今回は、ヨルシカの音楽画集【幻燈】のHidden Story。ヨルシカのギター、コンポーザーのn-bunaさん、ヴォーカルのsuisさんにお話をうかがいました。スマートフォンやタブレットのカメラを画集の絵にかざすことによって専用の音楽再生ページへ接続。絵を見ながら曲を聴くことができるという、音楽画集。なぜ、このような形で作品を発表したのか、n-bunaさんに教えていただきました。
「n-buna: 数年前にNFTというでかい市場がアート界隈に生まれたんですけれども、ブロックチェーン技術が発達して、データにオリジナルの証明が付けられるようになりました。 このときに、データにオリジナルの証明が付けられるようになるブロックチェーン技術はそのまま音楽の著作権の未来だと思ったんです。
音楽の今のデータ情報の本質っていうのは波形なんですよ。音楽データ、皆さんが聴いているのは波形なんです。それに、オリジナルの証明がつけられるようになるということなんですね。その状況って、今、書面だけで果たされてる著作権の代替機能なんですよね。完全な上位互換の機能として、そういう構成が絶対にできあがってくるんです。それを考えた時に、じゃあ、今、僕たちが音楽を作る人間として何をするべきかってこと、今出せるものは何だろうというのを考えた時に、その形式の比喩をとるかと、僕は思ったんです。
サブスクリプションサービスだったり、ダウンロードだったり、手軽に簡単に音楽を再生できる、消費できるという時代に、ちょっと面倒な手間を踏ませて、画集を買って実物として持っていて、それを絵で読み込んでそこからデータにアクセスする。オリジナルの画集を買った人にしか聴けない仕様にすることで、ブロックチェーンの簡単な比喩を作るというか。」
未来の状況の比喩としての【音楽画集】なんですね。つまり、オリジナルの音源であることの証明を、今回の場合だと、ブロックチェーンの技術ではなく【画集】が果たしている、ということになります。
音楽画集【幻燈】は、2つの章にわかれています。
第1章は、《夏の肖像》というタイトル。
第2章は、《踊る動物》というタイトルで、
1曲目の『第一夜』という曲以外はインストゥルメンタルの楽曲となっています。画集の絵を担当されたのは、加藤隆さん。
「n-buna: 第1章は音楽が先にあって、それに対して加藤さんに絵を描いてもらう。第2章は逆で、踊る動物をテーマに絵を先に描いていただいて、それに僕が音楽をつけていく、というような構成になっています。第1章は、歌ものの音楽を中心にして構成されています。文学というテーマが根底にあって、その文学というテーマ、古典の文学のみんなが知っているようなものを中心としてテーマを1つ選んで、それを音楽と絵の両面からかいてみるという、そういう構成になっています。」
第1章は、それぞれ、モチーフとした文学作品があります。例えば、『都落ち』という曲のテーマとなっているのは、《 万葉集 第2巻 116番 》。秘めた恋をする女性の皇族が、人の噂がわずらわしいので、人目を避けて早朝の川を渡り、愛する人に会いに行くという内容の和歌です。
「n-buna: 僕はこの歌、万葉集の中でも好きですね。何句か好きな歌があるんですけど、 不思議なパワーを感じる和歌で。学生の頃にこれを見たんですが、その時から不思議と心の中に引っかかっている歌なんです。その中から、別れのニュアンスとか悲恋的な悲しさを抽出して。相手の頭を都として、そこから自分がいなくなるという、その『都落ち』というニュアンスで別れの歌を作りました。」
この『都落ち』、suisさんは、 "都離れて舟進む"という一節の前に咳払いをします。
「suis:これは実際にこの曲のプリプロをやった時に、ここを歌う前に私が気合いを入れるために、プリプロだったら録られないからと思って咳払いしたのがなんか...。
n-buna: よかった(笑)suis: これ、なんか良くない?って。なんか、吟じる感じがあるってn-bunaくんが気に入って、そのまま使われることになりました。n-buna: そうですね。その"都離れて"からのパートって、これから吟じますよ、という、その曲の中の流れをちょっと変えてここから歌いますよというパートだから。その意気込みがあってよかったんですよね。だから、そのまま採用しました。suis: はい(笑) 」
このパートの歌唱について、suisさんはどんなことを感じたのでしょうか?
「suis: すごく楽しかったです(笑)。普段したことのない歌い方で、これもn-bunaくんが『♪ん~みやこ、って歌って』って、何度も言ってて。n-buna: 指定しましたね。suis: やりすぎないようにとは思いつつ、ちょっと民謡のニュアンスを入れたりして、吟じてる感じを出しました。n-buna:この"ただの記憶に"の後に、書いてないだけで、文脈でいったらここに『都落ち』っていう風に続くわけで、だから、そこをちゃんと意識させるための力強い歌であってほしいというのはやっぱりありましたよね。」
最後にこんなことをうかがいました。加藤隆さんが絵、ヨルシカが音楽を担当した音楽画集に、【幻燈】というタイトルをつけた経緯。そして、文学作品をテーマにした理由はどんなところにあるのでしょうか?
「n-buna: 加藤さんと話し合いまして、いろいろ候補が出てきた中で、宮沢賢治の《やまなし》の一説から取りました。 冒頭の一節に幻燈という言葉が出てくるので、そこからですね。まあ、その文を直接見て、どういう意図かを読み取ってくれたらと思います。僕たちがやるべきことって、過去の名作のエネルギー・過去の名作をモチーフにそれを現代のポップスとして昇華させること。それによって、僕たちの音楽が、僕を形作った文学というか、僕を作ってくれた名作たちへの入口、初歩的な入口になるといいなと僕は思うんです。」
ヨルシカのおふたりは次回もご登場いただきます。