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『TRAVELLING WITHOUT MOVING』・・・
「動かない旅」をキーワードに旅の話と、
旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。
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#471 --- 訓市が知るトム・サックスの素顔 ---
テーマはアーティスト、トム・サックス
先日、自身の展覧会のために来日したトム・サックス
訓市は彼とどのように知り合い、親交を深め、
今では互いにリスペクトする間柄になっているのか?
数えきれない程のアーティストに
インタビューした経験をもつ訓市が実際に感じた
他の人たちとは違うトムの個性、本質、魅力について語る。
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「旅」と「音楽」に関するエピソードや思い出の
“お便り”をお待ちしています。
「旅先で聴きたい曲」のリクエストも大歓迎!
手紙、ハガキ、メールで番組宛てにお願いします。
番組サイトの「Message」から送信してください。
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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
TUDOR TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛
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MUSIC STREAM
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
It's The Hard-Knock Life / Andrea McArdle
I Love You So (Acoustic) / The Walters
By Your Side / Ane Brun
Was / Vincent Gallo
ブッダの休日 / Buddha Brand
Around The Way Girl / L.L.Cool J
Let It Shine / Randy Newman
Rebel Rebel / David Bowie
Nobody Gets Me / Sza
ON AIR NOTES
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。
KUNICHI was talking
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今回は先日、新宿の伊勢丹で展示会をするために来日した現代アーティストのトム・サックスについて話をしようと思います。トム・サックスというのはエルメスの鞄からマクドナルドの店舗、NASAの月面着陸船まで、身近な素材、本当にゴミ捨て場で拾う物や日本で言えば東急ハンズで揃うような素材だけでそういう物を作るアーティストです。子供が工作で作るような物を大人が120%の真剣さで作ることで生まれる不思議なユーモア。僕の一番好きなアーティストの1人です。僕はこれまでに何百万回も「君の仕事は何ですか?」と尋ねられてきました。「仕事してないの?」って言う人もいるんですが、仕事せずいつも遊んでいられる超裕福なわけではなく、本当に生まれてからずっとフリーランスで、1度も定職に就いたことがない代わりに、1日12時間は必ず働いて、それから飲んでいるんですが、そんな僕の仕事のメインの1つに編集者/ライターというものがあり、特にインタビューを沢山やってきて、世界中でもう数百人にしてきたと思います。インタビューの対象というのは、尊敬しているクリエイティブな世界の人っていうのがほとんどで、僕は彼らほど物を作るという才能があるわけではないので、その代わり彼らについて書いたり、読者に紹介したりできるライター/編集者というある種完璧なポジションを見つけたわけです。どんな人インタビューしたの?って言えば、ググれば結構出てくると思うんですけども、みんな素晴らしい物を生み出しているのでインタビューをさせてもらったのですが、彼らが作った物と彼ら自身が全てが一致するわけではないということを学びました。もちろん、非常に才能があって良い人もいますし、びっくりするぐらい企業人的な人だったり、完全にビジネス志向の人もいました。でも結局のところ、それはしょうがないというか重要では無いということにも気付きました。創造的であること物を作るということが彼らの仕事であり、お金を稼ぐ方法なわけで、その他の仕事をする人たちと一緒です。世の中に数多くある仕事の一つとして、たまたま、物を創造する才能があったということだけなんですよね、残念ですけど。たまに期待がこっちの方が大きくなってしまうわけで。けれど、何年にもわたってインタビューしているうちに、毎日を自分の作りあげた作品通りの世界に生きている珍種のような人に出会う機会がありました。それが、トム・サックスです。
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僕がトムと出会ったのはもう随分と前のことです。彼の作品が大好きだったので、友人の編集者が彼のスタジオの住所を教えてくれた時、ニューヨークにいる間に不意にそこを訪れてみました。彼は僕がどこの誰か見当もつかなかったと思いますが、挨拶するために5分ほど時間をくれました。まぁその5分で意気投合してしまって、結局それは1時間に伸び、気付けば夕方。僕たちはチャイナタウンのボロいカラオケバーで一緒に酒を飲みながら歌を熱唱していました。初めて出会ったその日からトムは常に優しくて、めちゃくちゃ面白い親友の1人になりました。僕が一番驚いたのは彼のスタジオです。彼が生み出した全ての素晴らしい作品の中で、そのスタジオこそが最大かつ最高のアート作品だと僕は思っています。と言うのも、そこは彼が作品を製作するのに最適な場所なわけです。みんな同じ格好をして、作品がスイッチになっていたり、壁紙になっているような感じです。それって凄いなって思ったんですけども、何故かと言うと、例えば私たち、特に日本人っていうのはApple 製品が人気で、そのデザインと機能が注目を集めますが、作られている中国の工場はカリフォルニアのApple本社のようにデザインされていると思いますか? 工場で働いている工員全員がスティーブ・ジョブズのような服装をしていると思いますか? もちろん違いますし、それが当たり前だと思います。けれどトムのスタジオっていうのはそうではありません。まさにトムで、先ほども言いましたけども壁や床からユニフォームまで、何もかもがトムの作品と同じトーンなのです。もし彼のアートが好きな人なら、スタジオに行ったら本当に誰もが恋に落ちてしまうと思います。彼の作る物の延長がスタジオ、それこそが僕が彼をとても愛して尊敬している理由です。トムっていうのは本当に自分のアートの中に生きているわけなんですよ。1日24時間、週7日。そんなアーティストは他にまずいません。ストリートアートで凄いっていう人の家に行ったらブランドだらけだったりとか、そういうのが普通なんですよね。例えば有名なタトゥーの人で、すごい格好いいスタジオでゴシックな感じなのに、家に行ったら真っ白なイタリアの家具があったりとか。間違ってはいないんですけども、随分世界が違うなーって僕は感じてしまうんですが、トムにはそれがないんです。僕もいつまでフリーランスで働けるか分かりませんが、いつか仕事を探さなければならない時が来たら、何度も頼んでるんですけども「トム・サックス・スタジオ」で雇ってもらおうと今も思っています。
野村訓市
1973年東京生まれ。幼稚園から高校まで学習院、大学は慶応大学総合政策学部進学。
世界のフェスティバルを追ってのアメリカ、アジア、ヨーロッパへの旅をしたトラベラーズ時代を経て、99年に辻堂海岸に海の家「SPUTNIK」をプロデュース。世界86人の生き方をたったひとりで取材した「sputnik:whole life catalogue 」は伝説のインタビュー集となっている。
同名で「IDEE」よりインテリア家具や雑誌なども制作。現在は「TRIPSTER」の名で幅広くプロデュース業をする傍ら、ブルータス等の雑誌などで執筆業も行う。