今回注目したのは、佐賀県にある日本酒の酒蔵 光栄菊酒造』。2006年に廃業した酒蔵を復活させたのは、2人の テレビ番組 制作者でした。そのHidden Storyをご紹介。

20240705h05.jpg

今回の主人公は、NHKの職員だった田下裕也さん。そして、NHKの番組制作にディレクターとして参加していた日下智さん。最初のきっかけは、田下さんが番組作りの中で感じたことでした。

田下:2013年に、経済番組〔サキどり〕で日本酒をテーマに番組を作ることになりまして、そこで初めて取材で伺った酒蔵というのが奈良県の【風の森】という日本酒を作っている油長酒造んで、こちらで取材させていただいたんですね。その取材の時に飲ませていただいた日本酒がもうとても美味しくて、"あれ、日本酒ってこんなに美味しい飲み物だったんだ"という。もうそこで本当に衝撃を受けまして、そこから日本酒をいろんな種類飲むようになりました。それと並行して取材していく中で、日本酒って蔵開きをしたら人がたくさん集まるし、輸出も今でも好調ですけど当時は急激に増えていた時期でってことで輸出もできるし。皆さん300年とか歴史ある蔵が多いので、建物1つとっても文化的価値も非常に高いですし、日本酒ってなんかいろんなこう、魅力が詰まっているなと。」

日本酒の魅力に気づいた田下さん。さらに、テレビ番組で様々な地域で頑張る人を紹介する中で、こう考えます。日本を元気にするには、それぞれの地域で魅力的な事業が必要ではないか。その意味で、日本酒の酒蔵には大きな可能性がある。そして、同じ番組のスタッフだった日下さんに話を持ちかけました。

「日下:僕は今も下北沢に住んでいるんですけど、当時 田下が経堂に住んでいて。僕らよく一緒に帰っていて食事をしたりご飯食べて帰ったりしてたんですけど、そこで田下からこの話を持ちかけられて。"日下さん、一緒にやりませんか"という話でですね。結局僕はフリーランスだしNHKの職員じゃないので、田下からすると僕は15歳上なんですけど、話しやすいお兄さん的な存在だったと思うんですね。それで、気軽にそんな自分が辞めるみたいな話は、多分、局の先輩にはそう簡単にできないと思うんですけど。それでそういう話を持ちかけられた時に、僕も当時確か50歳前でしたけど、その時やっていたのは非常にいい仕事で。日本の再生に頑張る人たちを応援して取り上げて放送してみんなに喜んでもらえるといういい仕事だったんですけれども、なんかそういう人たちを取材すればするほど、お前は何もリスクを背負わずに取材して原稿を書いたり構成作ったりするだけの仕事じゃないか?という後ろめたさのようなものがあってですね。最後、リスクを背負って、この国のためになることをやりたいなという想いはあって。そこはおそらく田下とも一致していたと思うんですが。」

田下さんは、以前取材をした『油長酒造』の山本長兵衛さんに相談。山本さんから"なんなら、自分が手伝いに行く"という言葉をもらいます。 しかし、このあと思いもよらず 山本長兵衛さんの訃報が届きました。悲しみとともに、酒造りのプロの手助けが得られなくなったショックは大きかったと言います。そんなとき、愛知県で【菊鷹】という日本酒を作っていた杜氏・山本克明さんのことが頭に浮かびました。

「日下:その訃報の1ヶ月ぐらい前に山本克明のお酒に出会ってたんですね。それで、これがもうめちゃくちゃ美味しくて。僕ビビってですね、あの人に作ってもらえないかなと思って。そのお酒を買った東京の酒屋さんに行って、"山本さんって掛け持ちできるんですかね"って。要は、僕らは山本さんを引き抜いて給料払うなんてことできるはずもないというか、考えたこともなくて。それで酒屋さんに相談に行ったら、"じゃあちょっと電話してみようか"ってその場で山本さんに電話してくれてですね。"山本君、杜氏って掛け持ちできんの。うん、そうなんだ。じゃあまた話すから"みたいな。で、電話切って"日下さん、できるらしいですよ""そうですか。じゃあ、もうすぐ会いに行きたいんで、そう伝えてもらえますか"って。それで僕と田下、2人で大阪に行ってですね、ミナミの喫茶店・英国屋で会っていただいて僕らの想いを伝えました。」

山本克明さんは、お2人からの依頼を承諾。しかし大きな壁となったのは、清酒の製造免許を新たに取得するのは非常に難しい、ということでした。そこで、休眠している酒蔵を探して、その事業を受け継ぐ形を模索。そして目に止まったのが、佐賀県の光栄菊酒造の存在でした。ただ、光栄菊酒造は2006年に廃業し、免許はありません。

「日下:免許はもうないんですよ、廃業してるから。じゃあ免許を持っていて、もう辞める会社をどこかで買収して、その会社をここに移転させる形を計画して動き始めたんです。田下と僕と2人で、僕は関西の方で辞めそうな蔵の情報を設備屋さんからもらって、田下は国税局管内の情報を集めて、それぞれが1件1件ローラー作戦で全部電話してってですね。"もうおやめになるんですか、ならちょっと譲ってくれませんか"って電話をかけまくって。僕らテレビの人間だったんで、そういう砂漠で針を探すような作業はもずっとやってきてたんで、慣れてるというかですね、心折れかけはしながらもそれをやりました。」

20240705h03.jpg

2019年、復活した『光栄菊酒造』で最初の酒造りがスタート。杜氏・山本克明さんによるお酒は最初から評判を呼び、その後これまで、事業は順調に拡大してきました。最近では、蔵の前の田んぼでお米づくりに取り組むなど新たなチャレンジも始まっています。そんな『光栄菊酒造』。最後に 田下さんと日下さん、お2人に、テレビの仕事から酒蔵の仕事への転身を振り返っていただきました。

「田下:本当、風の森という日本酒をきっかけに人生が変わるほどの衝撃を受けて。日本酒も好きになり、最終的にはこういう日本酒を自分たちで作るっていうとこまで行ったんですが、外の業界から入ってきたかいがあるというか。僕らが来た意味っていうのをなんか1つ提供できてるんじゃないかなと思っています。

20240705h04.jpg

日下:輸出を10カ国近くやってましてですね、世界でも喜んでくださっていて。そういう仕事をこう、ぽっと我々素人から入ってですね、こんなことになれるなんて思ってもなかったですけれども、現実にそうなれてるって非常に喜びを感じますし、もっともっと頑張ろうと思っていますし、"え、こんな日本酒あったの?""日本酒ってこんな美味しいの"って思ってもらえるものを常に出し続けていきたいと思ってますね。」

20240705h01.jpg

光栄菊酒造の日本酒は、全国の特約店で販売されています。特約店についてなどは、下記の電話番号へお問い合わせお願いします。

光栄菊酒造 : 0952-97-6710   

また、最新情報は、インスタグラムで。 https://www.instagram.com/koueigiku/