ON AIR DATE
2018.04.15
BACKNUMBER
  • J-WAVE
    EVERY SUNDAY 20:00-20:54


☆☆☆☆☆☆☆☆

訓市がantenna*からセレクトした記事は・・・

失われつつあるアメリカを探して、ロードサイドの「休憩所」へ/a>



TUDOR logo

Theme is... TEXAS


『Travelling Without Moving』=「動かない旅」をキーワードに、
旅の話と、旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。


★★★★★
番組前半はリスナーの皆さんから送られた
手紙、ハガキ、メールをまとめてご紹介!
旅のエピソードと、その旅に紐づいた曲をオンエアします。

後半のテーマは「テキサス」。
高校時代に留学で1年間を過ごした「テキサス」...
先日、20数年ぶりに訪れて訓市が感じたこと。
ウェス・アンダーソン監督の新作映画『犬ケ島』で共演した
ビル・マーレイの貴重なライヴを鑑賞しながら思い出した
ホスト・ファミリーから学んだこと。


★★★★★
番組では皆さんの「旅」と「音楽」に関する
エピソードや思い出のメッセージをお待ちしています。

手紙、ハガキ、メールで番組宛てにお願いします。
メールの方は番組サイトの「Message」から送信してください。

リクエスト曲がオンエアされた方には番組オリジナル図書カード、
1000円分をプレゼントします。
皆さんからのメッセージ&リクエスト


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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
antenna* TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛

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2018.04.15

MUSIC STREAM

旅の記憶からあふれだす音楽。
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
1

Only The Ocean / Jack Johnson

2

This Strange Effect / The Shacks

3

Never Can Say Goodbye / Jackson 5

4

Don't Think Twice It's All Right / Bob Dylan

5

メロディ / 玉置浩二

6

Wild Horses / The Rolling Stones

7

The Piano Has Been Drinking / Tom Waits

8

Jenny With The Light Brown Hair / Randy Vanwarmer

9

Heaven / Bryan Adams

2018.04.15

ON AIR NOTES

野村訓市は、どこで誰に会い、
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。


Kunichi was talking …


★★★★★★★★

先日、久しぶりにテキサスのオースチンに行ってきました。テキサスに行くこと自体が25年ぶり。オースチンだと18歳のとき以来ですから、さらに前になります。高校の時に1年間、僕はここにホームステイで行っていました。地図にも載らないような人口1700人の小さな町で、住人は誰もが互いを知っている。白人以外の生徒といえば、僕を含めて3人しかいないという、ある意味古風な街でした。オースチンには学校の行事やアメフトの試合、ライブを見に訪れたことがありました。今回もオースチンに訪れた理由というのは、South by Southwestという、街中を使っていろんなバンドやレーベルがショーケースで演奏したり映画を見せたりする、いま世界で10番以内に入るほど大きいイベントに、僕は一緒につくっていたウェス・アンダーソンの『犬々島』という映画が選ばれていきました。ウェスもヒューストン出身で、そして大学はこのオースチンにあるテキサス大学。そもそも僕らが出会った15年前、僕が『テキサスの高校に行ったことがある』というと、自分もテキサス出身だったウェスは大喜びをして、それが意気投合するきっかけの一つだったのかなぁという気もします。テキサスの人はアメリカ人から見ても独特というか、濃いと思われがち
です。コワモテというか。ぱっと見はスタン・ハンセンみたいな人やカウボーイみたいな人が多いのでとっつきにくいんですけど、一旦知り合うととことん熱くて優しい人たちが多いです。空港に着いて、迎えの車が来て、窓の外に流れる平坦でどこか大陸感のある景色と、『大きい』としか言いようのないテキサスの空を眺めているうちに、僕はまたいろんなことを思い出していました。僕が住んでいた少し傾いた平屋の家とか、その街の風景とか。僕のホストファミリーは決して裕福ではなくて、どちらかというといつもお金がありませんでした。4人の子供の補助をして、その孫たちの面倒もみて、さらに親のいないアメリカ人の高校生を引き取って育て、そこにドイツ人の留学生がいて、そんなときに僕までやってきたわけです。預からなければいいのに預かるところが、やっぱりテキサス人のハート。僕のホストファミリーの親父は朝から晩まで工場でまじめに働く人でした。とにかく無口な人で、ほとんど喋らない。家にお金がなくなると2人で湖にナマズを釣りによく出かけました。ボートをトラックで牽引して、湖の真ん中で釣り糸をたらして数時間ひたすら餌に食いつくまで待つんですけど、その間、喋る言葉が二言三言。『引け』とか『帰るぞ』とか『錨を上げろ』とかそのぐらい。それでも、とても通じ合った親父だった気がします。僕がアメフトのコーチと揉めて家に帰ったときも、1回もバイクの後ろに実の息子も乗せてないのに、僕のことは乗っけて何時間も走ってくれました。『ちゃんと腰に抱きついて乗れ』って言われて、僕はそれがすごく恥ずかしくてなかなかできなかったことと、結局しがみついたときに、親父のシャツについていた、いつも噛んでた紙たばこの甘い匂いは、今でもよく覚えています。



