ON AIR DATE
2018.09.16
BACKNUMBER
  • J-WAVE
    EVERY SUNDAY 20:00-20:54
TUDOR logo

Theme is... ニューヨークのアート

『Travelling Without Moving』=「動かない旅」をキーワードに、
旅の話と、旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。


★★★★★★★★★★
番組前半はリスナーの皆さんから手紙、ハガキ、メールで寄せられた
旅にまつわるエピソード、そして、その旅にひも付いた曲をオンエア!

後半のテーマは「ニューヨークのアート」。
全米からニューヨークにやって来たスケーターや
グラフィック・アーティスト達の作品を集めた一大展覧会、
「Beautiful Losers」の開催からちょうど10年!
その周年記念エキシビションのためにニューヨークを訪れた訓市。
学園祭気分での設営で仲間たちと交わした会話、
大盛況だったレセプションの様子、
そして、その時に感じたことについて語ります。


★★★★★★★★★★
番組では皆さんの「旅」と「音楽」に関する
エピソードや思い出のメッセージをお待ちしています。
「旅」に関する質問、「旅先で聴きたい曲」のリクエストでもOK!

手紙、ハガキ、メールで番組宛にお願いします。
メールの方は番組サイトの「Message」から送信してください。
手書きのメッセージ大歓迎!

リクエスト曲がオンエアされた方には番組オリジナル図書カード、
1000円分をプレゼントします。
皆さんからのメッセージ&リクエスト・・・ お待ちしてます!


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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
antenna* TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛

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2018.09.16

MUSIC STREAM

旅の記憶からあふれだす音楽。
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
1

In My Garage / e.s.t.

2

Terms And Conditions / Chet Faker

3

Burning / Sam Smith

4

Tom’s Diner (iTunes Festival: London 2008) / Suzanne Vega

5

晩夏 / 荒井由実

6

Beat Bop / Rammellzee Vs. K-Rob

7

Love You Inside Out / Bee Gees

8

Linger / The Cranberries

9

Don’t Miss It / James Blake

2018.09.16

ON AIR NOTES

野村訓市は、どこで誰に会い、
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。

Kunichi was talking …


★★★★★★★★★★

8月の半ばも過ぎた頃に、友人から突然、『十周年のエキシビションをニューヨークでやることになったよ』というメールをもらって、僕は仕事仲間の白い眼差しから逃げるように、4泊の弾丸でニューヨークに行ってきました。昔、ニューヨークのロウアー・イーストというダウンタウンの一角の家賃が本当に安くて、アーティストやミュージシャン志望の若者がたくさんいたころ、1人の青年が居抜きの古い店舗を格安で借りて、これまでにないギャラリーを始めました。彼はアーロン・ローズというオーナー兼キュレーターで、ギャラリーの名前は「アレッジド・ギャラリー」。オープンした年は1992年でした。そこにアメリカ中からその街に来ていたスケーターやグラフィティ、ライターといったストリートから生まれたカルチャーを愛する若いアーティストが集まって、それは「ストリートアート」として注目を集めるようになりました。スターになる人たちも現れて、やがてメインストリームとして取り込まれていくうちに、2002年にギャラリーは閉じてしまうんですが、僕はそこから登場したアーティストをリアルタイムで見ていて、本当に大好きでした。小難しくてよく意味がわからないアートより、バックグラウンドのカルチャーを色濃く残している。アートスクールに行かなくても、まともなキュレーターに無視されようとも、全く気にせず好きなように作品を作る。まさに自分たちの世代の、本当のアート。その一群のアーティストたちの作品を集めた大展示会「Beautiful Losers」というのがアメリカで開催されて、やがて同じ名前のタイトルのドキュメンタリー映画も製作されました。その時に『映画のプロモーションを手伝ってくれ』と言われたんですが、“作品を見せてもいないのに形だけ見せて何になるんだ”と思い、半年ぐらいお金をかき集めまして、このキュレーターのアーロンと一緒に、原宿のラフォーレミュージアムでエキシビションをしました。今回はその映画の公開からちょうど十周年だったんです。前回はアメリカから日本にやってきたアーティストたちと、徹夜をしながら安いコンテナのパレットで巨大な壁を作ったり、自分たちでポスターを貼ったり、どこか文化祭のようなとても楽しい製作でした。メールを見て、“あれからもう10年経ってしまったのか”という思いと、また皆んなと会ってあの空気を味わいたいなと。気づくと僕は飛行機に飛び乗っていました。そして、空港に着いてホテルに荷物を置くと、すぐにダウンタウンの「カッツ・デリ」という、昔からある古いデリで皆んなと待ち合わせをしました。僕が着いたころ、皆んなはそこの名物のパストラミサンドをガツガツ頬張っているところでした。



