今回は、静岡県の焼津市にある《YOSHINAGA BASE》という会社が手がける、魚釣りのルアーに注目します。川に魚が増えるルアー『SHIMEY』のHidden Story。
「ルアーというのは基本的に釣り道具なので、魚を減らす・とる道具なんですよね。僕は今、独立して会社をやってるんですけど、前職の間、大きめの工場だったので毎月結構な量のルアーを作るんですよね。でもちょっと引いてみると、これだけルアーを作って、このルアーはどっかに消えているわけですよね。と考えた時に、どこかでバランスが破綻する時というんですかね。釣りって自然相手の遊びじゃないですか。自然も健康な状態であれば、ずっと自分たちの仕事も続いていくんでしょうけど、じゃあ健康を害してしまったらどうなるんだろう?と言ったら、終わりですよね。そこで、自分をいかす意味でも、自然というものをちゃんとケアしていかないと続けていくことができなくなるんじゃないか?というのは、ちょっとどこかにはあったんです。なので、こういった問題を投げかけると言いましょうか、正直言ってビジネスとしては成り立ちにくいんですけど、でもこういったものをちょっと作ってみたいな、というのはありました。」
お話をうかがったのは《YOSHINAGA BASE》の代表、佐々木一樹さん。佐々木さんは、静岡県にある《DUO》というルアーメーカーで18年間勤務。その後、独立し《YOSHINAGA BASE》を立ち上げられました。でも、そもそも岩手県ご出身の佐々木さん、なぜ、ルアーのメーカーで働こうと思われたのでしょうか?
「僕は中学校まではアニメが好きで、アニメーターになろうと思ってたんですね。釣りはもう元々好きで、祖父が漁師をやってまして、父親が大工という家だったので、魚と触れ合う機会があって。また、モノを作るための道具というのは日常だったんですよ。そこら辺にあるものだったんですよね。遊びといえば魚をとるとか、すごいいい感じの田舎なんで。なので、釣り道具もちょっとしたものなら自分で作っちゃうとか。で、そこにアニメという、絵を描くのが好きというのもあって。 でも高校になった時に、アニメ1本というのも厳しい世界じゃないですか。なので、これを一気に、自分が好きなものを一気に叶えてやろうと思ったら何がいいかなと思って。当時ブラックバスがブームだったので、ルアーはなんかちょっとデザインという要素がありそうだなということで。本当、なんて言うんですかね。恐ろしく単純な思いつきなんですけど(笑)。」
そんなきっかけでルアーの仕事を始めた佐々木さん。ご自身の会社《YOSHINAGA BASE》ではどんな事業をおこなわれているのでしょうか?
「基本的なメインの業務は、ルアーのブランドさんから開発・デザインの依頼を受けるというのがあって。いいねっていう試作品になるまで試作とそのデータの更新を繰り返して、最終的にそのデータをお客さんに納品するというところまでが一括りで。その後、そのお客さんのニーズに合わせて生産先を斡旋したりとか、あとは工場の立ち上げだったりとか、コンサルティングですね。技術指導であったりとか、そういったところが今メインです。本当は旅行業の準備をしていたんです。ルアー売って"あとは頑張ってね"じゃなくて、"釣れたね、よかったね"というところまでコーディネートしてあげられたらいいなということで、旅行業も準備してたんですけどコロナのおかげで始まる前に終わりましたね。」
そして、この旅行業の準備の段階で 佐々木さんはあることに気づきます。
「コロナの頃ですね。今思えば繋がってたんだなと思うんですけど、そういうネイチャーツアーの話をするにあたって、漁協さんであるとか現場ですね。魚を管理してる人たちとの接点というのもちょっとできて。彼らの活動の様子を見ると、すごく低予算の中で手弁当で皆さんやられていることに気づきました。そこがインスピレーションのまず1つ目ですよね。もうちょっと自主財源っていうか、そういう漁協さんが自分たちで売る商品を提供してあげて、それをまた財源にできたら川、フィールドが肥えてくじゃないですか。そうすると、今まで手がかけられなかったことも手をかけられたりとか。それをどうにかしてくアイディアはないかなと思った時に、自分にできることと言ったらルアーを作ることぐらいだったんで。」
佐々木さんがルアーを作り、それを漁業協同組合、または漁協と紐づくショップが販売。その利益のうち、例えば、漁協が販売した場合は50%を漁協が得る。そんな仕組みが考えられました。そして、実際に『SHIMEY』と名付けられたルアーの販売がスタート。
「里川の風景をイメージした時に、山紫水明の里というキーワードが浮かんできて。山紫水明から紫明という言葉を抜いて、あとは魚を増やすという使命を帯びたルアーという、その2つですね。」
山紫水明。まさに美しい風景の中を流れる川に魚を増やす、という使命。このルアーが売れることで、どのくらいの成果に繋がるのでしょうか?
「いま餌代とかそういうのが高くなってきちゃってるんであれなんですけど、当時でいくとルアー2個売れれば1キロの魚を川に離せたんです。ニジマスとか鮎とかあの辺で150グラムから200グラムぐらいじゃないですか。なんで1キロって言えば5~6匹。」
現在は、静岡県・神奈川県・京都府の河川の漁業協同組合やその漁協に紐づくショップで販売されるなど、広がりを見せているSHIMEY』。最後に、今後のヴィジョンについて佐々木一樹さんに教えていただきました。
「僕のこの活動を見てインスパイアを受けて、独自に保全活動っていうのを始めたお客さんもあったりとか。僕は僕のスタンスで無理のないペースでとにかく続けていくことかなと。で、現場に足を飛び続けるという。ライフワークとしてこれを続けてくうちに、そうあるべきだと思う人が自分たちのやれる範囲内で、色んな地域でちっちゃくていいので、そういう人たちが繋がってくれて、気がついたら大きいうねりになってる。で、それはもう当たり前のことになってました、というような自然な流れで変わってくれるのがいいのかなと思っています。」