今回注目したのは、鉄道のホームドア。都営地下鉄では、今年2月に全106駅でホームドアの設置が完了しました。この設置に大きな役割を果たしたのが【QRコード】だったのです。東京都交通局 車両電気部 フェロー 岡本誠司さんにお話をうかがいました。まずは、都営地下鉄のホームドアについて。そもそも、いつ頃から設置され始めたのでしょうか?

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「都営交通としてホームドアをつけ始めたのは平成12年、都営三田線にホームドアをつけています。この時には、三田線をワンマン運転するためにホームドアをつけましょうということで設置しました。それで設置が終わって、世の中もだんだんホームドアつけると安全になるよねということになって、色んな事故もあったりしてですね。平成20年頃に、都営交通としては地下鉄全線・全駅に設置するということを決め、その中で、まず大江戸線につけました。いずれ全部つけるんだけども、つけやすい所からやっていこうということで、まず大江戸線、次に新宿線。大江戸線とか新宿線をやりながら、浅草線をどうしたらいいんだろう?と考えていた感じですね。」

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浅草線をどうしたらいいんだろう"というコメントがありましたが、浅草線は、ホームドアを設置するのが難しかったということ。どんな点が難しかったのでしょうか?

「駅そのものも古いですし、相互直通運転っていうことを始めた1番最初の路線なんですね。そういうこともあって、細かく相互直通運転の決まり事を決めていれば、こんなに難しくはなかったんですけども、いかんせん、そんなホームドアなんて夢にも思わない。もう60年以上前に決めた話なので。浅草線には複数の鉄道会社が乗り入れています。全部で5事業者あります。それで各事業者、何種類も車両を持っています。色んな車両が入り乱れている中で編成長が違ったり、つまり6両編成、8両編成、はたまた4両編成とか、12両編成とか。こういったものの識別ができないといけない。ドアの数が違ったり、そういう車両を示すデータが色々ある。この色々あるデータをどう読み取るのかっていうところが鍵になりました。」

浅草線は5つの鉄道事業者が使っていて、それぞれ車両の種類が違う。車両の数も違えば、ドアの数も違う。その状況でホームドアを設置するのが難しかった、ということなんですね。さらに、こんな事情もありました。

「大江戸線・新宿線に関しては、車両とホームドアと連動するための無線装置を積んでいるんですね。そういった装置を積むという改造を浅草線でやろうとすると、さっき言ったように5事業者が乗り入れていて、かつ、相互直通運転の基本としては、所属している車両、自分が持ってる車両は自分で全部改造するということが決まりなので、全社に全部費用を持ってもらってつけるという合意はちょっと難しいという状態でしたね。」

困難な状況の中、ひとつのアイディアが生まれます。

「車両の改造をするとお金がかかる、合意が取れない。全く改造をしないとなると車掌さんの手動扱いにする、ということも考えたんですが、人間がやると確実な動作が難しくなる。じゃあ、その中間をとって、少しだったら何かしてもらえないか?その少しというのは、ドアにマーキングしてそれを読み取るということで確実な動作が期待できるし、シールを貼って欲しいということくらいであれば各社の合意も取れるんじゃないか。それで、マーキングをしたらいいねというところまではすぐに行ったんですが、何でマーキングするか?という中で、車両の特徴のデータなども入れたいというところからバーコードだとか2次元バーコードなどはたくさんあるので。そういうものを見ていくなかでQRコードが非常に読むのが速い、汚れにも強い。そして使われている用途がファクトリーオートメーションや倉庫の管理で使う、こうしたフィールドで使うことを主眼に開発されているので、あ、これならタフだぞと。」

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電車のドアの部分に、その車両のデータを入れた【QRコード】を貼って、それをプラットホームのカメラで読み取り、車両の種類を識別し、その車両にあった ホームドアの運用をおこなう。

では、この《QRコードを使いたい》という ひらめきのあと、プロジェクトは どのように進んだのでしょうか?

「実際に市販されてるものだけで上手くいくのかな、というところは正直ありました。それもあったので、元々QRコードの大元の開発メーカーであるデンソーウェーブさんに一緒にやってもらえないかと打診をしたところ、快諾いただいたというのが発端ですね。じゃあ実際にQRコードをどういう形で車両に貼っていくのか。どういうところにカメラを付けて読み取るのか。実際にQRコードを皆様が読む時はQRコードの正面にスマホを持ってきますよね。ああいった形で正面から読むのが普通なんですけども、車両の扉に貼って正面から読み取ろうとすると、ドアの正面には人が立っています。人が立っていたら読めない。じゃあ、上から読むよね、と。上から読むと斜めから読むので読み取りが難しくなる。そこをうまくソフト上で補正をかけて読んでどうかな、というところから実際の実験を始めています。」

QRコードを開発した会社であるデンソーウェーブの協力を受け、その後、数々の実証実験を経て、実用化。5つの事業者が乗り入れる都営浅草線で運用がスタートし、今年2月、都営地下鉄 全ての駅でホームドアの設置が完了しました。そして、このプロジェクト。大きなポイントは、このシステムの特許は 開放されていて、今後 どの事業者でも使用できる ということです。

「ホームドアのメーカーって色々あるんですけども、普通はそのホームドアメーカーとこういう制御装置は一体なんですね。ただ、今回のこれは、どこのホームドアメーカーであっても使えるようにと。このシステムで全ての問題が解決するわけではないんですけども、先ほど言ったように車両の改修がうまくできない。けれども確実な動作が必要だとか、そういったニーズに対して解決する1個の手法として検討して使ってもらえればなと思っています。で、ひいてはホームドアが普及していくこと、これに役立てばありがたいと考えています。」