Let's Travel! Grab Your Music!
Theme is... Coffee & Cigarettes
『Travelling Without Moving』=「動かない旅」をキーワードに、
旅の話と、旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。
★★★★★
番組前半はリスナーの皆さんからお寄せ頂いた旅のエピソードと、
その旅に紐付いた曲をオンエア!
後半のテーマは、「コーヒー&シガレッツ」。
訓市がこよなく愛するオトナの嗜好品について語ります。
トム・ウェイツの世界観と重なる理由とは?
映画『Coffee & Cigarettes』を手がけたジム・ジャームッシュと過ごした
夢のようなひと時・・・
★★★★★
番組では皆さんの「旅」と「音楽」に関する
エピソードや思い出のメッセージをお待ちしています。
ドライブ旅で聴いた曲なども教えてください。
旅に紐付いた「リクエスト曲」をオンエアさせていただいた方には
図書カード1,000円分をプレゼントします!
番組サイトの「Message」から送信してください。
手書きのハガキ、手紙も大歓迎!
日曜日の夜に聴きたい「ゆったりした曲」をゼヒお寄せください。
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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
antenna* TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛
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MUSIC STREAM
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
Coffee And Cigarettes / Augustana
Waltz For Debby / Monica Zetterlund with Bill Evans Trio
Naked At We Came / Iron And Wine
The Wind Knows My Name / Fairground Attraction
恋は桃色 / 細野晴臣
Felix Leo / Rodney Franklin
Black Cow / Steely Dan
Velas / Quincy Jones
(Just Like) Starting Over / The Flaming Lips
ON AIR NOTES
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。
Kunichi was talking...
★★★★★★★★
“コーヒー&シガレッツ”というと、大人な男の響きがプンプンする最強の嗜好品の組み合わせなんじゃないでしょうか?僕のイメージでは、夜明け近くの土曜の夜というより、日曜の朝ですね。呑んだくれた男がダイナーかなんかでコーヒーを飲みながらタバコを吸い、窓の外を眺める、という感じを思い出します。というのも、これすべてトム・ウェイツです。遅れてきたビートニク。トム・ウェイツを知ったのは僕が中学生の頃で、メロディー的にはどこか古臭い、でもとてもメランコリックなメロディにガラガラの声。トム・ウェイツを悪く言う人はいなくて、パンクスとかインディー音楽にうるさい人たちも『トム・ウェイツは悪くないよね。』って言う。その不思議な立ち位置に興味を持ちました。それ以来すごく好きなんですけども、トム・ウェイツの音楽というのは聞いていると映像が見えてくる音というんでしょうか。僕には青臭い少年が無理やりタバコを吸いながら苦いコーヒーで粋がっていたとしても、トム・ウェイツを聞くと、気分はどこか町の裏通りで酔っ払った渋いおじさんが見てる光景が見えてくような気がします。くたびれたウェイトレスや古いアメ車、薄いコーヒーに灰皿に山のように溜まった吸い殻。こういった光景は90年くらいのニューヨークのダウンタウンにはまだたくさんありました。僕はそんなニューヨークに行って『おぉ、トム・ウェイツが歌ってる風景だ。』と小躍りして喜んだものです。実際、そこでタバコを吸いながらコーヒーを飲み、まるで映画の主人公になった気分に浸ったものでした。そんな無理して始めたタバコとコーヒーですが、今ではやめられない癖となってしまいました。トム・ウェイツがタバコやコーヒーを飲みながら、疲れた中年の人生の悲哀を歌っていましたが、そのままの中年です。あの人の歌詞というのはだいたい酒を飲みすぎて朝を迎え、またやっちまったなぁと後悔しながらタバコを吸い、安いコーヒーを飲む日曜みたいな歌が多いんですが、これは僕の週末と一緒です。『明日はつらくなるぞ。なんでもっと早く帰らなかったんだ。』と後悔しながら、そのベストパートナーであるタバコとコーヒーを嗜むという。二日酔いで何も食べられず、口にできるのはタバコとコーヒーだけ。でも、僕はこの朝の後悔というのが好きで、世界中いろんな町に行った時に、朝もやってる安いダイナーとか24時間やってるベーグルショップとかケバブ屋のその朝の雰囲気が大好きで、いろんなところで出かけて行きました。どんな国に行ってもそこには夜通し遊んだ若者たちが大声でその晩の武勇伝とか失敗について笑い転げてたりして、その光景というのはニューヨークでもベルリンでもウィーンでもバンコクでも、どこでも変わんないんじゃないかなと思います。
