今回は、長野県飯綱町の廃棄予定のリンゴなどをアップサイクルした新素材、『りんごレザー』のHidden Story。

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『りんごレザー』は、動物の革を使用していない、いわゆる合成皮革です。合成皮革とは、レーヨンなどの生地にポリウレタン樹脂をコーティングしたもの。そして、この樹脂は一般に石油が原料となっていますが、ここにリンゴの粉末を混ぜることで、石油由来の原料を削減できる。それを実現したのが『りんごレザー』です。今回は、この素材を開発した、 株式会社SORENAの代表伊藤優里さんにお話を伺いました。まずは、『りんごレザー』を開発しようと考えたきっかけはどんなことだったのでしょうか?

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大学を出て食品会社に勤めていたんですけれども、10年間くらい勤める中で3つのことに疑問を感じておりまして。1つ目が、輸入の原料が非常に多くて。長野県は本当にフルーツの豊かな県であるにも関わらず、なぜなのかな?と。もう1つは、せっかく国産の原料が届いても、車の中で虫が湧いてしまったりだとか傷になってしまったりということで、そのまま廃棄場に持っていかれてしまうという現実が続いていて、それを目の当たりにしてきていたというところとですね、2019年の台風19号・大きな台風が長野県内であったんですけれども、長野県は堤防沿いにたくさんリンゴが植えられているんですが、そのリンゴが本当に泥まみれになってしまって悲惨なことになってしまって。それを見て、自分として何かできないかなと。」

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台風で被害を受けたリンゴ農家の皆さんのこと。さらに、以前から感じていた輸入の食品に頼るのではなく、長野県をはじめとする国産の農産物を応援したいということ。さらに、傷などによって廃棄されてしまう食品がたくさんあるということ。こうしたことについて思いを巡らせていた伊藤さん、東京で開催されたサステナブルな輸入素材の展示会である素材を目にします。

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「サステナブルな展示会で、パイナップルレザーだとかバナナクロスだとか、そういったものがたくさん並んでいました。 それを見て、長野でりんごレザーできるかも、と思ったんですね。」

伊藤さんは、2021年の4月に会社を設立。すぐに、りんごレザーの開発プロジェクトをスタートします。しかし、その時点で伊藤さんに合成皮革を作る経験はありませんでした。

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「まず私は自分でやってみないとと思って、県内の工業技術総合センターという施設がありまして、そこは機材や設備をお借りして試作をするといったような施設なんですけれども、当時同じことをやっている方はいなかったんですね。食べ物の残渣を活用して工業製品にしていくというプロセスを踏んでいる方は周りにいなかったので、教えていただける方がいらっしゃらなくて。本当に0から1で、どういう風に作っていくのか、どういう製法が適しているのかとか、どういうところを目指していくのか、どなたにご相談していくのか、というのはとても難しいところはありましたし、使う機材も工業製品用ではなくて食品用とか。で、それをまた量産用にしていくとか、ちょっといろんな座組を組んでいくというところにおいても結構課題はすごくあって。」

伊藤さんは、海外の文献を調べるなど独自に研究を重ね、試作を続けたそうです。そんな日々を超え、ようやく『りんごレザー』が完成しました。2022年の3月からは、大手の合成皮革メーカーと協業を開始。また、飯綱町で廃棄されるりんごやジュースのしぼりかすなどを原料として使えることになりました。

飯綱町って本当に人口およそ1万人しかいない過疎認定されている地域ではあるんですけれども、日本ではリンゴの1パーセントの生産量を誇っているんですね。そして、日本一のリンゴの町を目指すと銘打っている町なので、この廃棄の部分までも日本一というところを謳っていくことができればいいのかなと思っています。飯綱町は、本当にリンゴ愛がすごいんです。人もいいですし、リンゴもめちゃくちゃ美味しいです。もうちょっとこれだけは本当に言っとかないと、めちゃめちゃ美味しいです。

美味しいリンゴを生産する町だから、廃棄されるリンゴも無駄なく活用したい。株式会社SORENAでは、『りんごレザー』を素材として様々なメーカーに提供するほか、自社ブランド【RERIGO】を展開しています。

長野県北部、飯綱町で廃棄される予定のリンゴなどから『りんごレザー』を作っている、株式会社SORENA。代表の伊藤優里さんに、ここまでの事業についてどんな感想をお持ちなのか、最後にうかがいました。

「私の中では、まだまだ全然100点満点ではないけれども、ただやっぱり地元の方が非常に興味持ってくださって"これなんだ!"と手に取ってみたいだったり、"使ってみたい"と言っていただけるということもありますし。あと、私が一番よかったなと思うのは、このりんごレザーを公開してから、都会に引っ越していって上京していった地元の若い世代の方々だったり、例えば30代の方で"私はアパレルをやってきたけれども、ご実家がリンゴに関係する仕事をしているから、そのルーツに戻って私も何かできないかと考えた時に、りんごレザーを見つけてコラボして何かできないか"とか、このりんごレザーを知って、ちょっとこっちで活動してみたいという方がすごく思った以上に多くて、それが私の中ではやっててよかったなって思ってます。」

RERIGO