今回は、back numberおよそ4年ぶりのオリジナルアルバム『ユーモア』のHidden Story。ヴォーカル、ギターの清水依与吏さんにお話をうかがいました。まずは、素晴らしいアルバムを予感させるオープニングトラック、『秘密のキス』について。

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1曲目って大事っすよね。そのアルバムの印象全てを物語っちゃうかなと思ってるので、プロデューサーがいるわけじゃないんですけど、ずっとやってきてすごい自信のある、メンバーだけでもこういうことができるようになったっていう嬉しさも含めて1曲目にしましたね。

アルバム全体を ものがたるような1曲『秘密のキス』。このオープニングトラックを含め、アルバムの『音』は、どんなことを考えて 作られたのでしょうか?

『色はビビッドなんだけれども、でもどこかあせていてほしいというか、すごくにじんでいるんだけれども、ものすごくまっすぐ飛んでくるというか。だから何か相反する2つの表現だったり想いみたいなものが混雑してるっていうか、一緒に入ってるみたいな音がすごく好きなので、特にこのアルバムはジャケットもそうなんですけど、にじんでる質感。もう誰がどう見たって、あれは黄色なんですけど、でも細かく言えばたくさん色が入ってるし、実はたくさんいろんなドラマだったりいろんな色が重なってあれができていて、人と人の出会いとか芸術とかもきっとそうで、傍目から見たら、この人優しい人とか面白い人で終わっちゃうんですけど。でもその人ひとりひとりにしかわからない、本人にしかわからないドラマとか、その人にしかわからない景色・風景があるわけで、それがちゃんと一貫してやれたのかな、というのはすごく嬉しく思ってます。』

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『秘密のキス』が作曲されたのは、2020年春。その後、コロナ禍を通して制作されたアルバム『ユーモア』。去年、2022年には、SCENT OF HUMOR】=ユーモアの香り、と題したツアーも開催されています。ユーモア、という言葉を選んだのは、どんな理由からなのでしょうか? 

コロナっていうのが大きいのかな。でも年齢もメンバー全員30代後半に差し掛かって、もちろん心もそうですし、体の変化みたいなものもあるし、いままで考えつかなかったような葛藤に出会ったりもしてきたので、そういう中で、ちょっとでも『今』って言う時間、『今』って言う時間って言うとなんか痒いな、なんていうんだろうな、でも『今』っていう時間に、『今』っていう時間がちょっとでも明るくっていうか、楽しいって思えないとなんか損してるというか。そもそも損するの嫌いじゃないんですけど。『貯金』って呼んでんすけど、何か徳をつんでるみたいな感覚なんですけど。でもそんなこと言ってたら、貯金いくらっても使わなかったら何の意味もないやと思って。だから何か、楽しいなって思えるものを目指そうと思ったときに、これユーモア足らないや、今の状態だと、と思って。ネガティブをネガティブのまま受け止めちゃってると思ったので、これはいかんと思って、ユーモアが大事だ。もうこれテーマ『ユーモア』だなと思って2人に話して。和也も寿も『本当そうだね』みたいな感じで言ってくれたので、アルバムタイトルにもしたいし、ツアーのタイトルにもしたい。『SCENT OF HUMOR』が始まる全然前だったので、だったらリンクさせたいし、でもそれは明かしたくないし、後々、『私達がかいでたあの臭いっていうか、あそこで味わったものって、もうユーモアのヒントっていうか、ユーモアの香りだった』というか、それを後で知ってもらったらまたそのアルバムの楽しみ方も一個加わるかなと思って。」

