今回は、お寺の僧侶が立ち上げた電力会社京都に拠点を置く『テラエナジー』のHidden Story。
「テラエナジーというのはいわゆる電力の小売会社になります。サービスとしては、【寄付つきでんき】というサービスと、それから【再エネ由来の電気を供給する】という2つのサービスを大きな柱としています。」
お話を伺ったのは、テラエナジー株式会社の代表取締役である竹本了悟さん。竹本さんは、奈良県にある西照寺というお寺の住職。また、認定NPO法人『京都自死・自殺相談センター』も運営されています。そんな竹本さんが、電力会社をおこすきっかけはどんなことだったのでしょうか?
「どうしてもNPO法人などで社会の課題に対して何かをやろうとすると、想いはすごくあるんですけれども、しっかり生活をしていけたりとか、そのことを本当に生業として生きていく、ということはなかなか今の日本社会では難しくて。実際に我々がやっている自殺の相談センターは、電話とかメールとかリアルに集まる場所とかも提供してるんですが、窓口としてはいつもパンク状態なんですね。必要としてる人はすごくたくさんいる。プラス、協力してくれるボランティアさんもどうしても別の仕事をしながらやっているので、なかなか十分に力を割くことができない。一方で、若い方なんかは本当にこの活動を自分の生涯の生業にしていきたいと、本気でこれに取り組みたいと言ってくださる方もいるんですけれども、残念ながら、その方の生活をきちんと保証するだけの給与を払うことは継続的には難しい。ということで、必要としている人がいる、提供したい人たちもいるにも関わらず、経済的な課題だけでそこの場を作ることができないということで、なんとかならないかなと。」
社会の課題を解決する活動をしたいけれど、それに必要な安定した資金がない。この状況を改善するために電力会社を立ち上げた、ということなんですが、ではどうやって電力会社というアイディアが浮かんだのでしょうか?
「良いアイデアをくれたのが、今一緒に起業してやってくれている大阪八尾のご住職の本多真君。彼が良いきっかけをくれたんですね。そのきっかけはなんだったかというと、ドイツのシュタットベルケという新電力の事例だったんです。これがめちゃくちゃ面白い事例で、ドイツが電力自由化した際に地方のおじさんたちが自分たちで電力会社を作ってしまって、そこで得た収益で地元の赤字路線のバスを買収して、今では完全無償化して走らせているという事例を聞いたんですよ。その電力会社を作ってしまったおっちゃんたち、めちゃくちゃかっこいいなと思ったのと。しかも、そこで大儲けしました、終わり、ではなくて、そこで得た収益を地元に安定して還元するという。そこもかっこいいなと思いましたし。あとそれから非営利の活動とかと一緒で、赤字路線のバス会社は今後人口が減っていくような地域ですから絶対黒字化なんかしないんですよ。そこにインフラ事業という安定して大きなお金が流れるところに一部紐付けて、お金を安定して回していくというこの仕組みがすごくかしこいなと思いまして。」
日本でこの仕組みができれば、非営利の組織など資金が必要な団体を支えることができるのではないか?2018年、4人のお坊さんが中心となってテラエナジー株式会社を設立。翌年からサービスがスタートしました。テラエナジーが導入したのは、【寄付つきの電気】という仕組み。
「電力量料金の2.5パーセントを上限に、1年に1回寄付をさせていただくという風にしています。【寄付つきでんき】というネーミングにしてるんですが、できるだけ我々としてはハードルを上げたくなかったんですね。電気料金を払って、さらにプラス寄付しなきゃいけないっていうことになると、普通の寄付行為とあんまり変わらないなと思ってハードル高いままだと思うんですよ。そのハードルをできるだけ下げたかったので、ただ単にお客さんには電気を使ってもらう。で、あくまで寄付はテライナジーの収益のところから寄付をするということにこだわってやっています。この2023年の3月までの1年間分の売り上げに対しては、この7月に2200万円ほどトータルで寄付をさせていただくことができまして、徐々に規模も増やしていってるような状況ですね。」
電気の利用者は、通常の電気利用料金を支払います。その後、テラエナジーの収益から その一部が寄付されるということ。そして電気の利用者は、どこに寄付するか100以上の団体から選ぶことができます。ただ、ちょっと気になるのが、こうした仕組みを実現するために料金が割高になるということはないのでしょうか?
「もうそこは一切ないですね。むしろ地域によっては、いわゆる大手電力会社の料金よりは少し安く設定してることがほとんどです。特に企業さん向けの高圧とかですね、高圧電力とか、そちらの方は他の大きな電力会社さんと比べても電力量料金的には割高だということはないですね。」
2019年にサービスを開始したテラエナジーの寄付つきでんき。寄付を受ける団体の皆さんからはどんなリアクションがあるのでしょうか?
「皆さん結構喜んでくださって。今年も1番少ない団体さんでも6万5000円ぐらいの年間の寄付だったんですね。1番大きいところだと800万円とか、それぐらいの寄付になるんですけれども。うまく活用してくださってる団体さんなんかは、自分の団体の支援者に対して"電気で自分たちの活動を応援してください"というような感じでお伝えをしていただいたり。電気を変えるということは、実はこの団体を応援することにも繋がるし、プラス再エネ由来の電気を使うことによってCO2削減とか本当に世の中を1つ居心地よくしていく、そういう一歩になるんですよ、みたいな話はさせてもらって。一緒に動いているところはあったりします。」
電力会社の立ち上げから6年。加えてNPOの活動、さらに僧侶のお仕事も続ける竹本了悟さん。今後については、どんなヴィジョンをお持ちなのでしょうか?
「もともと僕はその再生可能エネルギーを使うとか、環境問題に対する意識は全然高くなかったんですよ。ところがこの起業をして、一緒に起業してる本多君というご住職は仏教と環境の専門家で、彼の影響もあって学べば学ぶほど本当にこの環境問題は喫緊の課題だなと感じるようになりましたし、今技術が発達して本当に化石燃料を使わなくても発電する方法がどんどんできてきてますので、できればそういった日本国内で完結してエネルギーが循環する仕組みみたいものを作る方が、より僕らにとって安心した生活にもつながるし、その方がいいなと思ってるので。本当に気候変動問題の解決にコミットした、そういうエネルギーシフトの事業をしっかりとやっていきたいなというのがひとつ。それからお寺のことも、これからどんどんどんどん社会が変わっていくと、お寺の在り方も変わっていかなきゃいけないなと思っていて。ですが一方で、地域のハブとしてお寺ってすごく使い勝手がいいなとも思ってるんですね。そのお寺のハブとしての機能をしっかりと活用した、いいモデルを作っていきたいなっていうのが今考えてるところですかね。」