「バーニングマン」
夏の記憶があざやかなのは、きっと 強烈な暑さのせいだ。
太陽の強い光と、上昇し続ける気温が
心に何かを焼きつけた。
夏の終わり、ネバダの砂漠で
巨大な人形に火がつけられる。
数万人が その火のまわりに集まる。
夏を、心に焼きつける。
Theme is... BURNING MAN
毎年8月の最終月曜日からのレイバー・デー・ウィークに
米ネバダ州の人里離れた砂漠で開催される「バーニングマン」。
全米は勿論、世界中から数万人が集まる一大イベントで
訓市が体験したユニークなエピソード、フェスの全容、
そして、訓市がかつて、仲間と共にオープンしたミュージック・エリアなどについて語る。
★★★★★
番組では皆さんの「旅」と「音楽」に関する
エピソードや思い出のメッセージをお待ちしています。
この夏の「旅体験エピソード」、そこで聴いた曲、
そして、「こういった特集をやってほしい」「あの国の話が聴きたい」
というリクエストも随時募集しています。
番組サイトの「Message」から送信してください。
ハガキ、手紙も大歓迎!
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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
Antenna TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛
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MUSIC STREAM
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
There She Goes / The LA's
1980年代半ばに結成され、約10年間にわたって活動したイギリスのロック・バンド、ザ・ラーズ。この曲は1988年にリリースされたセカンド・シングルで、美しいメロディーが魅力の名作です。
93 'Til Infinity / Souls Of Mischief
米カリフォルニア州オークランドをベースにしたヒップ・ホップ・グループ、ソウルズ・オブ・ミスチーフが1993年にリリースしたフォースト・アルバムのタイトル・トラック。訓市にとってヒップ・ホップの「オール・タイム・ベスト5」に入るとのこと。
The Things We Do For Love / 10CC
1970年代初頭、イギリスのマンチェスターで結成された4人組ロック・バンド、10CC。邦題「愛ゆえに」と名付けられたこの曲は、「I’m Not In Love」とともに日本でもお馴染みの代表曲となっています。
Midbight Sunshine / Ian O'Brien
イギリス出身のDJ、プロデューサーでマルチ・プレーヤーのイアン・オブライエン。デトロイト・テクノに触発されて1995年にデビューし、ジャズ、テクノ、エレクトロ、アンビエントなど様々なジャンルを融合させて作品をコンスタントにリリースしています。この曲は1999年リリースのアルバム『Gigantic Days』に収録。名曲です!
さよなら夏の日 / 山下達郎
訓市フェイバリットの日本人アーティスト、山下達郎のアルバム『ARTISAN』に収録され、当時、テレビCMにも使われた曲。ベスト・タイミングにセレクトしました。
Every Summer Night / Pat Metheny Group
現代最高峰のジャズ・ギタリスト、パット・メセニーがブラジル音楽に傾倒していた1989年にリリースされたアルバム『Letter From Home』に収録されている曲で、行く夏を惜しむこの時期にピッタリ!
Here Comes The Sun / Richie Havens
米ニューヨーク出身のシンガーでギタリストのリッチー・ヘヴンス。この曲は1971年リリースのアルバム『Alarm Clock』のオープニングを飾っているビートルズのカバー・ヴァージョンで、オリジナルよりもエモーショナルな仕上がりです。
Love Scene / Jerry Garcia
1960年代のヒッピー文化を代表する伝説的バンド、グレイトフル・デッドの中心人物で、ヴォーカリスト&ギタリストのジェリー・ガルシア。この曲はミケランジェロ・アントニオーニ監督による1970年の映画『砂丘』のサウンド・トラック・アルバムに収録されています。生前にガルシアが映画のサントラを手掛けたのはこの1曲のみ!
Jamaica Song / Booker T
米テネシー州メンフィス出身のオルガン・プレーヤー、プロデューサーのブッカー・T・ジョーンズ。彼はブッカー・T&THE MG’sのリーダーとして、オーティス・レディングやウィルソン・ピケットを始め多くのR&Bシンガーをサポートしています。この曲は1974年にリリースされたソロ作『Evergreen』に収録されています。
ON AIR NOTES
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。
Kunichi was talking...
