今回は、沖縄県内の書店員の皆さんが、〈今いちばん読んで欲しい本〉を選ぶ沖縄書店大賞で今年、沖縄部門の大賞に選ばれた、写真家・岡本尚文さんの本『リメンバリングオキナワ』のHidden Story。

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『リメンバリングオキナワ』は、戦後復興期の沖縄と、現代の沖縄。過去と現在、同じ場所、同じアングルで撮影された二枚の写真を見開きの左のページと右のページに収めています。【定点写真】で、時の流れ・歴史の変遷をたどる一冊です。この本を手がけた岡本さんは、東京ご出身。10代の頃、観光で訪れた沖縄に魅せられ、これまで、写真集のほか、沖縄島探訪というシリーズの本を発表されてきました。

「最初に『沖縄島建築』という本を出しました。それは、伝統的な赤瓦の家屋や米軍の住宅など、沖縄が今まで経験してきたこの歴史の中で、そういう影響が反映された建物っていうのがいっぱいあるんですよね。そういうものをカテゴリー分けして、そこに住んでいる人の話をじっくり聞いて、住んでいる方たちがどうやってこの戦後を生きてきたのか、そういうところを掘り下げて。そのあと同じような形で『沖縄島料理』という本を出しまして。沖縄、中国、アメリカ、もちろん伝統的な料理、それぞれやっぱり色んな影響を受けて今の沖縄の料理があります。タコスもあるし沖縄そばもあるし、琉球伝統料理をまかなってる方たちのお話を聞いて、どういう風にそういうものをまかなってきたかっていうところに重点を置いて作った本が『沖縄島料理』です。」

そして、2022年に岡本さんが取り組み始めたのが『リメンバリングオキナワ』です。必要だったのは、戦後復興期の沖縄の写真。岡本さんはインターネット上に そうした写真が存在することを知っていました。

「結局、その写真の出所っていうのが、実はドン・キューソンさんという嘉手納基地に配属されてたアメリカ人の方なんですけど、彼が沖縄にいる時に米兵たちが残していった写真とか捨てていった写真を集めていたんですよ。その方が本国へと帰ってから、その写真をホームページ上でアップしていたんです。そのホームページのタイトルが実は『リメンバリングオキナワ』という、これ多分日本語に訳すと《忘れじの沖縄》とかそういう感じになると思うんですけれども。そこと、お父さんがやっぱり空軍の軍属として配属されて、カメラが好きで写真を撮ってそれを子供たちにスライド写真で見せていたらしいんですけれども、その子供が今カメラマンになってるんですよ。それでその方が、お父さんが残してった写真を整理してやっぱりネットにあげていて、そのお2人ともうお1人いらっしゃるんですけれども、全部アメリカの方でその方たちに直接連絡を取りました。」

過去の写真は、無償で提供してもらうことができました。そして、現代の写真である2022年の沖縄は、岡本さん自身が撮影されました。例えば、那覇市の現在再建中の首里城がある場所。1960年代、そこには琉球大学がありました。

「ここは元々、そして今、首里城が建っているところ。そこに1950年に琉球列島の米国民政府が琉球大学を建てるわけです。これなんでかというと、やっぱりアメリカは民主主義っていうものを普及させるために、戦後すぐから教育にはすごく力を入れてたんですよ。その象徴として大学を建てるっていう時に、やっぱりその場所っていうのも非常に大事で。そこは戦争で焼け落ちて首里城もなかったので、首里城の位置にわざわざ琉球大学を建てたという。でも、そのあとやっぱり首里城を再建するということで、別の場所に琉球大学は移転して首里城を建てたんですけれども、首里城自体もこの間2019年に復元工事が終わったんですが、終わった年に焼けちゃったんですね。そして今、再建していて。再来年に復元予定ですか、もうだいぶできてきてますね、はい。」

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そしてもう1枚、象徴的な写真を挙げていただきました。

「1970年のキャンプフォスターという米軍基地の普天間側のゲートなんですけれども、右側、2022年の同じ場所の写真が載っています。違っているところは、右側通行が左側通行に変わって、それ以外はもうほとんど変わらない。むしろ基地としてのゲートなんかはもっと頑丈に作られている。この2枚の写真を見ることで、今の沖縄の負担がかかっているという現状が見えます。」

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1972年に施政権が返還されますが、その返還前も返還後も基地は変わらず存在し、現在の方がゲートも強固になっている。2枚の写真からは そんな現実が見えてきます。また、『リメンバリングオキナワ』には、川平朝清さん、そして写真家・作家のラブ・オーシュリさんによるコラムも掲載されています。

「川平朝清さんですけれども、台湾で生まれて、台湾で育ちます。戦後、台湾から引き上げて沖縄に立たれるわけですけれども、そこで沖縄の荒廃した姿を目の当たりにして。そのあと、1953年にアメリカに留学して、今度はアメリカから沖縄を見ることになりますね。もう1人、コラムのラブさんっていうのは軍属で薬剤師で、沖縄に来るんですけれども、来てみたら北部の森、ヤンバルの魅力に魅せられて沖縄がどんどん好きになって。沖縄の女性と結婚して3人の女の子をもうけて、今も沖縄に住んでいます。こうしたお2人の、沖縄と重要な関わりはあるんですけれども、外から沖縄を見返すという視点。これがやっぱり非常に重要だなと思って、お願いしたという次第ですね。」

貴重な写真に加えて、コラムも ぜひ 合わせてお読みください。最後に、写真家・岡本尚文さんに『リメンバリングオキナワ』に込めた想いについて うかがいました。

「僕自身の沖縄との出会いが、そもそもは観光です。今、沖縄に行く多くの観光客の方たちも、沖縄と観光で出会ったという形になると思うんですね。観光って沖縄の大きな資源で、それはとっても大事なことだと思います。ただ、その一方で、観光からだけでは見えない、いわゆる基地負担や貧困の問題っていうのがあるのも現実かなと思ってるんですね。観光という形で出会ったその素晴らしい沖縄から1歩2歩踏み込んで、その文化や社会的なことにも想いをはせて繋がっていってくれたら、それがなんか沖縄に僕らがもらったものに対する返答になるんじゃないかなと思って。行って帰ってくるだけじゃなくて、そこと繋がってくっていうことに、この本が繋がっていったらいいなと思ってます。」

●「リメンバリングオキナワ」

トゥーヴァージンズという出版社から発売中です。

●写真家・岡本尚文さんは、沖縄の空をテーマにした写真集「沖縄 03 SKY」が刊行予定。この刊行とあわせて那覇のLuft shopで写真展も開催されます。

●岡本尚文さんウェブサイト