り上げがどんどん下がっていく状態で。」

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お話をうかがったのは、小高莫大小工業の三代目、現在は、オレンジトーキョー株式会社の代表もつとめる小高集さん。2000年代のはじめ、売り上げが下げ止まらない状況に危機感を持った小高さんは、直接、消費者に販売するものづくりへの転換を模索します。

「技術力もあるし、お客さんからこれやってと言われたものに関しては120%答えることは可能なんですけど、自分で生み出すことは会社として全くやっていない。そして、私も特別学んだわけではないなか、直接ユーザーさんにものを売ろうという発想だけは浮かんだんですけど、当初は何を作ったらいいのかわからない。とはいえニットを編むことしかできないので、その範囲でできるものをネットで販売し始めたんですけど、そんなものは売れもしないし。」

状況を変えるきっかけとなったのは、1本の電話でした。

「たまたまなんですけど、青森の布ぞうりを作っている方から電話がかかってきたんです。私は布ぞうりを知らなかったんですが、昔からあって、古着のTシャツや浴衣をさいてつくるものは結構あったんです。たまたまその青森の方たちはご年配の方の集まりだったんですが、そこがバブルの影響を受けていたんです。もともと東北って縫製工場がたくさんある地域でそういうところから出る残反、『残った反物』と書くんですが、それを安く仕入れてたそうです。でも、ものは作りたいが材料が手に入らない。それでネットで調べてたらうちが引っかかって、わらをもつかむ思いで『ぜひ譲ってくれないか。』みたいな話をされたんですよ。困ってたみたいだったので、安くお譲りしたんですが、後日お礼にということで一足送ってくれたんです。私、履くまで興味なかったんですけど、履いたらすごく気持ちよくて。」

青森のご夫婦からの電話をきっかけに知った布ぞうり。小高さんは、それを履いた瞬間、商品化することをひらめきました。1年ほどかけて 材料を開発、『めりやす草履』という名前で売り出したところ、

即完売。

しかし、そのときの販売価格は3500円程度。これでは利益があがりません。 新たなアイディアが必要でした。

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「ビジネスモデルとしてやっていくには、1足3時間くらいかかる商品だし、販売したり流通にのせることを考えるとざっくり見積もっても最低8000円くらいにしないとビジネスにならないわけですよね。職人さんが時間かけて編んでいるので、ということで倍の値段にできるかと考えたとき難しいよね、ということで、ブランディングに着手するわけですよね。」

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2012年、メリヤスのメリにちなんだ名前のブランド【MERI】が誕生。北欧テイストのデザインで人気となりました。

「当初はポップな柄でスタートしたんです。北欧テイストでかわいくて、アイキャッチがいい。ブランドの認知度をあげるためということもあったんですけど、今は割と侘び寂びじゃないですが、和のテイストというかシックな色に徐々に意図的にデザインを変えてきてるんです。実際の売り上げに関しても、シリーズで分けているんですがアンネ、トーべ、ハンス、エレン、ミカという名前があって、その中でもトーベやミカというメンズライクなシックな色のほうが、特に海外の方のウケがいいですかね。北欧テーマという源流は変わらないんですが、デザイン自体も変化してきている。」

ニットを製造してきた小高莫大小工業とそのニットを使った布ぞうりのブランド【MERI】を運営する『オレンジトーキョー株式会社』。二足のわらじ ならぬ 二足の草履をはく小高集さん。今後について、どんなヴィジョンを描いているのでしょうか?

「ものづくりは、いいものを作っていくというのが一番ですが、それを本当に価値のあるものに変えるデザインだとか、販売のおもてなしが経験できました。なので、それをさらに、製造の現場にデザインの智恵をエッセンスとして加えることができれば、工場ももっとおしゃれで素敵なコンテンツになり得るんじゃないかなと考えています。新しい形の製造業だったり小売りだったりというのが壁がなくできる形ができればすごく楽しいんだろうなと思いますね。」

MERIウェブサイト