★★★★★★★
アメリカの8月最後の週末、レイバー・デーウィークエンドというんですけど、日本でいうと勤労感謝の日みたいなのかな。この週にネバダ州にあるブラックロックデザートという砂漠で開かれるフェスティバルです。この砂漠は塩湖という昔塩水が溜まっていた湖が干からびてできた砂漠でして、見渡す限り真っ平らです。何もなくて、例えばゴミを捨てると100年でも200年でもそれが残ってしまいます。バクテリアもいないので。この砂漠で突然、ブラックロックシティという名前の街が1週間に渡って現れて、そこでいろんな人たちがいろんなことをするというフェスティバルなんですけども。僕が行ったのはもう20年くらい前で、95年か96年かな。当時、僕らはバックパッカーでアジアをひたすらフラフラしてたんですけど、その年の春かな・・・ヒッピーみたいな人たちの間で、今年の夏の終わりに人形を燃やすすごいフェスがあるって話が突然話題になりまして。たぶん、ネイティブアメリカンのリチュアル、民族的なフェスティバルなんじゃないかとか、レインボーギャザリングっていう7月にアメリカ中のヒッピーが集まるお祭りがあるんですけど、それが進化したものなんじゃないかとか誰も詳しいことを知らなくて。当時はネットが発達してないもので、知りたくてもなかなかわからないんですよ、行った人たちもいないし。ただ面白がって、夏になったら是非そのフェスでみんなで集まろうじゃなかっていうのがインドやタイで会った人の仲間内で広がって、それがどんどん本気の話になってきまして。実際アメリカ行ったらアジアと違って高いぞっていうのがまず問題で、移動手段の車だってお金が払えないんじゃないかとか、侃々諤々の話がイスラエルやドイツの友達から飛び交いまして。実際に誰かがいろいろ調べだして「どうも8月の何日から始まる」とか「荷物がこのくらいないとダメなんじゃないか」とかいろんな情報が少しずつ集まってきて。結局そうやって世界中から100人くらいの仲間がその週末、集まりました。
★★★★★★★
このフェスはものすごく変わっているんですけど一番、他のフェスと変わっているのは、まずその期間中にお金が使えないんですね。すごくリベラルなヒッピーみたいな人が始めたので、例えばフジロックとかに行くとベンダーがご飯を売ってたりとかビール売ってたりとかすると思うんですけど、ここはそういうのが一切なくてですね。お店みたいのはあるんですけど、欲しいとしたら全て物々交換です。なのでウェブサイトにあるんですけど、この砂漠で1週間過ごすために何が必要かっていうのが全部書いてあるんですけど。例えばこの気温のなかで人間は1日何リッターの水を飲まなければいけないとか。もちろんゴミは全部持ち帰れと。1個でも置いていくとそれは永遠に残ります、とか。なので準備がすごく大変で僕らもその期間中必要な水、一人何ガロンとかいう量なので、大人数でいたので結構大変で、それと食料。あとは酒屋が開けるんじゃないかぐらいの大量の酒。飲んでも飲んでも汗で出ちゃうんで。それを全部積むキャンピングカー。これも荷物を全部摘んだら傾いてしまいました、重みで。サンフランシスコからネバダ州までちんたら走ってその砂漠に向かうんですけど、そうするとソルトレイクみたいなフラットな砂漠のど真ん中に突然、街が同心円状にできてるんですね。このフェスティバルのもう一つの大きな特徴っていうのは、普通フェスっていうのはたいてい音楽とか有名な人が出るっていうのを期待すると思うんですけど、一切ないんですよ。要は、お金を払ってきた人たちが勝手にいろんなことをするんでそれを見て楽しむっていうことなんですね。変なオブジェを作ってそれを人が見てるのをただニヤニヤして見てるアーティストとか、全身タキシード着てるんですけど下半身むきだしのヌーディストの一団とか。よくテーマがわからないんですけどそれを一軒一軒尋ねながらこっちも笑って酒を飲むっていうのがここのフェスティバルの過ごし方です。僕らはメイン会場から少し離れたところにテクノゲットーというサウンドシステムが立ち並ぶ音楽エリアというのをその年初めて作りまして。そこには10個ほどのサウンドシステムがありまして、いろんな音を鳴らしてたんです。あるシステムはテクノだったり、あるシステムはハウスとかディスコとかドラムンベース、アンビエント。夜は本当に楽しくて。星がずっと出て、砂漠は真っ暗なんですけども、その星空の下でいろんな音が聴けるんですよ。一番思い出深いのが夜明けで、地平線まで真っ平らなので、地平線から自分まで何も障害物がない直線です。太陽の端がちょっとでも顔を出すとそこから一筋の光が一直線に伸びてきて自分の額に直撃するみたいな。その場にいた人たちはみんな「これ、悟りを開いたんじゃないか」みたいな勘違いを起こしまして。テントに戻って話してみたら何も変わってなかったんですけど。夜明けのありがたさをこれほど感じたことは今まで一度もないですね。
