今回注目したのは、島根県大田市温泉津に鉄で様々な道具を作る【鍛冶屋】の工房を作り、そこを拠点に里山の資源・環境の循環を目指すプロジェクト。

鍛冶屋の世界に入って5年目という山口小春さん。

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そして、以前このコーナーでもご紹介した地域の課題をデザインの力で解決する活動を続ける会社 『シーラカンス食堂』の代表 小林新也さんにお話をうかがいました。

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山口小春さんは東京都のご出身。山口さんが目指すのは鍛冶屋の中でも、野鍛冶。野原の"""鍛治"と書きますが、これは農業や漁業の道具・斧・ナタ・家庭用の包丁など暮らしで使う鉄製品を幅広く手がける鍛冶屋さんのことです。

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そもそも、山口さんが鍛冶屋の仕事をこころざしたのは どんなことがきっかけだったのでしょうか?

「山口:就職活動の折に鍛治に興味を持ったという感じです。元々、大学では文学部史学科というところで地域研究ゼミというところに所属していたんですけれども、その中で地場産業に触れる機会があり、職人の後継者問題などを調べていく中で小林さんに出会い、シーラカンス食堂の取り組みに興味を持ったというところがスタートです。」

山口さんが『シーラカンス食堂』に興味を持った時、小林新也さんはすでに兵庫県小野市で自習室のような、刃物産業の後継者育成をする工房「MUJUNワークショップ」を立ち上げて運営していました。

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「小林:MUJUNワークショップ自体は2018年の夏から動き始めました。自習室のようなものって言っている理由はですね、近所に鍛冶屋さんはいるんですけど、完全に弟子入りはできないと。ただ、教えてはくれるんですね。少し工房を使わせてもらったり、作ったもの、作りかけのものを見せに行ってアドバイスをもらうとか。そういう程度のことはできるんですけど、きっちり密着して教えてくれることはできないと。なので、やりながら試すじゃないけど、そういうのを最初はMUJUNワークショップの中でやったり。技術習得って本当に技術だけじゃなくて、道具を作ったりとか機械を揃えたりとか、そういうことも必要になってくるので。そういう環境も整えながら技術習得していくということをやっています。」

山口さんは4年間、このMUJUNワークショップで技術を習得。そして今、小林さんが以前から活動のもう1つの拠点としていた島根県大田市の温泉津で新たな取り組みをスタートしています。

「山口:小野市での取り組みを経て、より自給率の高いものづくりを実現するため、島根県大田市温泉津というところの里山で鍛冶工房を作ることを始めています。

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小林:この温泉津ってところが元々、たたら、玉鋼を製造する産業が昔すごい盛んだったってことを知りまして。そういう痕跡が結構至るところに残ってて。なので、ここだったらもしかしたら鋼作りからできるんじゃないのかなっていうのは前々から少しイメージがあったんですね。ものづくりは、材料だけじゃなくて、燃料とか、あと資材とか道具とか色んなものが複合的にないと持続してものづくりができないんですけど、それ全部ここで調達できるんじゃないのかな?っていうのが最初のインスピレーションで。

たたら〉とは、砂鉄と木炭をもとに純度の高い鉄を生産する日本古来の製鉄法のことで、島根県のこの地域で盛んだったそう。ならば原料の砂鉄の調達も含めて、温泉津でできるのではないか?さらに、小林さんは こんなことを考えています。

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「小林:昔の人が里山で暮らしていた時代のいいところって、人の暮らしと、その山林の成長スピードとか健康状態みたいなもののバランスがうまく循環してたと思うんですけど、人口が減っていく中で割とそのバランスってもう1回再構築できるんじゃないのかなと思ってまして。それを実現する中で、例えば山に入ってちょっと歩くと、枝とか大量に落ちてて立ったまま枯れてる木もあれば、動物の影響とか何かの影響で倒れてる木があったりとか。そういうものを引っ張り出してきて、それを薪にしたりとか、炭にしたり。その炭と砂鉄というものを融合したものが鋼になるんですけど。要は、そういう活動をすると、同時に山が整備されていくみたいな。そういう関係性みたいなものを作っていくと、持続可能なものづくりと暮らしと自然、というものが回り始めるんじゃないかなというのが理想の形ですね。」

今のお話に加えて、鍛冶屋さんの仕事は農業とも密接な関係があるそうで、農業をやる中で出てくる、わらの灰や、もみがらの炭なども鍛冶屋の仕事に使えるんだそうですなので構想するのは、農業も含めて 里山の暮らしの中にあるものづくり。その1つの拠点として、鍛治工房づくりが進められています。

その工房での仕事について、山口小春さんはどんなヴィジョンを持ってらっしゃるのでしょうか?

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「山口:まずは工房をしっかり完成させて、地域の人の道具に関する悩みを解決できるような存在になりたいと思ってます。それで長いスパンではやっぱり私もそういう農具を使いながら、自分でも道具を手にして。その経験を落とし込んで刃物作り、道具作りができるような鍛冶屋になっていきたいと思っています。」

そして、シーラカンス食堂の代表 小林新也さんは、この里山の暮らしについて、最後にこんなことを話してくれました。

「小林:こういう活動って都会の暮らしに疲れた人がやるとか、ちょっとヒッピーっぽいとか、そういう風に見られがちなんですけど、全然そんな風には思ってなくてですね。近年の便利なものはもちろんどんどん取り入れていきたいし、昔の里山時代のいいところと現代のいいところを融合した形が未来なんじゃないかなっていう風に考えてて。例えば電力とかも、自分たちで川の水をうまく利用すれば動かせるんじゃないかっていうのを考えてまして。木を使って建築がしたい、家具が作りたい、器が作りたい。で、もちろん土とか焼き物も、石見焼とか、石州瓦とかある地域なんで、焼き物もやろうと思ったらできる。それでガラスの珪砂っていう砂がでこの辺りで取れるんですけど、だからガラスをやろうと思ったらやれる。っていう風に とにかく資源がすごく豊富で、やろうと思えばなんだってできるんじゃないかっていう環境なんですね。なので、こういう活動に興味がある人は すごく気軽に遊びに来てほしいですね。みんなで協力し合えて暮らしていけるような、そういう新しい村みたいなものになっていったらすごく素敵だなと思ってます。」

小林さんは温泉津温泉で、《時津風》というカフェ、サウナ、そして夜はスナックにもなるスペースも運営されています。そちら訪ねてみてはいかがでしょう?

時津風

そして、温泉津での工房づくりは現在クラウドファンディングを実施されています。このクラウドファンディングのウェブサイトにも里山のプロジェクトの詳しいご紹介がありますので合わせてご覧ください。

クラウドファンディング

シーラカンス食堂