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訓市が antenna* からセレクトした記事は・・・
世界から届いたグルメ情報「ニューヨーク編」
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『TRAVELLING WITHOUT MOVING』・・・
「動かない旅」をキーワードに旅の話と、
旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。
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#431 --- 20年以上「定番」だった大晦日の過ごし方 ---
訓市が過去20年以上にわたって海外ではなく、
東京で大晦日を過ごして元日を迎えていた理由。
数多くの思い出が凝縮された常連店が
2022年末で閉店することになって感じたこと、
その店主から告げられたこととは?
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「旅」と「音楽」に関するエピソードや思い出の
“お便り”をお待ちしています。
「旅先で聴きたい曲」のリクエストも大歓迎!
手紙、ハガキ、メールで番組宛てにお願いします。
番組サイトの「Message」から送信してください。
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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
TUDOR TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛
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MUSIC STREAM
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
Picture Book / The Kinks
In All The Wrong Place / Ulrich Schnauss
Peggy O / Grateful Dead
Demon / Keith Richards
Sugar Man / Silent Poets feat. Terry Hall
I Think I Like When It Rains / Willis
I Love You So / The Walters
Caroline, No / Sam Gendel & Sam Wilkes
Don't Get Me Wrong / Pinky Dread
ON AIR NOTES
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。
KUNICHI was talking
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年を越してから1週間経ったわけですけども、今年は僕は年末を海外で過ごしたのですが、それは本当に久しぶりで20何年振りのことでした。なぜなら僕は大晦日を日本で過ごすっていうことが大好きだからです。もちろんその時期に海外へ行くのは高いし、わざわざお金を払って行くのも馬鹿らしいというのも理由ですけども、年越しそばを食べて初詣に行くっていうのがすごく好きなわけです。年の瀬の東京というのは人も車も減りますし、冬の澄んだ空気と相まって1年で一番空気が綺麗な時期です。寒くてもこの時ばかりは心地良いですし、花見の時期と並んで大晦日は「ああ、日本人で本当に良かったなぁ」と思う、そんな時期です。僕は1999年から毎年同じ場所で年越しそばを食べていました。実家が吉祥寺にあった40年以上前ですけども、近所である荻窪の『本むら庵』というお蕎麦屋さんによく行っていました。昔すぎて、もう長く行っていないので記憶も定かじゃないんですけども、屋根が藁葺き屋根のような建物の横には蕎麦を挽く石臼を回すための水車が付いているような古風なお店でした。子供心に「これって日本昔ばなしじゃん!」と思ったのと、やけにお蕎麦が美味しい… そう思ったので小学生になる前ぐらいですけども、お蕎麦屋さんの名前を『本むら庵』と覚えたくらい深く心に刻み込まれていました。と言っても当時は“ホームラン”だと思っていたんですけどもね、後で漢字と平仮名の“本むら庵”だっていうのを知ったんですけども。そこからずっと行かなくなったんですけど高校生の頃でしょうか? バブルだから今ほどうるさくないということで六本木や西麻布で夜な夜な遊ぶようになったわけです。当時も今も六本木っていうのは僕にとって好きな街ではないんですけども、『青山ブックセンター』という本屋があって朝5時までやっていて珍しい洋書とか写真集とかが見れたり、『wave』というポップがやたら細かくってマニアックなCDばっかり売ってるCD屋さんがあったので時間を潰せるという中で六本木は今の僕の中で、より評価が高かったのです。そんな時、ある日ふと『本むら庵』とかいてある蕎麦屋がビルの2階にあるをの見つけました。荻窪の『本むら庵』の支店!しかも値段もとてもリーズナブル!そこから僕が金が無くても六本木で美味しいご飯が食べられるお蕎麦屋さんとして、『本むら庵』は馴染みの店の1つとなりました。六本木の近くで年越しイベントがある、みんなで年越しそばを食おうって時に『本むら庵』に行くようになったわけです。それが99年のことで、随分大人数で行ったので、寒い中1時間ぐらい並んで熱燗を頼みまくって結局そこで年を越した気がしますけども、すごい楽しい大晦日だったわけですよ。まだ僕らも20代で、「今年はあぁだった、こうだった〜」って言いながら日本酒を飲むのが。