★★★★★★★
とにかく毎日夜空はきれいだし、夜明けはとんでもないし、昼間そのテントをまわるとよくもまぁこんなに変わった人たちを集めた、というような。しかも大人が多いんですよね。お金もかかるし準備も大変なんで10代とかがいるわけじゃなくて普通の銀行員の夫婦とかかなり固い人たちがこの一週間だけめちゃくちゃやってやろう!みたいな。子供も全部置いてきてですね気合い入れて来てる人たちがすごく多かったんですけど。そういうこと以外に何をしていたのかというと、今は自分のテントサイトまで車を乗り入れることができなくなってしまったんですけど、昔はそれができたので昼間に車の屋根の上に立って運転手にスピード出してくれって言ってカーサーフィンですね。大きくターンしてもらって。落ちたら大怪我なんですけども、若気のいたりで何も考えてなかったですね。これはもうめちゃくちゃたのしいです。それからピラミッドレイクという有名なネイティブアメリカンの聖地がありまして、それがこの砂漠のはずれにあるんですけども、ここで遊んでましたね。ここはすごくきれいな、虹色みたいな水なんですけども、多分いろんな鉱物が溶け出てるのかな。そしてその岸のまわりがグレーのどろどろの泥なんですけども、これがまたすごく肌にいいらしいんですよ。美容の人たちがそれをわざわざ取りに来るらしいので。僕らは若くて肌もピチピチしてたんですけども。ぜひここはきれいになりたいと、全員素っ裸で泥レスに興じてました。すごくいいところです。
そんなこんなで一週間過ごすんですけど、最後の夜っていうのが最大の山場で、「バーニングマン」。その名の通り、12?3メートルある大きい木の人形に火を付けて燃やすんですよ。その時に全員が人形の周りを何万人かいるんですけど大きな輪になってぐるぐる回るんです。その中にはドラム隊もいたり変なパフォーマーとか、それからジャグラー。サーカスのいろんなモノを投げる人たち。あれ火を付けてやるんですけど、そういう人たちと一緒にぐるぐる回っていくうちに、なんとも言えないですね。ごちゃ混ぜなんですね。
バーニングマンていうのは、元々、ラリーさんていう人が始めたんですけど。僕も1、2回会ったことあります。彼はもともと植木屋で70年代だったのかな。奥さんだか彼女と別れてしまったと。それが出てかれたような形ですごくさみしいし悔しいし怒りもあってどうしていいかわからなくって木の人形を作ったらしいんですよ。で、それに火を付けたら自分の怒りとかエゴとかが全部消えたような気がしてスッキリしてしまって、毎年それを作っているうちにだんだん友達が集まってきて一緒に酒を飲むようになって。それをシスコのビーチでやってたらしいんですけど、市当局に「火事になったらどうするんだ。どっか火事にならないところに行け」って言われて砂漠に行ったらしいですけど。
すごくシンプルですよね、人の形のものを作って火を付ける。それをみんなが音を立てて眺めるっていう。ただ本当にそれがスッキリするっていうか日本の夏祭りとかに近いのかもしれないんですけど、太鼓を叩いてみんながぐるぐる回るっていう。でもそのシンプルなものっていうのがやっぱり一番強いのかなと思って。フェスティバルっていうとだいたい若い人たちのものだってみなさんお思いでしょうけど。実は疲れたストレスを抱えた大人のためにフェスティバルはあるんですよ。お金があるんでしたら是非、来年は「バーニングマン」に行ってみてください。
野村訓市
1973年東京生まれ。幼稚園から高校まで学習院、大学は慶応大学総合政策学部進学。
世界のフェスティバルを追ってのアメリカ、アジア、ヨーロッパへの旅をしたトラベラーズ時代を経て、99年に辻堂海岸に海の家「SPUTNIK」をプロデュース。世界86人の生き方をたったひとりで取材した「sputnik:whole life catalogue 」は伝説のインタビュー集となっている。
同名で「IDEE」よりインテリア家具や雑誌なども制作。現在は「TRIPSTER」の名で幅広くプロデュース業をする傍ら、ブルータス等の雑誌などで執筆業も行う。