今週注目するのは、シネマ・オーケストラ=シネオケ。シネオケとは、巨大なスクリーンで映画を上映!そして、ステージ上のフル・オーケストラが映画の音楽部分を生で演奏する、というエンターテインメントです。そのシネオケ、日本での上演秘話をお届けします。
まずは、シネマ・オーケストラ、日本での上演はどんなきっかけで始まったのか?シネオケを企画、制作するキョードー東京、川池聡子さんに教えていただきました。
「2011年にウエスト・サイド・ストーリーのシネマオーケストラコンサートが立ち上がるということを、我々の代表がアメリカのプロデューサーから情報を得たんです。それは映画制作50周年を祝うコンサートだったんですけども、それに弊社の代表がニューヨークに行って参加しまして、そのコンサートを聴いて、観て、『ぜひとも日本でやりたい』ということで、2012年に日本で開催しました。」
2012年、東京国際フォーラム・ホールAで開催された『ウエスト・サイド・ストーリー』のシネオケ。指揮を担当したのは、『ウエスト・サイド・ストーリー』の音楽を手掛けたレナード・バーンスタインさんの最後の弟子、とも言われる佐渡裕さん。しかし、そこには大きな壁がありました。
「日本でやるのは初めてだったので、実際どのように作られているかというのは全然わからなかったんですね。なので、指揮者の佐渡裕さんに、どのように、歌や踊りにオーケストラの音楽を合わせていくのか、という説明を私自身がすることもできず。そこで、佐渡さんに1泊3日で、アメリカのロサンゼルスに飛んでいただいて、このウエストサイドストーリーの【指揮者が映像に、どの部分で合わせていくか】のガイドを付けたデビット・ニューマンという、アメリカの映画音楽作曲家で、すごく有名なニューマン・ファミリーのお1人で、いろんな映画の作曲もされている方なんですけど、その方の家に行っていただいて、30分間だけ佐渡さんがどうやって合わせるかというトレーニングを受けたという、逸話があります。30分だけのためにLAまで飛んでいただきました。」
デヴィッド・ニューマンさんは、スピルバーグ監督版の『ウエスト・サイド・ストーリー』の音楽も担当された方ですが、デヴィッド・ニューマンさんが、シネオケの指揮者のためにプラクティス・ビデオ、つまり練習用に、ガイドがついたビデオを制作されました。
では、このプラクティス・ビデオを見ながら、指揮者の方は どんな準備をされるのでしょうか?実際に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』inコンサートで指揮をとる齊藤一郎さんにお話をうかがいました。
「シネオケというのはまず、分厚いスコアが1幕2幕にわかれて1冊だいたい3センチぐらいあるんですね。全部で400ページぐらいのスコアがアメリカから送られてきます。その後に『プラクティス・ビデオ』というものがあるんですけれども、それは、どこから音楽が始まるかとか、どういうテンポで演奏するかとか、何拍子であるとか、拍子の変わり目はどういうふうに変わるとか。また、絶対合わせればいけない緑の線とか、黄色の線とか赤色の線とかあるんですけれども、それが何千本と入ってるんですよ。それが2000小節以上あるわけですから、4分の4拍子としても、1小節の中に音は四つあるとしても1万個ぐらいの音があって、それが上から順番にピッコロからコントラバスまで、全部あるわけですから。それはビデオを見て、、、もう見るしかないんです。ひたすら見て、この自分の体の中に覚えさせて、それでオーケストラの前でそれをやるだけという。」
ちなみに、そのプラクティス・ビデオ、例えば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の場合、事前に 何回ほど ご覧になるのでしょうか?
「一番難しいところに関して言えば1日おそらく20回30回ぐらい反芻してやって、それを多分2ヶ月ぐらいやってたんで。500~600回は多分見てると思いますね。それでもね、新しいことに気づくことがあるんですよ。オーケストレーションでも同じ音楽が何回も出てくるんですけれども、ちょっと変えてあるところがあるんです。それってやっぱり作曲が素晴らしいんですよね。同じことを同じふうにやらないんですよ。ホルンの数をちょっとだけ変えてみたりとかですね、チェロだけソロにしたりとかですね、そういうサウンドの微妙な仕掛けがありますね。」
コンサート本番では、指揮者の方は、手元のモニターに映し出されたプラクティス・ビデオを見ながら、そして、片方の耳でクリック音を聞きながら、指揮をされるそうです。映像と音楽がずれてはいけないので、当然、テンポがずれることは 許されません。 齊藤さんが目指すのは、テンポは守りつつ、最高の演奏を生み出すこと。
「クラシック音楽だと指揮者とオーケストラって、やっぱり一緒に作るもんでしょ。なので、皆さんが演奏しやすいテンポってのがあるんですよ。モーツアルトでもベートーヴェンでも、現代の音楽でも、それは皆さん音楽家ですから、ちゃんとこのあたりだなっていうテンポはみなさん知ってるわけです。それがガッて寄り添ったときには、私も寄り添うわけです。そのほうがいい音楽が出るんです、クラシックではね。でも、それをやっちゃいけないんです、シネオケでは。ようするにテンポは決まってるもんだから。ただ、その決まっているテンポにうまくもっていくようにやる、っていうかな。決まっているテンポがあっても、それはやりにくいテンポじゃなくて、やりやすいように作る。めちゃくちゃ速いんだけど、めちゃくちゃ難しいんだけど、それが非常に自然なようにやる、ということですね。『速いな、速いな、難しいな~!』だと、そこのレベルで終わってしまうんですよ。そこを演奏家の皆さんが「あーいいね、いいね~」という風に持っていけたら、もうこれは最高なんですよね。」
来月『バック・トゥ・ザ・フューチャー』in コンサート、そして、『ヒックとドラゴン』in コンサートを開催する、キョードー東京の川池聡子さん。そして、指揮者の齊藤一郎さんに 最後にうかがいました。今回のコンサートの見どころ、また、シネオケの魅力は、どんなところにあると感じていますか?
「川池:空を飛ぶ作品って、音楽の力が発揮されると思うんですよね。その壮大さというか、音楽の力で、『ヒックとドラゴン』たちが飛び立ってるような感じがするぐらい、オーケストラの音が高臨場感をもたらす、という。齊藤:たとえ何回観た映画であっても、それとも全く知らなくて初めて見る映画だとしても、この音楽の素晴らしさによって、その映画の良さは2倍にも、いや10倍にも広がっていくような、そういう可能性を秘めてると思います。」