ON AIR DATE
2018.03.18
BACKNUMBER
  • J-WAVE
    EVERY SUNDAY 20:00-20:54
TUDOR logo

Theme is... BERLIN


『Travelling Without Moving』=「動かない旅」をキーワードに、
旅の話と、旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。


★★★★★
番組前半はリスナーの皆さんから送られた
手紙、ハガキ、メールをまとめてご紹介!
旅のエピソードと、その旅に紐づいた曲をオンエアします。

後半のテーマは先週に続いて「ベルリン」。
ウェス・アンダーソン監督の新作、
『犬ケ島』の「ベルリン映画祭」出品で訪れた今回のベルリン...
ウェスを始め出演者やスタッフと過ごした濃密な数日について語ります。



★★★★★
番組では皆さんの「旅」と「音楽」に関する
エピソードや思い出のメッセージをお待ちしています。

手紙、ハガキ、メールで番組宛てにお願いします。
メールの方は番組サイトの「Message」から送信してください。

リクエスト曲がオンエアされた方には番組オリジナル図書カード、
1000円分をプレゼントします。
皆さんからのメッセージ&リクエスト


_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
antenna* TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


2018.03.18

MUSIC STREAM

旅の記憶からあふれだす音楽。
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
1

Without Your Love / Bobby Caldwell

2

04:00 / The Toys

3

Just The Way You Are / Diana Krall

4

Behind The Wall / Tracy Chapman

5

いかれたBaby / フィッシュマンズ

6

She Is Dancing / Bryan Kelly

7

Cassiel's Song / Nick Cave

8

Layla (Piano Exit) / Derek & The Dominos

9

How Can I Put Out The Flame (When You Keep The Fire Burning) / Candi Stanton

2018.03.18

ON AIR NOTES

野村訓市は、どこで誰に会い、
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。


Kunichi was talking …


★★★★★★★★

ベルリンで散歩をした後に夜になって、最初の夜っていうことで映画のスタッフを集めた夕食会となりました。僕は【ウェス・アンダーソン】という監督の『犬ヶ島』というストップモーション、コマ撮りで撮るアニメの映画に参加しまして、そのために「ベルリン映画祭」に行きました。この夜は監督のウェスが音頭をとって、大きくはないレストランですけど貸し切って、20人くらいですかね、映画に出演した俳優から音楽監督、プロデューサー、そしてウェスのことが大好きなブランドのAPCのジャン・トゥイトゥとかもパリから駆け付けまして、みんなでご飯を食べました。まあ映画といっても先ほどお話ししたようにコマ撮りのアニメなので俳優といってもみなさん声だけの出演ということで、今回初めて会う人も沢山いました。主人公の少年の声をやったコウユウくんや、犬の声で出演したリーヴ・シュレイバーやティルダ・スウィントン、ボブ・バラバンなんていうのはこの夜、初めて会いました。ウェスの友人っていうのはいい感じの人が多くて、とても和やかだったんですけど、ここで懐かしい人にもたくさん出会いました。映画の『ハエ男』で有名なジェフ・ゴールドバムっていうのはウェスの前作『グランド・ブダペストホテル』の撮影の時に、同じホテルに泊まって毎日一緒のご飯を食べていたので、「おぉ久しぶり!」ってなりましたし、女優のグレタ・ゲーウィックっていうのは久しぶりでしたけど、昔友人の結婚式で一緒になって12時間かけて夕飯を食べた仲です。その中で一番嬉しかったのはビル・マーレイと会ったことでした。僕は30歳の時でしたからもう15年近く前になるんですが、『ロスト・イン・トランスレーション』という映画の時に一緒に仕事をしていました。その時僕は端役でカラオケのシーンに出なきゃいけなかったんですけど、ボブと一緒にRoxy Musicの「More Than This」を6時間くらい歌いました。撮影後の打ち上げで貸し切った中華料理屋にDJブースみたいなのがあって、一番初期型のiPodに古いディスコ系の曲を沢山入れていて、それをかけながら2人で何時間も踊りまくったことがあるんですけど、それ以来の再会でした。「お〜元気かい?覚えてるよ〜、立派になったなあ〜」まあ喋り方的にいうとこの位とぼけた人でして、ぐっとハグをされてポンポンと肩を叩かれました。いつもこんな感じですっとぼけた面白い喋り方をする人で、初めて会うキャストたちも沢山いる中で大分みんなを盛り上げていました。日本からは声優として参加したRADWIMPSの野田洋次郎と夏木マリさんも来ていたんですが、最初は誰も知らないし、全員外国人で、「ホームパーティーみたいなのなんだったら、行って大丈夫なのか?」ってちょっと心配していたと思うんですけども、こんなに暖かい雰囲気のディナーに行ったことはないかも、という位みなさん親切でした。そこで初めて、常に同じ人たちと仕事をする彼の元へ、なぜ、毎回毎回みんなが戻ってくるのかをすごく理解した夜でした。


