今月3日、20年ぶりの新紙幣が発行されました。新たな紙幣は一万円札が「近代日本経済の父」渋沢栄一、五千円札は津田塾大学の創設者の津田梅子、千円札は細菌学者の北里柴三郎の肖像がデザインされています。新紙幣、もうお手に届きましたか?そもそもキャッシュレスになってお札自体を持たなくなったという方も多いかもしれませんね。ところで海外のお札はどんな方の肖像が描かれているのでしょうか。

この時間は「世界のお札事情」と題して、2つの国の番組通信員の方にお話を伺います。

●スウェーデン・マルメ在住 / 丹呉 由紀子さん

Q1 現在のスウェーデン紙幣は6種類あるそうですが、どんな方が肖像画として描かれているのでしょうか?

A1 スウェーデンに大きな文化的貢献をした、特に20世紀に活躍した人々が描かれています。6種類の紙幣のうち、男女各3人ずつ、全員が文化人であると言われています。ここには児童文学者、詩人、映画界の大スター、映画監督、オペラ歌手、平和賞を受賞した経済学者などがおり、国内では誰もが知っている20世紀の有名人と言って良いかと思います。

Q2 中でも一番身近な紙幣、身近な人物というと・・・?

A2 女性では、20クローナ札(日本円でおよそ300円)に描かれている、児童文学作家、アストリッド・リンドグレーン でしょうか。彼女の代表作の『長くつ下のピッピ』や『ロッタちゃん』は、世界で翻訳がある名作を書いた作家で、老若男女、ジェネレーションを問わず親しまれている作家です。ちなみにこのお札の右端には「ピッピ」が小さくあしらわれています。それから、100クローナ札に描かれている女優、グレタ・ガルボでしょうか。数本のスウェーデン映画に出演したのちハリウッドに渡り、そこで映画界の大スターとなった綺麗な女優さんです。アカデミー主演女優賞3度の候補!男性では、200クローナ札に描かれた2度アカデミー外国語映画賞受賞のイングマール・ベルイマン監督、「愛と憎悪」「生と死」などを主要なモチーフに、映画史に残る数多くの名作を発表した監督です。

Q3 エンタメ界の著名人も多いんですね。現在、スウェーデンの紙幣は男女が半々でジェンダーギャップが0だそうですが、そのようになったのはいつ頃なのでしょうか?

A3 現在の紙幣は2015年から導入されていますが、前回の紙幣は5種類のうち、女性は2人で、それ以前は、男性の国王が主流で、女性はスウェーデンの女神と呼ばれる架空の女性像スヴェアなどが肖像として描かれていたそうです。

Q4 スウェーデンでもキャッシュレスが進んで、 お札を使う場面は少なくなっていますよね?

A4 そうですね、キャッシュレスは至るところで進んでいます。少し前まで現金が主だったフリーマーケットや田舎の現地直売所なども、今やQRコードで支払うキャッシュレス決済が主流で、ほとんどお札は見かけません。お店やレストランでも、支払いはカードまたはQRコードのみのところが増えています。そのため、スウェーデン紙幣の肖像は誰なのか知らない人も多いのではないかと思います。

●イギリス・ロンドン在住 / 内山 昇さん

Q1 イギリスでも、チャールズ国王即位後、新札が発行されたようですが、話題になってるのでしょうか。

A1 はい、イギリスでも6月5日から、チャールズ国王3世の肖像をあしらった新紙幣の流通を開始し、ニュース等でも大きく取り上げられています。ただ、発行され1か月ほど経つのですが、私は実は一度も見たことありません。イングランド中央銀行は新札の発行は旧紙幣の破損分や追加のみに限定するという方針を取っているので、従来のエリザベス女王が描かれているお札も今後、長期間併用できるため、頻繁に見るようになるには数年かかる見込みです。

Q2 イギリスでは、昔からずっとロイヤルファミリーが紙幣のデザインに使われているのでしょうか?

A2 イギリスの切手、コイン、お札などエリザベス女王の肖像が必ず入っているイメージを皆さんお持ちだと思います。イングランド銀行は1600年代から紙幣を発行していますが、紙幣に君主の肖像を使い始めたのは、実は1960年からと意外に歴史は浅いようです。それ以前は、ライオンの絵や幾何学模様をモチーフとしたお札が多かったようです。現在の紙幣の表は君主ですが、裏面は日本同様、イギリスの歴史に貢献した偉人が描かれています。5ポンド札は元首相ウィンストン・チャーチル、10ポンド札は女性作家のジェーン・オースティン、20ポンド札は画家のジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー、50ポンドは第2次世界大戦でナチスの暗号を解読した数学者のアラン・チューリングが描かれています。人気俳優ベネディクト・カンバーバッチがチューリングを演じた映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』の主人公ですね。この4人の構成は、新紙幣もエリザベス女王時代のお札と同じデザインで変更はありません。

Q3 ちなみに、スコットランドと北アイルランドの紙幣はイギリス君主の肖像が使われていないとか・・・?

A3 そうなんです、私も同じだと最初思ったのですが、スコットランドに行ったら、通貨の価値は一緒なのですがお札のデザインが違うのを知り驚きました。同じ英国連合王国の君主なのですが、描かれていないのです。地元の偉人をモチーフにしています。スコットランドのお札は、法律的には南部のイギリス=Englandでも使えることになっているのですが、レストランやお店では断れることが多く、銀行に持っていってイングランドの紙幣に交換してもらっています。

Q4 イギリスでもキャッシュレス化で紙幣の存在感に変化はあったのでしょうか?

A4 日本では現金決済が約6割と主流のようですが、イギリスにおける決済に占める現金の割合はおよそ15%程度、かなりキャッシュレス化が進んでいます。また、現金取り扱いのセキュリティや効率性の問題で、駐車場や多くの場所で、以前から、現金取り扱いそのものを止める動きがあり、新紙幣への対応コストや負担増になるのであれば、さらにこの動きは加速するかもしれません。この他、先代のエリザベス女王のお札と併用している背景としては、環境活動家として有名な、チャールズ皇太子が、新札発行による環境面の負担増を真剣に懸念されているからでして、旧札のデザインと共通化させ、新札導入の負担を少なくすることに貢献されています。新国王であれば、ご自身の肖像画があるお札が広まり、国王の威信を高めたいところですが、No、それは必要ないというその姿勢に多くの国民が好印象を持っています。