ON AIR DATE
2017.04.16
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  • J-WAVE
    EVERY SUNDAY 20:00-20:54

☆☆☆☆☆

Find new people, new words through taravelling...

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『Travelling Without Moving』=「動かない旅」をキーワードに、
旅の話と、旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。


★★★★★
番組前半はリスナーの皆さんからお寄せ頂いた旅のエピソードと、
その旅に紐付いた曲をオンエア!
後半のテーマは「雑誌」。
本人曰く、「初めて手がけた“まともな仕事”」となった
インタビュー雑誌作りの為に世界を旅して体験したエピソード・・・
20年近く経った今でも、訓市の仕事に対するスタンスの基本となっている
ことを教えてくれた“ある人物”との出会いとは?
訓市が雑誌を愛する理由を語る。


★★★★★
番組では皆さんの「旅」と「音楽」に関する
エピソードや思い出のメッセージをお待ちしています。

リクエスト曲をオンエアさせていただいた方には
図書カード1,000円分をプレゼントします!

番組サイトの「Message」から送信してください。
手書きのハガキ、手紙も大歓迎!
日曜日の夜に聴きたい「ゆったりした曲」をゼヒお寄せください。


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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
antenna* TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛

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2017.04.16

MUSIC STREAM

旅の記憶からあふれだす音楽。
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
1

Love Me, Love Me Now / Curtis Mayfield

2

The Nightfly / Donald Fagen

3

Desperado / Carpenters

4

Someone Great / LCD Soundsystem

5

アクアマリン / Flipper's Guitar

6

I Wanna Be Adored / Stone Roses

7

Boys Don't Cry / Scarlett Johansson

8

Cranes In The Sky / Solange

9

To Here Knows When / My Bloody Valentine

2017.04.16

ON AIR NOTES

野村訓市は、どこで誰に会い、
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。

Kunichi was talking …


★★★★★★★★


僕は春と秋の2回、『STUDIO VOICE』という雑誌を作っているんですが、これのおかげで年甲斐もなく、入稿前の2週間くらい、ほぼ毎日が徹夜になります。ちょっと前までは3徹くらいへっちゃらだったんですが、今は完全に不可能になってきました。歳を取るのはやだなぁと、こういう時に思います。何しろデスクワークばかりなので、座ってるだけで腰は痛い、モニターを見すぎて目も痛いですし、老眼になってしまったので、近くのものを見る時は逆にメガネを外さないといけない。机の上には灰皿を3つ置いてタバコをずっと吸っているので、あっという間にその3つがいっぱいになるほどで、喉は痛い。飲むのはコーヒーだけなので、カフェイン過剰摂取で手が震えるほどになりますし、命を削るというのはこういうことなんだなぁと、野村訓市ではなく、ボヤキのノムさんになってしまうわけです。そういう時は、終わった時に倒れるまで酒を飲んでやるぞって夢を見ながらコツコツ赤字を入れたりしています。
この編集作業というはすごく大変で、僕は自分でライターもやるんですが、僕が出版社で知られているのは“異常に書くのが早い”ということ。それしか取り柄がないんですが、メールで依頼がきて、返事に原稿をつけて返すというのがだいたい5分・10分で、1000文字くらいなら書けてしまうんです。でも、それは自分の唯一の取り柄なので、他のライターに同じことを望んではいけないんですが、編集としてひたすら人の原稿を待ったり、それに赤字を入れたりするというのは、自分が書く時とはまったく違う作業で、本当に本当に大変です。ただ、自分より若い編集やライターから届く、海外からのルポやインタビューを読むというのはとても楽しいものです。“こいつは今、のってるなあ。文章がものすごく熱を帯びてるなぁ”とか、“こいつは眠いから最後思いっきり手を抜いてるぞ”とかももちろんわかってしまうんですが、いろんなことを好きにやらせて、若い人向けに雑誌を作っていくというのが目的なので、余計な口を出さずに見守るというのが大事。でもそれが一番難しいです。ただ、自分も昔、随分とやりたいことをやらせてもらったので、なるたけ僕はそれを返したいなぁと思って、何でもかんでも自分が取材に行きますとか、海外に行ってきます、とは言わないで、そのお金を若い子に回してます。そうすると初めて行く国や街で仕事をした若い子たちの反応というがすごく初々しくて、たまにこそばゆいきぶんにもなりますが、そんなメールとか原稿が来ると、自分もそうだったなぁと思い出します。いまの彼らの歳だった頃の、自分の気持ちがオーバーラップしてきて、だんだん涙でモニターが滲んで・・・くることはないんですが、いいなぁ若いって、と、夜中に一人ニック・ドレイクなんかを聴きながら暗い中カリカリやってるわけです。今の世界というのは若い世代にはどう見えているのか。情報がなかった僕らの時代と違って、驚きとか感動は減ってしまったのか。僕が見る限りそんなことは決してないと思います。なぜなら、気分が浮いてる様子や興奮している様子というのが、彼らの文章や写真から感じ取れるからです。雑誌というのはそういう知らない人からきた手紙の束なんじゃないかとたまに思います。ただの文章と写真ですが、そこにはたくさんの時間と努力がかかっています。それが1000円以下で買える。だから僕は雑誌がとても好きです。