★★★★★★★★

初日の夕食の後の翌日が映画祭の開会式と、それに続いてオープニング作品として映画の上映がありました。オープニングに選ばれるっていうのはとても名誉なことらしいのですが、それすら分かっていなかった僕はこの日にかなり面食らうことがありました。僕はこのウェスの映画に参加するようになったのは、そもそも、もう3年以上前のことで、ある日届いた「日本の映画を作るから手伝ってくれ」というたった1行のメールから脚本を見て、それを翻訳して、直して、背景に必要な資料を集めて、なんてことを始めまして。そのうち尺を計るために日本人役のセリフを全部録音してくれと言われて5人分ぐらいやりました。そこから、サンプルだったんだけど「クンの声は低いから悪者の政治家にぴったりだ」と言われてそのまま声優もやることになりましたし、「残りどうしようかな、クンは友達多そうだしキャスティングも全部任せるよ」と言われてキャスティングまでやることになりました。なので、3年という期間以上にとにかくやることが多くて、時差があるので夜中にやり取りなんかもずいぶんしました。まあ、キャスティングするだけじゃなくて、今度はセリフを録音しなければならないんですね。「iPhoneでいいから録ってくれ」って言われてそれを始めたんですけども、何しろ脚本は秘密で見せることもできませんし、全体の話もするなということで、みんな何のセリフなのかさっぱり分からない訳です。「これ何の映画で、僕これ科学者って書いてあるけどどんな人?」って言われてもそれを僕が説明して、こういう感じでやってくれ、っていう。静かな場所で録らないといけないので、そういう環境がある人は良かったですけど、そうじゃないと静かな場所を探して彷徨いました。新聞の編集長役をやった村上虹郎という若い俳優がいるんですけど、外で演説をするシーンがあるのでちょっとした空気感のある静かな場所で録ってくれと言われて、夜中に代々木公園で延々と録ったり、まあいい思い出ですけど。最初はニューヨークで仕事が始まって、人形の撮影が始まってからはロンドンに集まって会議をしたり、セリフを書き直したり、録り直したり。随分とこの映画のために海外に行きましたが、製作自体が長く終わりのない旅のように思えてました。それでも必死にやったのは、ウェスっていう人は何を言っても「お前がそう言うなら信用する。採用する」と言うので、そう言われると逆に怖くなって必死にやるじゃないですか。もう世界の天才って言われているのは分かってますから、「君がいいんだったらそれでいいよ」って言われると、「もう1日くれ」「もう少し考えさせてくれ」みたいな。撮影が終わって編集もあらかた終わった最後のロンドンの集まりで僕はウェスに「台本共同執筆者の1人にする。それだけのことをお前はしてくれたし」と言われました。僕は「あぁ、ありがとう」と簡単に答えてしまいました。普通、監督とか何かを作る人って他人にあまりクレジットをあげたがらないので、友達として働いてちゃんと最後にそう言ってくれたことだけが嬉しかったんですけど、それがいかに大きいことだったのかというのをベルリンに着いてから実感しました。何よりも会う人会う人に「おめでとう」って言われるんです。それっていうのはつまり、作った側の人間だから「素晴らしい仕事でいい作品になったね」っていう意味なんですよね。そう言われてすごく嬉しかったですし、みんなに「すごい仕事をしたってウェスに聞いてるよ」って言われて・・・3年間、「信用する」って言葉に恐怖を覚えてがむしゃらにやってたんですけど、ウェスの信用に少しでも応えられたのかなとホッともしました。