今週は、東京・阿佐ヶ谷にあるジェラート専門店『ジェラテリア シンチェリータ』の代表でジェラート職人、中井洋輔さんにお話をうかがいました。

2010年にオープンした『ジェラテリア シンチェリータ』ですが、まずは、中井さんがジェラートの仕事を始めたきっかけを教えていただきました。
「お店始めたのは13年前で、ジェラートの仕事始めたのが15、6年前ぐらいかな。27歳だったんですけど、それまではインテリアのデザインとか設計みたいな仕事をしてて、そのジャンルに行き詰まったというか。すごい方と仕事することが結構あったんですけど、自分にはそれができる気がしないなってその時思ってしまったところがあって。じゃあちょっと気を取り直して、なんか違うこと・好きなことをもう1回やってみようかなと思って、30手前にそういえばアイス好きだなと思って、ジェラートやろうかなと思ったんですよ。
外国語大学を出てまして、その後卒業してすぐにイタリアのミラノに1年半ぐらい留学したんですけど、イタリア好きだし元々アイスがすごい好きだったので。イタリア行った時はジェラートほんとよく食べてっていうのも影響して。ジェラート屋は日本にないし、経験は少ないけどもしかしたらいけるんじゃないかなっていう希望的観測があって始めることにしました。 」
中井さんは、当時渋谷にあったジェラート屋さんにコンタクトをとり、そこで働き始めます。それから数年、紆余曲折があったのちに今のお店に至るわけですが、最初のお店やその後の仕事で、ジェラートづくりのノウハウは学ぶことができたのでしょうか?
「仕事の流れは教えてもらえたんですけど、じゃあなんでこの配合にするとか、なんで美味しいかみたいなことは分かんなかったんで自分で調べて本で勉強したり。専門的な材料もあるので、そういうものを扱ってる会社さんに問い合わせて教えてもらったり。とにかくお店がないから情報もなくて、海外情報はまだあっても日本でジェラートの本ってないから自分で調べて、家でこそこそ作る真似したりしました。今はまあまあ増えたんですけど、15年前ぐらいはとにかく情報がなかったですね。機械のメーカーの講習会があって、それはそこまで大した深掘りしたこと教えてくれないんで、作りながら勉強しながらを延々と自分でやり続けてきたようなもんですね。」
独自に習得したジェラートづくりの技。では、『ジェラテリア シンチェリータ』をつくるときにイメージしたのは、どんな味だったのでしょう?
「漠然と自分が美味しいものを作ろうと思っていたので、あまりイタリアで食べたものを再現しようって発想はもともとなかったです。やっぱり日本でやるので味覚が違うのも分かっていたし、その辺は意識して日本らしさというか、自分の好みの方向性みたいなもので行こうかなとはずっと思ってはいるんですけど。
一応、【街のジェラート屋さん】というコンセプトで始めてまして、一般的なジェラートやアイスって1個食べてすごい満足みたいな、そういう満足感を求めて作られてることが多いと思うんですけど、イタリアってほんとめちゃくちゃジェラート屋さんいっぱいあって。毎日は食べないけど週何回か食べるみたいな人が一般的にいっぱいいるんですけど、そういうのが良いなと思って始めたので、食べても負担にならなくて2カップぐらいいこうかな?みたいな感じの味わいだったり、お店作りを意識して作りました。」
1カップだけじゃなく、2カップ、3カップと、たくさん食べたくなるための工夫、どんなHidden Storyがあるのでしょうか?
「食べ疲れない、おかわりしたい、ということを意識しているので。甘さはハチミツと和三盆を中心に使っていて、食べてもめちゃくちゃ甘いってよりは、じわじわ甘さがきて食べ終わっても余韻が美味しい、みたいなイメージで作っています。配合がかなりポイントで、フルーツのものだとフルーツの素材自体の良さがそのまま出ちゃうので、そこがすごく重要ですね。 」
『ジェラテリア シンチェリータ』では、さまざまなフルーツのジェラートが販売されていて、種類は常時18種類。年間200種類以上がラインナップされています。このフルーツ、どんな方から仕入れているのでしょうか?
「直接農家さんとやりとりすることがほとんどで、それこそ昨日も山梨のネクタリンの農家さんに行ってきたんですけど。ネクタリンは知名度低いんですが、皮ごと食べれる桃で白桃みたいに産毛的なのがないんですよ。それも紹介してもらって。そこの人も本当に変わっていて、すごい人なんですけど、毎年新しい品種作りとかしてて面白いんですよね。それで、うちのお店用の品種を作ってもらってて、オリジナリティみたいなところでもあるし。まあ、変わってる方なんで、毎年新しい品種作って自分の好みに合わないともう切って捨ててくんですよ。でも、僕行った時にたまたま僕が好みなやつを見つけて、"これめちゃめちゃいいじゃないですか"と言ったら、"いや、これもう捨てるよ"みたいに言われて、"いやもう全部買い取るから残してください"ってお願いして。3、4年前ぐらいからは、うち用に全部買い取って、1本だけ切残してもらってっていうのがあったりするので。結構面白いんですよ、その産地のも。 そうやって少しずつやってると繋がりができて、紹介してもらったり。あんまり主体的に自分で探すってことないんですけど、一生懸命やってると、変わった農家さんが声かけてくれたりするんですよ。電話かけてくれて"うちの梅どう?"みたいに、変わった人が連絡くれて。そういう人って大体面白いんですよ、いいもん作ってるから。そういうのがちょっとずつ累積して、直接農家さんとやり取りして、果物をいい状態で送ってもらうみたいなのが続いてます。」
中井洋輔さんが今後目指すのは、どんなことなのでしょうか?
「ジェラートとしては、もっと美味しいのをコツコツ作りたいなとは思ってやってくつもりなんですけど。今、農家さんの高齢化は本当に進んでいて、昨日行った方も75歳ぐらい過ぎていまして。それで、後継ぎがいないとかは本当によくある話で。そういうのを僕がやって解決はできるか分かんないんですけど、その辺はちょっと力になれることがあればやっていきたいなと思うんですよね。やっぱり素材ありきでジェラート作ってるので、この美味しいネクタリンもなくなっちゃうのかっていうのは本当に辛いですよね。そういう農家さん本当にいっぱいいて、そこをなんとかできないかなとは思ってます。」