★★★★★★★★

僕が一番最初にやったまともな仕事は「スプートニク」というインタビュー雑誌で、26歳のその時出会った人たちとの経験が、まだ僕を編集やライターという仕事に就かせているんじゃないかなと思います。ブライアン・イーノのメールとかもそうで、そういう思い出がずっと残っていて、いい仕事だなと思うんですが、もう一つランキンという人に出会ったのも大きかったです。彼はDAZED & CONFUSEDというファッションとアートの雑誌を、、自分と仲間で学生時代に立ち上げて、僕が会った時はもう売れに売れてる時代でした。僕はカメラマンとしてのランキンより、むしろ学生時代に仲間と手持ちのお金で雑誌を立ち上げて、数年でIDとかそういうメジャーの雑誌と並ぶような国際的な雑誌を作ったということにすごく興味があって、ランキンに会ってみたいなと思いました。ただ、イギリスの仲間に聞くと『あいつは売れてるだけに本当に嫌な野郎らしいから、絶対に会わない方がいいぞ。』とか『撮影に遅れてきてフェラーリを見せびらかしてる嫌な成金野郎だ。』とか、やっかみもあったと思いますが、ろくな話を聞かないんです。それでも雑誌の話を聞きたいと思って、リュックを担ぎ、調べた雑誌の事務所まで一人で行きました。入り口に受付嬢がいまして、『ご用はなんでしょうか?』『僕は日本からきたこういうもので、雑誌を作りたいからランキンさんにインタビューがしたい。』『アポは何時でしょうか?』当然アポなんてありません。そうやってアポ無しで来る人ってあんまりいないので、すごく困惑していました。そしてとりあえず編集部につないでくれたんですが、そうすると次は編集部の方が現れて『ご用は?』と聞くので、また同じ説明を長々としました。すると『私じゃ判断がつかないから、ランキンの秘書と話してみたら?』そこでまた僕は、『雑誌をやろうと思ってるんだ、だからまだない。でもこういう理由で、こうで、こうで。』と。秘書の方はすごい親切だったんですけども、『当然、いきなりは無理よ。企画書を作って連絡して、こちらのスケジュールを言うので、もし機会があったら。』でもそんな機会なんてないじゃないですか。そんな時に秘書の方が『実は本人が今、部屋の中にいるから挨拶だけでもしてく?』と言ってくれたので、ぜひと。中に入るとイケイケな感じの兄ちゃんがいて、口の聞き方も悪いんです。英語ですが、日本語に訳すと『おめぇ誰だ?何しに来た?』みたいな感じなんです。でも、また僕はこうで〜と同じ話をし始めると、黙ってそれを聞いてくれました。すると急に秘書を大きい声で呼び出して、彼女が来ると『おい、次の打ち合わせは全部キャンセルだ。このにいちゃんに30分やる。おまえ、今俺のインタビューできるか?』『できます!』と言って、慌てて大きいリュックからノートと録音機を取り出して、結局1時間30分話してくれました。口調はものすごく悪いんですが、とても親切で、なんでこんなに親切なのか不思議に思って、最後に聞いたんです。『大事な打ち合わせまでキャンセルして、なんで僕のインタビューを受けてくれたんだ?』『そりゃ、俺がおまえと同じように雑誌を始めたからだよ。金も経験もなかった。だから自分は、自分がしてもらったことを同じような若い奴にするまでだ。おまえも頑張れよ。』そう言うとまた秘書を呼び、『こいつが使いたい写真は全部タダで使わせろ。』と、ケイト・モスだの、ネガまでくれました。そして『またな。』と言って出て行きました。とても勇気をもらいましたし、雑誌って、もしくは若い子が集まって何かをやるって素晴らしいことだなと思いました。こういう伝統というのが今の20代、10代、そして次の世代まで繋がっていったらいいなぁ。その一心で老体にムチを打って徹夜をする、今日この頃なわけです。