『今まで考えつかなかったような葛藤に出会ったりしてきた。』清水依与吏さんは、そう語ります。

Silent Journey in Tokyo』にしても『ベルベットの詩』にしても、なんていうんでしょう、大人になったとか、よくわからない定義。しかも大人っていう定義って誰かが決めたものじゃないですか。実は明確な基準も数字しかないっていう状態で、自分が自分をどう認識してるかっていうのは、もうかなり置いてけぼりな状態だと思うので。それも自分で決めさせてもらえないつらさみたいな。だけど、恥ずかしいこと言うけど、『多分、俺今でも青春だと思っています』という、その感覚がこの2曲は結構、角度全然違うんですけど、強く出てるかなと思いました。 なんかいろいろ聞こえなくなっちゃうくらい、きしんでるんですよね。それは多分、俺だけじゃないし、きっとメンバーも同じではないけど同様のしんどさも抱えたまま大人風なものになってるんだと思うんですけど。多分もう耳塞いじゃいたいんですよ。痛いときって、つらいときって。だけど、一生懸命、耳澄ましてるっていうか。余計なニュースとか余計な悪口とかたくさん入ってきて、多分それできついなって思ってる人、多分少なくないと思うんで。もちろん不特定多数の人に向けて歌うみたいな感覚は全然持っちゃいないんですけど、『これ俺だけじゃなくない?』っていう感覚はある気がしますね。

そんな もやもやを吹き飛ばしてくれるようなアルバムの11曲目、タイトルは、『ヒーロースーツ』。

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歌詞の内容、ご紹介しますと、最初、主人公は、戦隊モノに自分を重ねて 空想しています。、、、と戦隊モノの話で終わるのかと思いきや、この1行、『なんにもないただの男が 君を救う事もあるさ』。

このフレーズをきっかけに、突然、あなたに宛てたラブソングに変わっていくのです。

多分、この主人公は俺と一緒で、最初はもうガワはヘラヘラした、大したことないっていうか、ただふざけるのが好きな小僧というか、青年というか、多分そうなんすよ、最初の質感は。だけど、実はすごく強い想いを持ってて、自分の事は好きじゃないかもしれないけど、意中の相手がいて。なんかこの歌って実は歌ってて一番このアルバムの中でも涙が出ちゃうっていうか。それまではガチャガチャ自分の理想っていうか、何てことないことを歌ってんすけど、『君を救うこともあるさ』っていうところあたりで、こっち向くんすよね。すごいこっち向くんで、そこから自分で歌うみたいな、物語を歌ってたはずなのにいつの間にか自分の話になってた、みたいな感じがすごく強くあります。何か不思議だなって、そんなこと考えないで書いたし、でもその後に流れてくる『水平線』がすごく心地よくて。」

アルバムのラストは、『水平線』。2020年、back numberの地元、群馬県で開催予定だった高校総体=インターハイがコロナ禍で中止。運営を担当するはずだった高校生たちからバンドに手紙が届きます。そのことを受けて書かれたナンバー。さまざまな人に 寄り添う1曲となりました。

「なんかね、不思議っすね。back numberって、そもそも、人に書いてるようで書いてないんで。タイアップとかあったとしても、やっぱり不特定多数の人に対して歌ったことなんて、多分1回もないんですよね。それはもちろん俺が自己中心的ってこともあるかもしれないけど、そんなもの届かないだろって。俺みたいな、きっと配慮だって行き届いてないし、気遣いもできないし、世界中の全部の痛みをわかってるわけでもない奴がそんなことを歌ったって、他人ごとになっちゃうよって。自分で歌ったときに他人ごとの時点で、もう誰かの宝物にはならんでしょっていうふうに思うので。だから、せめて自分と、まあ欲を言えばメンバーがグッとくればいいのかな、ぐらいに考えてるものが、結果的にその多くの人というか、その聴いてくれた人の胸の奥っていうか、深いところでその人の人生と、人生と言うとちょっと重いっていうか言葉が難しいですけど。昨日あった悲しいことなのか、一昨日にあった嬉しいことなのか。3年前にあったしんどい別れなのかわからないんだけれども。何かそこに他人ごとじゃなく、ちゃんとそこに一緒にいられるものになってるといいな、と思いながらやってる気はします。」

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