★★★★★★★★
“コーヒー&シガレッツ”といえば、ジム・ジャームッシュ監督の短編オムニバス映画があります。これは監督がライフワークのように80年代、86年か7年だったと思うんですが、1話ずつ撮り溜めていったもので、それを2003年くらいにまとめて公開したんですけど、ジャームッシュ監督がこの作品を撮っているというのを学生のころに何かの雑誌で読みました。イギーポップとトム・ウェイツがタバコを吸い、コーヒーを飲みながらたわいもない会話を繰り広げるというもの。映画祭か何かで1・2回上映したという話だったんですが、これはもう記事を読んだだけで映像が見えるというか、もう見たくて見たくてしょうがなくて悶々としていました。それが2000年を過ぎていきなりオムニバスとして公開されるという話を聞きつけ、たまたまアメリカにいた時に映画館でやっていたのですぐ見に行きました。見た瞬間に『なんとかこれで雑誌の特集をやってやろう』と思いまして、それなら“コーヒーとタバコ”の特集にしよう。これは自分が一番好きなものだし簡単だと思い、すぐに日本の配給会社に連絡をとって、『こういう特集をやるからジャームッシュ監督の取材をさせてくれ』と。それがすごく大変で、ジャームッシュ監督に連絡が取れないんです。今はわからないですけど、彼は当時、みんなが持っているのに携帯は持ってない、メールはしない、脚本はまだタイプライターで書く。普段はアップステイトニューヨーク、ニューヨークの北のほうに篭って仕事をしているなんて言われて。そしてまた事務所の人のガードが固いんですね。『これはできない。あれはダメだ。』でも、話してるうちに30分だけ、場所はここだ。最初は写真も撮っちゃダメでオフィシャルのものを使えとかいろいろ言われて、やっとOKがでました。30分間、当時ダウンタウンに作っていたホテルの屋上で撮影するということになりまして、どんな人かと思って行ったら事務所の人とは大違いで、本人は本当にいい人。こんなに人柄のいい気さくな人はいるのかっていう感じでした。僕はもう有頂天で、『とうとうタバコとコーヒーの神様に会ったぞ。』と。ところがジムは歳でもうあまりタバコを吸わなくなっていたんです。写真を撮るならどうしてもタバコを吸っているジムが撮りたいじゃないですか。特集も“タバコとコーヒー”ですし。それでジムが立ってる後ろで空き缶を持って、もう機械のように自分がタバコを吸いまくりました。煙突のように煙が出てて、これが本当のチェーンスモーキングというやつなんですけど。顔を青くしながらずっと吸っていると、ジムが『タバコを美味そうに吸うね。一本くれないか。』と。狙った通りのタバコの写真が撮れました。結局そこから話し込んで、『自分のお気に入りのカフェがあるから、そこに移動して撮影をしようか。』と言ってくれました。時間はとうに30分を過ぎていたんですが、彼は『全然いいよ。ノープロブレムだ。』僕らは有頂天で、ただ一人、事務所のお付きの人だけが鬼のような顔で立っていました。そして今はなくなってしまったんですが、ダウンタウンにあったピンク・ポニーというカフェに行きました。ここはすごく味のあるカフェで、壁に本棚があったり、ボブ・ディランのモノクロの写真が飾ってあったり、ザ・ダウンタウンのカフェっていう感じ。そこでジャームッシュのモノクロの写真を撮りました。その頃はすでに禁煙法ができていて、室内は禁煙だったんですが、オーナーは『ここでジャームッシュの写真を撮るなら、もちろん吸わないわけにはいかないだろう。』と、こっそり窓際でタバコを吸わせてくれました。その瞬間というのが、僕の“コーヒー&シガレッツ”というものの妄想が現実化した瞬間でした。やっぱりやめられないですよね、あんなもの見ちゃうと。
野村訓市
1973年東京生まれ。幼稚園から高校まで学習院、大学は慶応大学総合政策学部進学。
世界のフェスティバルを追ってのアメリカ、アジア、ヨーロッパへの旅をしたトラベラーズ時代を経て、99年に辻堂海岸に海の家「SPUTNIK」をプロデュース。世界86人の生き方をたったひとりで取材した「sputnik:whole life catalogue 」は伝説のインタビュー集となっている。
同名で「IDEE」よりインテリア家具や雑誌なども制作。現在は「TRIPSTER」の名で幅広くプロデュース業をする傍ら、ブルータス等の雑誌などで執筆業も行う。