★★★★★★★★

テキサスに行く前、僕は東京生まれ東京育ちで、典型的なませて、ひねくれてかっこつける、10代の男の子ならだいたいそうかもしれませんが、その中でも特にひねくれて自意識が肥大していたかと思います。それを良い意味で壊してくれたのが、テキサスだった気がします。東京者ってかっこつけたり顔に出さなかったりとかするんですけど、テキサスの人は全てが逆で、温かくって大げさでど直球。ホストファミリーに真顔で、『私たちはお前を愛してる。』とか、アメフトの試合に来て垂れ幕作って、『お前を誇りに思う。』とか。それを毎日言われると、格好つけたり斜に構えていたものがだんだん溶けていくというか、自分も同じように接しなきゃいけないと思うようになりました。人に親切されることとか、親切にすること、それから繋がりとか、いろんなことを初めて理解したのがテキサスだった気がします。そんなテキサス時代をまた思い出したのは、映画『犬々島』を上映して、打ち上げでたらふく食べて飲んで騒いだ翌日でした。俳優の1人であるビル・マーレイが『今日、ライブをするから見に来い。』と全員を呼んでくれたのです。ビルがライブということで、てっきり場末のライブハウスで飛び入りでブルースとかをやるのかと思っていたら全然違いまして、オーチャードホールのようなクラシックなホールで、舞台の上にはチェロを弾く人、バイオリニスト、そしてかなり本格的なグランドピアノでピアニストの女性がいました。最初はバッハの曲で始まったんですけど、そこからビルが出てきて、ヘミングウェイやマーク・トウェインの朗読をし始め、そのあと歌を歌いだすんですが、アメリカの古い民謡やトム・ウェイツのカバーを歌ったりという、まるで劇のようなアメリカの風景とか昔の話を、音楽を通して見えるような素晴らしいものでした。オースチンでは、レストランに入るとき偶然にニューヨークの若いスケーターの友達と会っていろいろ連れまわしたんですが、彼はSupremeという若い子に人気のブランドでモデルをやっている、HIP HOPとかパンクしか聴いてない23歳で、このクラシックホールに連れてって、ビル・マーレイが朗読を始めたときには目が点になってました。でも、終わった後に『こんなにすごいものは見たことがない。音楽とかこういうパフォーマンスって見てくれでジャッジしちゃいけないんだ。』って本当に感動しました。そのぐらい素晴らしかったです。そして僕はビルが歌うアメリカの歌を聞きながら、自分のホストファミリーのお袋のことを思い出しました。なぜなら、お袋はビルが歌った『金髪のジェニー』をよく歌っていたからです。部屋が足りずに僕が1年過ごしたのは洗濯部屋で、僕がそこで宿題をしていると、アイロンをかけにお袋が入ってきては『アメイジング・グレイス』とか、こういう歌を歌いながらずっとアイロンをかけていました。僕はその間にお袋さんとよく話をして、血の繋がらない赤の他人と暮らすということの意味と、それでも本当の家族のような絆を持つことができるということを学びました。僕が本当に思い出深いなと思うテキサスの経験というのは、その“血の繋がらない家族”で、以来、僕は世界中いろんなとこに行きながら、その血の繋がらない家族というものを探して作ってきた気がします。ウェスとかもその1人だと思います。僕はそんなことを再びビルの音楽を聞きながら思い出していました。ただ、綺麗に思い出してたわけではなくて、前の晩、ビルに散々飲まされたアルコール度数75°という、どぶろくウイスキーの二日酔いとともにでした。