今回注目するのは、宇宙ベンチャー企業『天地人』。天地人が開発した、衛星からのデータを使って、水道管の漏水リスクの診断をするシステム、【天地人コンパス 宇宙水道局】のHidden Story。

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株式会社 天地人の代表取締役社長 櫻庭康人さんにお話を伺いました。まずは、天地人が水道管の漏水リスクにまつわる事業を始めたきっかけを教えていただきました。

「日本のインフラは整っているので、天地人としては全然問題ないという認識だったんです。むしろ発展途上国とかそういったところの方が、水道管をこれから引いたりとか交換したりとかするのに課題が多いと思っていたんですけど、愛知県豊田市の水道局の担当者の方をご紹介いただいて、そこでお話する中で"水道管は問題だらけだし老朽化も進んでいて、もう今すぐ分析をして、どう効率よく検査するかサービスを作ってくれと言われたのがきっかけになります。」

日本全国の水道管の総延長は、74万キロメートル。このうち、法定耐用年数の40年を超えるものは16万キロ。点検が追いつかず、年間2万件以上の漏水事故が発生しています。

愛知県豊田市の担当者から、漏水を効率よく検査するシステムを求められた櫻庭さん。天地人の技術スタッフとともに、どんな方法が考えられるのか?検討を始めました。

「まず衛星データをいくつかピックアップしてきて、水道管に影響を与えているものの因果関係ですとか、そういったものを調べるところからスタートして。例えば地表面温度を測る衛星がありまして、いま温暖化でアスファルトが真夏ですと70度ぐらいまで上がってたりするんですけども、地面が70度の時に大体地下10メートルぐらいまで温度は伝わるっていうのが論文でも出ていて、水道管ってだいたい1メートルぐらいに埋設されてるんですけども、水道管に熱が伝わって老朽化が進む原因にも繋がりますし。

あと、地震がよく起きると思うんですが、地面って結構な頻度で上下していて、これが水道管を物理的に動かしながらジョイント部分をずらしたりとかするので、そこが漏水の原因に繋がりやすい。また、自治体の職員の皆さんにもどういうところで漏が起きやすいですかというところをずっとヒアリングして。あとは衛星以外の地上の、我々地上のデータと呼んでいる、地質ですとか人口分布ですとか重要な施設の場所ですとか、そういったものを調べながら、あとは自治体様の方で管理しているデータ、どこ漏水していたかというデータを持ってるんですけども、そういったものも全部あつかき集めて。

水道管の漏水に影響することが考えられるデータおよそ50項目を、AIで分析するシステムが考案。2022年、実証実験がスタートします。

分析結果を僕らの方で提供して、実際に漏水の音調調査。音調調査というのはヘッドホンにインプットがあって、センサーなんですけど、地面に聴診器のようなものを置いて水の音がするかしないか、職員の方は漏水を探す形で1メートルおきに水道管の上を歩いて。その音調調査される会社様がいらっしゃるんですけど、そちらに検査していただいて、答え合わせをしっかりと第3者にしていただくということを行いまして。それで結構高い確率で見つけられたので、これはいけるぞ、と思ったというところはあります。」

天地人では、漏水リスクを100メートル四方で、AからEまでの5段階で評価。これによって、リスクの高いところをピンポイントで点検することが可能になりました。

「リスクの高いところだけ絞り込んでも、その自治体さんの中での水道管全体の大体2パーセントから6パーセントまで絞り込みができる形になっていまして、そこを検査して回るだけでも、実績ベースで前年度の漏水の発見よりも多い数が見つかたりしていてですね。全部探さなくても、もうそこ探すだけでも高い成果が出ていると。100キロ回るのか2キロ回るのかぐらいの差がありまして、あとの98キロは行かなくても済むと。そうすると、その調査する費用も削減できますし、時間も削減できると。それを他の時間に費やしたり、他の予算に使えるということで、自治体様からも高い評価いただいてるものになります。」

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2022年度に行われた豊田市での実証実験などから算出すると点検費用は最大65%削減。かかる時間も最大85%削減できたそうです。

そして、このサービスでは、漏水リスクの絞り込みに加えて、もう1つ、大きなポイントがあります。

「水道管のインフラで今、課題になってるのがDX化になります。皆さん、紙で結構管理されていて、A3サイズの地図を印刷して、現場に行って手書きで記録されてるんですよね。で、それを役所の方に持って帰って、エクセルだったり地図だったりに入力するということを改めて行うんですけども、管理方法が日本全国で異なりまして。エクセルの自治体様もいれば、紙で管理されてるとこもありますし、地図でデータベース化してるところもあってですね。これをまず効率化しないと、検査が効率化するだけだとコストダウンに繋がらないと考えまして、分析の技術開発とサービスとしての開発というのを両方2022年進めて、2023年の4月から正式にサービスリリースさせていただきました。

そのサービスの名前が、【天地人コンパス 宇宙水道局】。

これまでに、札幌市・福島市・前橋市、そして東京都など20以上の自治体が契約。水道管の漏水リスクの検知に活用しています。さらに、天地人の代表 櫻庭康人さんはこんなポイントも指摘します。

やっぱりこれ日本だけじゃなくて、世界中で同じ問題がありまして。老朽化が進んでるのってフランスとかイギリスとか、ああいう歴史のある町は同じようにどんどん水道管が老朽化していると言われていて。課題も一緒ですし、調査の仕方とかも一緒ですし。水で戦争も起きていて水が足りてないという中で、お金をかけて水道を作っているのに途中でどんどん流れていってお金も捨てている形になるんですよね。かつ、そこが足りないことで、またもらう側も水が足りなくて事業ができないとか生活ができないというとこに繋がってるので、この漏水を減らすことだけでも社会貢献の形としては大きいなという風に考えていて、日本の自治体さんだけではなくて、世界中のその漏水の対策というところに貢献していきたいなと今我々としては考えています。

最後に伺いました。衛星のデータを活用して社会の課題を解決する宇宙ベンチャー企業『天地人』。今後のビジョンとは?

「温暖化が進んできていてですね、衛星データを見て、畑の温度を見て、1年間、2年間と比較したときに、1度、2度上がってたりするんですよね。こういう問題ってまだまだ知られてないと思ってまして。思ってる以上に温暖化は進んできていると感じていますし、そこが影響して社会問題もやっぱたくさん起きてきてるな、という印象が会社としてはあってですね。で、これから温度が上がっていくと、余計問題が起きていく。それに対して、この衛星データを使って課題解決につながるようなデータ提供だったり、そのアイディアが浮かぶような分析手法だったりをしっかり提供していくことが、僕らとして社会に貢献できる形なんだろうなと思っております。」

天地人