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そんな自分の馴染みになった『本むら庵』六本木店ですが、ある時突然閉まってしまいまして… 紙が貼ってあって改装するから再オープンは何ヶ月後、みたいな。もうそれも10何年前のことですが。それが『本むら庵』が漢字と平仮名の屋号ではなく、英語表記の『HONMURAAN Tokyo』となった瞬間でした。そうなんですよ、『HONMURAAN』っていうのは90年代から2006、2007年までだったと思うんですけど、ニューヨークのマンハッタンのソーホーにもあったんですよ。僕も実際行ったことがあります。僕が90年代から2000年代初頭ニューヨークに行くっていう時はもう本当にお金がなくて、毎日3回1ドルのダラーピザを食べて、大きいサイズのスナップルのピーチティーを1日中小分けにして飲むくらい金がなかったんですよ。有名な地下鉄も乗ったことないですし、なぜなら歩くからっていうくらいだったんですけども、ある日無性に蕎麦が食べたくなって、『HONMURAAN』っていうのを見つけてしまって現金握りしめて行ったんですよ。クレジットカードなんて持ってないですから。そしたらそこは日本の店と違ってものすごくお洒落で、色んな料理のメニューがあって蕎麦と一緒にワインが出てくるんですよ。要は色んな小皿を食べて最後の締めに蕎麦を食べる。今ではそういうスタイルの蕎麦屋やアメリカにもラーメン屋でそういう感じで上手くいっているお店とかがありますけども、『HONMURAAN』がそれをやっていたのは他のお店の20〜30年前の話で、とにかくびっくりしました。そしてものすごく繁盛していて、ニューヨークに住む年上の友人たちはみな常連ぐらいのお店でした。そのニューヨークの『HONMURAAN』が六本木に来るというのです。しかも向こうの店を閉めて。普通の蕎麦屋ではだし巻き卵しか食べたことないみたいな人も多いと思うんですが、僕もそうですよ。改装後の『HONMURAAN』では色んなものがありました。「クレソンのサラダはどう?」とか、「今月はいちじくサラダがありますよ」とか。締めの蕎麦メニューにニューヨーク名物「ウニそば」っていうのもありましたし、様変わりした店にはニューヨークから戻ってきたオーナーが毎晩チャキチャキとお客さんを英語でさばいていました。海外から来た友人を連れて通ううちに、オーナーとすっかり仲良くなり僕の馴染みの店となりました。特にニューヨークから来た友人を連れて行くと「ソーホーにあった『HONMURAAN』か!」って言って大喜びして、いつも「なんでニューヨークの店を閉めたんだ!」とオーナーに絡んでいるぐらいでした。そして大晦日をここで色んな友達と過ごす、時には年越し自体を店でやるっていうのが決まりごとになって、決まりごとになると変えたくないじゃないですか。去年も無事終わったのに、今年変えたら縁起悪いな〜みたいな。そして気づいたら22〜23年経っていたわけですよ。永遠に続くことはないっていうのはちゃんと理解していたんですけども、永遠に続くと思っていました。それが年末にオーナーからの電話で全てががひっくり返ったわけです。最後に言われたのが「いつまでも、あると思うな馴染みの店」。すごいショックを受けましたけども本当にその通りで、その電話を受けた次の日に僕は飛行機のチケットを予約しました。もう大晦日に日本にいる意味がないと。2023年のまだ始まりですけども、悲しいですがきっとまた皆さんの色んな馴染みの店っていうのが今年もなくなっていくと思います。代替わりの時期っていうやつだと思うんですが、いつまでも当たり前にあると思わず、行ける時に行ってその味を焼き付けてください。最後に『HONMURAAN』、そして コウイチさん、長い間美味しいお蕎麦を本当にありがとうございました!また、どこかで。
野村訓市
1973年東京生まれ。幼稚園から高校まで学習院、大学は慶応大学総合政策学部進学。
世界のフェスティバルを追ってのアメリカ、アジア、ヨーロッパへの旅をしたトラベラーズ時代を経て、99年に辻堂海岸に海の家「SPUTNIK」をプロデュース。世界86人の生き方をたったひとりで取材した「sputnik:whole life catalogue 」は伝説のインタビュー集となっている。
同名で「IDEE」よりインテリア家具や雑誌なども制作。現在は「TRIPSTER」の名で幅広くプロデュース業をする傍ら、ブルータス等の雑誌などで執筆業も行う。