今週は、NPO法人「知的資源イニシアティブ」が主催する「Library of the Year 2021」で、大賞を受賞!鹿児島県の指宿市立 指宿図書館山川図書館 およびNPO法人 本と人とをつなぐ「そらまめの会」のHidden Story。

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お話をうかがったのは、指宿図書館の館長でNPO法人 本と人とをつなぐ『そらまめの会』の理事長、下吹越かおるさんです。2007年に、図書館の指定管理者となった、そらまめの会。まずはそのきっかけを教えていただきました。

2004年の秋に、私の友人がひとりの公共図書館の職員を連れて自宅を訪ねてきたところから始まります。そこに司書の方が何をしに来たかというと、異動してきて図書館に赴任してきたんだけれど、図書館の司書という資格を持っているのは自分だけで、そのほかのみなさんは市役所の水道課から来たり観光課から来たりしている方で、図書館のことをわかる方がいらっしゃらない。ひとりではなかなか大変なので、図書館を支える会を作ってもらえないだろうか、というのが始まりでした。」

下吹越さんは、小・中学校の学校司書のみなさんに協力を呼びかけ、最初の1年は ボランティアで図書館支援に関わります。そして翌年、指宿市が図書館の運営を指定管理者に託すことが決まり、これを受けNPO法人を設立。そして見事、指定管理者に選ばれ、2007年にいよいよ図書館での仕事が始まりました。

「うちでは8割から9割近くが司書の資格を持っているんですね。なので、より調べたい情報を早く調べられるように、資料を整えておく技術が優れていると思います。たった1冊の本をどうやって的確に調べるか、不安定な情報なときもあるんです。『小学校のときにみた絵本で、魔女が出てきて、あれがあってこれがあって』とか、タイトルが出てこないなかでその本に行きつくのは、難しいのではないかなと思います。やはり司書がたくさんいるということは、図書館が市民の方に差し上げる情報が豊かになる。この本にはこのシリーズがありますよとか、この本、来月また新しいのが出ますとか、そこまでお伝えできる可能性が出てくるんですね。」

市民とともに歩んできた図書館。たとえば、こんなエピソードもありました。

「図書館の本を借りたときに入れるバッグがかつてはあったんですが、それが劣化して、エコバッグやビニール袋でおぎなっていたんです。ですが、あるとき市民の方が、『私が作ったバッグですけどよかったら使ってください』と持ってきてくださったんですね。それが嬉しかったので、そのバッグをカウンターの近くに飾ったんです。そしたら、『私も作るわ』『私も』と、5枚も10枚も、中には150枚くらい作ってくださった方もいて、今度は布がなくなったわけです。そこで、今度は私がネットで『布をください』と呼びかけたんです。そしたら全国からいろんな布が届いたので、それをカウンター前において、『布はあるので、よかったら作ってください』としていたらその布が全部はけたんです。そしたら高校の家政科の先生から『残ったバッグの紐や糸があるけど使う?』と持ってきていただいて、それをおいておいたら、またそれを作ってくださる方がいて、800枚くらいバッグができたということがあって。住民の方のサポートとともに一緒にやってこられたのは感動ですし、今振り返ると、どれも楽しかったなぁって。」

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図書館の運営にたずさわって今年で15年、という下吹越かおるさん。図書館の役割について どう考えてらっしゃるのでしょうか?

「いろんな役割が図書館にはあるんですけど、最近は地域解決型図書館ということが言われていて、地域に起こったいろんなことを一緒に調べてその人に的確な情報を伝えていくのも図書館の重要な役割だと思っているます。そして、それを私達がただ教える、答えを言うのではなく、できればその人が図書館を訪ねてらして、『この本とこの本のこのあたりに書いてあると思うんですけど』と言って、一緒に調べてパラパラしながら、その方が『あった!』と見つけることが大事で、自分で探して、自分で発見して、喜ぶ。その喜びが次の学びにつながると思うので、そういう情報をどうやってうまく利用者に的確に伝えていくかが大事だと思っているところです。」

さらに、下吹越さんは【知る権利】の重要性も強く意識されています。

「かつて戦争があった時代に、図書館の本が見れなくなったり、梵書といって焼かれたことがあったんですね。やはり、国民はというか、市民はというか住民はというか、知らないといけないんですよ。自分たちの町でどんなことが起こっているのか、世の中でどんなことが起こっているのか、知ることは生きることにつながると思うので、それを図書館が支援できたらと思います。知る権利は、人種や信条、性別、年齢によって差別されてはならないと思うので、図書館はいつでも開かれて、そこに来ればその方が知りたいことが知れる、学びたいことが学べる、民主主義の最後の砦、という風に思っています。」

最後にうかがいました。いま、お聞きのみなさんに知ってほしいこと、どんなことでしょう?

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「私が懸念しているのは、司書という仕事がこれからも未来永劫続いていって、図書館が住民に信頼される場所であるためには、やはり司書が継続的に雇用されていかなくてはならないと思うんですね。ただ、現状では司書が非正規雇用の低賃金化というと言い過ぎかもしれませんが、そこでやっと成り立っている現状があるんです。なので、技術職である司書の方々を国や自治体は保証していって、そこは決して非正規やボランティアでできることではなくて、この方たちがちゃんと仕事ができる環境を作っていっていただきたいなと思っています。」

そらまめの会ウェブサイト