今週 注目するのは、長野県東御市にあるパンと日用品の店【わざわざ】。最寄り駅から車で15分ほど。アクセスがいいとは言えない立地にもかかわらず、まさに、'わざわざ' 訪ねるお客さんがたくさんいらっしゃるという 知る人ぞ知る人気店。代表の平田はる香さんにお話をうかがいました。
パンと日用品を扱う【わざわざ】。そもそも、なぜ お店を始められたのか? そのきっかけを教えていただきました。
「私は【わざわざ】を2009年に開業しました。その前に様々な職業を経験したのですが、どれもこれもうまくいかず、なぜうまくいかないんだろうと考えたときに、好きなことを仕事にしようとしたり、生きる目的を探そうとして仕事を選んでいた節があったんです。でも、それがうまくいかないと気がついて、今度は、自分ができることを集めた仕事をしてみたいと思って、自分の持っているスキルとかやれることを書き出して、いろんなことがそれぞれ少しずつできるなと気がついて、これを全部集めたらお店という形態にできるなと。できることの中に、パンをつくること、料理をするのが好きだったり、日用品を集めるのが好きだったり、広く浅くたくさん趣味があったので、それをどんどん集めていく形でお店にしようと思いました。」
東京でさまざまな職業を経験された平田さん。ご家族の転勤にともない、長野へお引っ越し。長野の地で、『自分ができること』を集めたお店を開こうと考えました。まずは、パンを主体にした移動販売からスタート。その後、ご自宅の隣りに店舗をオープンされました。当初は、25種類ほどのパンを焼かれていましたが、いま、パンは2種類の定番と季節商品のみとなっています。
「自分は、甘いパンや味のついたパンを食べていないんですけど、それをお客さんに売るのは変だなと感じたということと、パンを食事のように食べるとカロリーが多かったり、おやつの甘いパンをごはんのように食べると健康を害したりするんじゃないかとだんだん気がついていきました。なので、食事にあうプレーンなパンだけにしぼりこんでみなさんに食べていただくのが私の気持ちにあうというか。」
定番として販売されているパンは、『カンパーニュ』と『角食』のみ。また、2012年に店舗を新設したあとは 薪の窯が導入されました。
「なぜ薪窯に変えたのかというと、2011年に東日本大震災があって、福島の被災する様子を見て驚いて、ひとつの単一のエネルギーに頼ったやり方をしていると、災害でひとつのエネルギーが失われたときにどうにもならなくなる、というのがよくないなと。持続可能というのがどういうことかなと考えたときに、エネルギーの選択肢もできるだけ多く持っていたほうがいい。ガスでやっているとガスが止まるとパンが焼けなくなりますが、ガスと薪窯という2つの選択肢を持っていれば、どちらかを有効に利用できる。災害時にもそういう風に活躍していつもどおりのパンを焼くことができて、地域に配ったりすることができる。そんなこともできるかもしれないなということで変えた、というのが大きな転換の理由です。」
日用品については、セレクトした商品に加えて、オリジナルのアイテムも30種類ほど 販売されています。オリジナル商品のコンセプトのひとつは、こんなものがあったらいいな、と探してみたけれど、見つからなかったもの。
「パン屋のTシャツ、というTシャツがあります。私達がパン屋で薪窯でやるときにハードな耐久性の高いものでやりたいんですが、なかなかそういうのが見つからなくて、パン屋をやるのに適した細かい仕様があるんですね。それは袖丈が七分丈になっていて水仕事をしても袖口をまくらずそのまま使えるとか、度詰めといって、ハードに目をつめて編んだ生地を使っていて、負荷がかかってもやぶれにくい、耐久性の高い生地なんですよね。あと、よくしゃがむ作業がありますが、着丈がしゃがんだときに腰や背中が見えないような。あとは身幅がゆとりがとられていて回転する作業についてこれる、あまり体を締め付けない構造で作ったりとか。」
世になかったものを作る、という商品に加え、捨てられてしまう素材の再利用で作るオリジナル商品もラインナップ。例えば、靴下を作る中で出る残り糸=残糸を使った『わざわざ残糸ソックス』も人気になっているそうです。
最後にうかがいました。平田はる香さんが、今後について 思い描いているヴィジョン、どんなことでしょうか?
「私達の【わざわざ】というお店をお店として来ているというのが現状なんですよね。買い物をして帰る、というのが、実店舗でもオンラインストアでもおこなわれていることなので、そこから広げていって、【わざわざ】を通して、環境の認識を広げたり、なぜ私達がこういうことを熱心にしているのか、余った糸を使ってなぜ面倒くさい商品化をやるのか、その意味をもっと知ってもらう活動をしています。今はアメリカのB Corpという認証を取ろうとしていたりとか、自然エネルギーを全社の電気を交換していったりとか、サービスをみなさんに広める取り組みをしたりとか。今までは店とお客様という関係ではありましたが、今度は会社として自分達がやってきたことをたくさんよりよい方向に広めていく活動がしたいなと思って、いろいろ取り組んでいます。」