★★★★★★★★★★

初日は皆んなでご飯を食べて、僕だけ【時差ボケ防止】と称して朝まで飲んでいたんですが、翌日は現場に行って作業を手伝ったり、くだらない話をして1日過ごしました。オープン当時のギャラリーの看板をアーロンが保管していたので、それを基にバワリー通りにある今回の会場、「ホール・ギャラリー」の外見をなるべく当時のものに近づけられるよう、ペンキを塗ったり木の破片に黒ペンキをつけてこすってエイジングをしたりと、少しですが久しぶりに皆んなで一緒に作業をして、10年前の文化祭気分が蘇ってきました。この設営をやっていた仲間というのは、それぞれロサンゼルスやサンフランシスコ、そしてニューヨークと皆バラバラの街に住んでいて、中には10年ぶりに会う人もいました。互いに『えらく老けたなぁ』だの、『どうしたんだ、その腹』だの、男同士言い合いながら、ギャラリーがオープンする前には『10年後にもまたこれをやろう』という話になっていました。いろんな作品が集まったギャラリー内は本当に素晴らしくて、かつて僕が夢中になったアーティストたちの写真や絵、そしてオブジェが所狭しと並んでいました。同時代に育った人たちによる、とても自由でストリートの力を感じるこういうアートこそ、僕にとっては最も身近で、最も影響力のある素晴らしいアートでした。そして翌日には、6時から9時までレセプションが開かれ、“ちゃんとたくさん人が来るかな”と思って外で仲間とタバコを吸ってぼんやりしていたんですが、6時になるやいなや、ワッと人がなだれ込んできました。知った顔の古いスケーターやアーティストはもちろん、若手の子たちもたくさん来てくれましたし、子供連れのアート好きの家族や老人。もう本当にあらゆる年齢層の人たちが入りきれずに道をふさぐ事態となり、『まるで本当のアレッジド・ギャラリーに戻ってきたみたいだ』と嬉しそうにアーロンがつぶやいていました。ニューヨークはアートの本場の一つとしてギャラリーが無数にあって、毎日いろんな所でレセプションが開かれています。でも、今回ほど賑やかで雑多、そしてアートを投資対象としか見ないような人たちが集まっていない、昔のニューヨークのような雰囲気を久しぶりに味わいました。レセプションの後には二次会があって、そこからまた違うバーに移り、ビリヤードに歓声をあげる若いアーティストたちを見ながら、アーロンとしみじみ飲みました。『始めた最初の頃なんて、客はもちろんゼロで、アートなんて20ドルという値段でも売れなかった。何をどうすればいいかわからなかった21歳のガキだった自分が、みんなと一緒に育って大きくなって、アートがこうやって時代を超えて、それを人が見に来てくれる』。そんなふうに彼がしみじみと語るので、思わずハグして乾杯をしました。その乾杯は結局、バーを追い出される明け方まで続いたんですが、本当にすばらしいアートです。ネットとかで調べたら出てきますので、ぜひ見てみてください。そこにはDIY精神っていうのがどういうものか、というのが詰まっていると思います。