今回注目したのは、ツーリストシップ。
「ツーリストシップというのが、スポーツマンシップやリーダーシップから着想を得たもので、旅先に配慮したり貢献しながら交流を楽しむ姿勢やその行動を指します。」
そう語るのは、一般社団法人ツーリストシップ 代表理事の田中 千恵子さんです。田中さんがツーリストシップという言葉を考えつくきっかけは、京都の大学に通っていた頃の経験でした。
「私、生まれは千葉なんですけども、その後、埼玉に越したり一時台湾に住んだりですとか、でも大体は関東圏内にいたんですけども、大学で京都に引っ越しまして。京都に住んでいる人たち、自分も含めてですが、必ずしも旅行者が来てほしいわけではないんだな、来ることによって生活がしづらくなるっていう面もあるんだなと。中には旅行者に来てほしくないと思っておられる方もいらっしゃるんだなというのを大学時代に知りまして。そんな中で、私たちのこの普段の旅行の仕方、何気なくいろんな友達ですとか家族と旅行をするという行動自体が、旅先に良くも悪くもいろんな影響を与えてるんだなということを知りました。」
京都に暮らす中で感じた、旅行をすることが旅先に与える影響。田中さんは、こんな行動に出ます。
「まずは何が起きてるかを理解しようということで、新聞ですとか、本ですとか、論文をひたすら読みまして。プラス、ヒアリングですね、神社仏閣の方ですとか、市役所の方ですとか、その近くにお住まいの方ですとか。実際に問題になってるような、例えばゴミのポイ捨てが問題になってるエリアとか、混雑が問題になってるエリア、そのエリアに行って、どういう状況かっていうのを観察したり、インタビューしたりというのを続けました。その中で私がすごく感じたのは、ハード整備。というところも、例えばバスが混雑しているのであればバスの数を増やしましょうですとか、ゴミ箱を置きましょうですとか、ハードの整備の部分も大事なんですが、それ以上に、旅行者がちょっとしたことを気をつけるだけで住民の方の生活がかなり改善されるんじゃないかということに気づきました。例えば、住宅街の近くにある民泊に泊まるときは、早朝ですとか夜間に少し静かにしてもらう、騒ぎすぎないということをしていただくだけで、住民の方は安らかに寝ることができるっていうことが分かりまして。例えば、スーツケースを持ってる時は、邪魔にならないようにちょっと自分の近くに引くとかですね。そういった1個1個の気遣うような動作があれば、住民の方は暮らしやすいんだな、というのをすごく感じました。私としてはですね、オーバーツーリズム、観光公害と言われるような問題を見た中で、もっと旅行の仕方、ソフトの1人1人の行動に注目をすることで、この問題をなんとか改善していけないかなという風に考えるようになっていった、という感じですね。」
ハードの整備も重要だけど、1人1人の行動によって課題を改善できるのではないか?田中さんは社団法人を立ち上げ、そして、【ツーリストシップ】という言葉が生まれます。
「元々、法人を立ち上げたのが2019年でして。観光客も住民もお互いに寄り添っていきましょう、というような形でずっと発信を行っていたんですが、すでに観光業界にはレスポンシブルツーリズムですとかサステナブルツーリズムという言葉があるんですけれども、そういった言葉はなかなか分かりづらかったりですとか、ちょっと一般の旅行者からするとフォーマルすぎるな、というのを感じましたので。もっとカジュアルな言葉があった方がいいんじゃないかなというのを、コロナ禍の時にすごく考える時間がありましたので、考えて。2021年にツーリストシップ、というのを打ち出したというような感じですね。」
【ツーリストシップ】という言葉を打ち出した田中さん。では、その言葉・考え方を広めるために、具体的には、どんな活動をされてきたのでしょうか?
「ツーリストシップというものを知ってもらうために、いろんな取り組みをしています。例えば講演ですとか研修ですとか、あるいは観光地にですね、北海道から沖縄まで仮設ブースを出して、クイズアトラクションというようなイベントを開いて、旅行者の方にそれぞれの地域で発揮してほしいツーリストシップをお伝えするというような。旅先クイズ会と言うんですけども、そういったイベントを開くというようなことをやっております。」
旅先クイズ会。そこでは、どんなクイズが出題されているのでしょう?
「1個1個の場所によって変えてまして、例えば京都の錦市場というところはゴミ箱がないんですね。食べ歩きも禁止しているところなんです。なので、この町では食べ歩きをしてはいけないよ、ということを伝えるクイズですとか。あるいは、二条城が京都にあるんですけども、二の丸御殿という建物の中では写真撮影が禁止になっておりまして。それはなかなか知られていないので、クイズを通して、この中では写真撮影がダメなんだよ、ということをお伝えをしたりですとか。あるいは、東京の墨田区のスカイツリーの近くでやった時は、あの辺りは民家の中にゲストハウスがたくさんあるような場所なんですけれども、夜間の騒音が問題になっておりますので、夜に住宅街へ入るときは静かにしてくださいね、みたいなことを。これ言うとすごく面倒くさそうというか堅いなという感じするかもしれないんですが、クイズでいかに楽しくこれを伝えるか、ということを意識してクイズを出しております。」
この旅先クイズ会、スタートした当初はなかなか苦戦されたそうですが、今や、一日に数百人もの方が参加する 人気のイベントとなりました。【ツーリストシップ】という言葉、そして考え方を広める活動を続ける田中 千恵子さん。最後に、旅行者と地域住民、どうすればうまくいくのか?こんな提案をいただきました。
「そうですね。お互いの気持ちをやっぱり考えるということに尽きるかなと思ってます。旅行する時は、旅先にも住んでる人がいるというのをまず想像して旅行しましょうと。そこに住んでる人を、暮らしてる人がいるので、その方々に配慮したり貢献できることはしていきましょう、ということがすごく大事かなと思います。例えば京都で言うと嵐山ってかなり有名な観光地があるんですけども、すぐ近くにたくさん住んでる人がいらっしゃるんですね。そういった方々の気持ちを少し配慮して旅行するだけで、だいぶ変わってくるかなと。一方で、住んでる方々も"また旅行者たくさん来て..."みたいな形で、ちょっと嫌な気持ちが積み重なっていくことあるかもしれないんですが、お互いにお互いの立場になることを想像して、旅行者の時は住民の、住民の時は旅行者だった時のことを思い出して、行動を移してみるといいのかなという風には思います。」
*旅先クイズ会では、運営に参加するボランティアスタッフも募集されています。海外の方とお話しする機会、違う文化に触れる機会、、、いかがでしょう?
旅先クイズ会の開催スケジュールやボランティアについてはツーリストシップの公式ウェブサイト、ご覧ください。