今回は、マカロニえんぴつのニューアルバム『大人の涙』のHidden Story

20230901h02.jpg

ヴォーカル・ギター、はっとりさんに語っていただきました。まずは、アルバムタイトル『大人の涙』について。大人の涙は、アルバム収録曲【だれもわるくない】の歌詞にも出てくる言葉です。

20230901h03.jpg

「どの曲も、自分に加わっていない誰かの痛みであったり、誰かの悲しみに寄り添いながら、僕も一緒だよとか、その気持ちはわかるな、みたいな悲しみに寄り添って一緒に涙を流してくれるような優しさが僕は感じられたんで。だから "大人の涙"っていうのは、自分に加わった痛み以外で流す涙、共鳴して苦しみや痛みに共鳴して流す涙、優しさだと思っています。そういう優しい歌が今回たくさん入ったので。」

【だれもわるくない】という曲には、こんなフレーズがあります。《 きみのその痛みに、ボクも 覚えがあるんだ 》

「やっぱりどこかで傷ついた経験っていうのは引きずってしまう。特に最近は、言葉の暴力性っていうのが浮き彫りによくなってる気がして、どんどん鋭利になっていってる気がするんですよ。それが例えネットの世界でも、やっぱり感受性豊かな人は真に受けてしまうし、刃を向けた側にその気がなくても、感じた人はその痛みに縛られたり引きずったりってしてしまうような気がして。そういった傷を、私だけ、僕だけこんなに傷ついて恥ずかしいとか思わないでほしいって思うんですよね。それはね、人間誰も強くないから、強そうに見える、振る舞うだけで。俺も分かるよって一言言ってくれるだけで救われるし、その痛み、実は僕も経験がありますっていう仲間がいたりすることで救われる心とか命があるのかな、っていうことを考えた時に、音楽は真ん中...悪でも前でもない、正義を振りかざすでもないで、価値観を押し付けるでもない、中立な立場で優しくあるべきだっていう風に僕は思うんです。それで今回のアルバムにはどの歌詞もそれを強く思って書いているので。だから、これをピックアップしてくださったのはとても嬉しいっていうか、特にそれが1番、素直な言葉で綴れた部分ですね。」

この曲『だれもわるくない』について、もうひとつ。曲調がEDMなことについてもお聞きしました。

「このEDMっぽい曲調のデモが凄く格好良くて、しかもこれマカロニえんぴつでやるのがあんまりイメージできないなっていうか、やってきてないようなジャンルだったから。これを本気で取り組んで、自分たちなりにEDMっていうのをマカロックアレンジしたら楽しいんじゃないかっていうので手を出してみたんですけど、すごく難しかったですね(笑)。トラックメーカーのプロがいるっていうのは、難しいからその道のプロがいるわけであって、やっぱ素人が簡単に手出せるジャンルじゃないなってちょっと折れかけたんですけど、まあAviciiであったりとか色々聞きながら。結構影響は受けてます。」

作詞作曲は 夜におこなうことが多いというはっとりさん、詞はどんな場所で書くのでしょうか?

だいたいメロディーがもう出来上がった状態で最終的に歌詞を考えるっていうのがほとんどなので、そういう時の歌詞はトイレの中で書くことが多いです。トイレがね、なんかね、僕は書きやすいんですよ。すごくパーソナルな空間で、自分と向き合いやすかったり。あと、一応あれを僕、水回りと捉えてるんですよ。水の近くなんですよね。流れてはないけど、常には。だから、シャワー浴びながら歌ができるって人すごく多いんですよ。あと、雨の日に曲が作れるとか。やっぱり、生命は水から生まれてますから。何かクリエイティブの源、根源も実は水の周辺なんじゃないかとか思ったりはしてますけど。」

続いて、アルバムには収録しないはずだったけれど1曲追加できるならこの曲を、ということではっとりさんのリクエストで収録されたナンバー、【TIME】について。

昨今世界事情とかもなんかちょっと感じながら、やっぱり争いが絶えないことの悲しみっていうのを歌にしたくて。これを手放したら、自分なんか、自分が自分でなくなってしまうみたいな所有欲であったりとか、そういうのに走った時にエゴが生まれて、奪われたくないっていうところから相手の何かを奪うって発想に繋がって。で、大きい喧嘩は戦争ですけど。優しさっていうのは、人生も実は借りてるだけで、この命も次行ったら誰かに渡さないといけない。それまで丁寧に一生懸命生きるって思えればね。優しさだって独り占めしてたら意味ないわけですよ。誰かに渡してって。ペイフォワードじゃないですけど、そういうテーマで書いたんですよね。この【TIME】の歌詞は。」

はっとりさんには、来週もご登場いただきます。今回は最後にこんなことを聞きました。アルバムタイトルは『大人の涙』で、1曲目は【悲しみはバスに乗って】。全体として悲しみや孤独が象徴的に歌われている気がしますが、それはどんな意図によるものなのでしょうか?

「その【悲しみはバスに乗って】ってそのまんま、悲しみっていう...僕は寒色系の言葉って言うんですけど、寒色系の言葉で綴られてますから。まあ悲壮感が漂ってるように思えるんですけど、僕はその悲しさを吐露したいわけじゃなくて。 音楽ってせっかくこんなに全てを素敵にしてくれるのに、そこにもともと暖色系の言葉が乗っかっても、音の方が救いがいがないじゃないかって思うんですよ。どうしようもない絶望、誰も救ってくれなそうな世界を、音楽がつくことで希望に変えてくれるっていう。僕はそういうパワーを音楽が持ってると思うので。だから、孤独とか悲しみは歌っていかないといけないと思うんです。音楽の中では。それが僕はね、やるべきことだと思っていて。」

マカロニえんぴつ