今回は、靴下の生産量が日本一の町、奈良県の広陵町にある、『株式会社 創喜』の靴下づくりに注目します。
まずは、奈良県の広陵町で靴下の生産が盛んになった背景について、『株式会社 創喜』の中川依子さんに教えていただきました。
「始まりは、明治時代の当時の農家の人たちが大和木綿を使った織物などで農業以外の収入を得ていたんですが、明治維新をきっかけにインド綿が日本に輸入されることで綿の栽培が衰退していってその収入を得られなくなったんです。そこで、新しい収入の形として、糸の商人の吉井泰次郎さんという方が海外から靴下を作る手回し機を購入して。で、農家の女性の人たちに靴下の製造をしてもらったのが広陵町で靴下が広まった最初なんですね。その後、戦後、高度経済成長期にかけて、生活様式が変化してナイロンなどの合成繊維の糸が広まってきたところで一気に靴下の生産量が上がって、広陵町にも靴下工場が増えていきました。やがてそこから靴下生産量日本一の町になっていった次第です。」
創喜のそもそもの始まりは、そんな広陵町に、昭和2年、1927年、現在の代表、出張耕平さんの曽祖父が創業した『出張靴下工場』。いわゆるOEM=他のブランドの靴下を製造する仕事を中心におこなってきましたが、2009年に屋号を『創喜』に改め、やがて自社ブランドでの靴下作りが始まります。
「現在の代表取締役の出張耕平が家業を継ぐ形でこちらに来た時に、何か自社ブランドの靴下を作りたいというのがきっかけで。当時、工場にあった編み機を見て、自分の好きなローゲージソックスを自社ブランドとして販売しようとしたのがきっかけですね。今の創喜の靴下の大きな特徴として、網目が大きくて肉厚なローゲージソックスが特徴になってます。網目が大きいので、空気が膨らみやすいので、ふっくらとした柔らかい履き心地が楽しめる靴下になってます。ローゲージというのは、編み機の針の数のことで区別をされるんですが、ローゲージ編みだと糸も太い糸で編めたり、使う糸の数がたくさん使えるために生地が丈夫になってまして、ずっと履いていても長持ちします。生地が厚いから冬向きの靴下と思われがちなんですが、生地が厚いからこそ汗などを吸収しやすく蒸れにくいので、夏にもおすすめになっています。」
ヴィンテージの編み機によって太い糸でざっくり編まれたふっくらとしたローゲージの靴下。実際に工場で編み機を扱う職人さんは、何人ほどいらっしゃるのでしょうか?
「4人ぐらいいです。ただ、あくまでも編み機を担当している職人が4人なんですね。靴下は、筒状に編まれるので、先の方は穴があいている状態なんです。そのつま先部分を閉じる作業をする職人もいいますし、靴下を編み上げた時に返しという工程もあるんですけども、それを専門にする職人もいたり。あと、靴下の形を熱を加えて、市場で売られている靴下の形に整えるセットという工程があるんですけども、それを担当する職人がいたり、もちろん検品をする職人がいたり、多種で多様な工程と職人がいます。」
それぞれの工程の職人さんの技が詰まった創喜の靴下。いくつかのブランドを展開されていて、それぞれ、【SOUKISOCKS】【SUNNY & SNOWY】【ReLoop】【aiamu】と名付けられています。
「SOUKISOCKSは、シンプルで上質な履き心地を楽しめるデイリーユースの靴下で。 ReLoopはリサイクルコットンを使って、環境・サステナブルを意識したカジュアルなデザインが多いブランドになってます。一方で、SUNNY & SNOWYは、暑さや寒さの温度調整をできるニットアイテムを揃えたブランドになってます。aiamuは、奈良県の靴下工場で、奈良県産の吉野葛からできた糸で編んだニットアイテムを徳島県の藍染めで染めて、機能性と美しさが備わったブランドになっております。aiamuは、ひとつひとつ藍染めで染めているため、それぞれ商品の表情が違います。また、使用して洗うごとに少しづつ藍が枯れ、色の落ち着きや風合いが変化するのが魅力です。」
このように、さまざまな靴下作りをおこなう創喜ですが、もう一つ、《チャリックス》というワークショップも展開されています。
「チャリックスというのは、簡単に言うと工場で使われている靴下の編み機に自転車を融合させたもので、お客さんが自転車を漕ぐことでオリジナルの靴下が完成する創喜のオリジナルのマシーンです。簡単な体験の流れを説明しますと、今体験できる施設ですと、36色の糸を用意してまして、そこから綿の糸を好きな色3色選んでいただきます。で、そこから吉野葛の和紙の糸とシルクの生糸の計5本で靴下を編んでいきます。7分から8分自転車を漕いでいただければ、片足分が編み上がります。すると、創喜が得意としているローゲージ編みの靴下ができまして、出る靴下の色もランダムになってますので、世界で1つだけの靴下が楽しめるようになってます。」
こちら、現在は、奈良県広陵町の『くつ下たのしむ実験室 S.Labo』で実施されているそうです。
いろいろお話うかがってきましたが、最後にあらためて 創喜のローゲージソックスの魅力、そして今後のビジョンについて、中川依子さんに教えていただきました。
「愛着が湧く、というのが1番じゃないかなと思ってます。日常の生活の中で、ちょっといい靴下を履いてもらってワクワクした気持ちとか、いいものを身に着けてるなというちょっとした幸福感みたいなもの感じてもらえたら嬉しいなと思って、私たち作っております。目標としては、奈良の観光のお土産として創喜の名前が上がるようになってほしいので、靴下を作ることはもちろんなんですけども、靴下をより知って深く楽しんでもらえるような体験も考えていきたいなって思ってるんですね。なので、チャリックスがもっと体験できるような場所を増やしていきたいですし、いつか広陵町にもっと人が来てもらえて、靴下っていいな、靴下にまつわる仕事をしたいなと思ってもらって、未来の靴下職人を作っていけたらいいなと思っております。」