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Find new people, new words through Traveling...
Theme is... Graduation
『Travelling Without Moving』=「動かない旅」をキーワードに、
旅の話と、旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。
★★★★★
番組前半はリスナーの皆さんからお寄せ頂いた旅のエピソードと、
その旅に紐付いた曲をオンエア!
後半のテーマは「卒業」。
訓市が「最初の旅」と感じる幼稚園時代の電車での通園体験。
この春、幼稚園を卒業する娘と一緒に通った電車内でのエピソードから
感じる思い。
そして、卒業を迎える皆さんに「贈るコトバ」・・・。
★★★★★
番組では皆さんの「旅」と「音楽」に関する
エピソードや思い出のメッセージをお待ちしています。
リクエスト曲をオンエアさせていただいた方には
図書カード1,000円分をプレゼントします!
番組サイトの「Message」から送信してください。
手書きのハガキ、手紙も大歓迎!
日曜日の夜に聴きたい「ゆったりした曲」をゼヒお寄せください。
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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
antenna* TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛
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MUSIC STREAM
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
Stupid Mouth / John Mayer
Shrug / IDA
Time After Time / Everything But The Girl
Car / Built To Spill
まともがわからない / 坂本慎太郎
The Other Me / Paul McCartney
Could It Be I'm Falling In Love / The Spinners
Trees And Flowers / Strawberry Switchblade
All The Weather / The Innocence Mission
ON AIR NOTES
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。
Kunichi was talking …
★★★★★★★★
僕の最初の旅というのは、幼いころ幼稚園まで電車で通うところから始まったような気がします。乗っていたのは中央線なのですが、毎日、一番前の車両に乗りたいと母親にねだって、そのまっすぐに伸びる線路を夢中で背伸びして覗き込んでいたものです。運転手さんの背中だけが見えて、発車と停車の真似事を毎日していたように思います。今でいう鉄ちゃんですね。まぁ、子供は全員もともと鉄ちゃんなんです。そして窓から見える景色。左手に見えて来る中野サンプラザや、新宿の副都心にニョキニョキと伸びるビルたちに、友達と名前をつけていました。来る日も来る日も母親に連れられて電車に乗り、やがて卒園を迎えました。『幼稚園が終わってしまう。』その時の気持ちを、僕は鮮明に覚えています。小学生になる、もう大人になるんだ。そう感じていました。春から一人で学校に通うわけですから、それに興奮もしていましたし、ドキドキもしていたのかな。卒園のときの遠足のことも先生たちとお別れするときのこともとてもよく覚えています。そして小学校に入りまして一人で通えると喜んでいたんですが、僕はそのころから電車嫌いになりました。早く起きれば通勤ラッシュに巻き込まれることはなかったんですけど、小さいときから低血圧で起きられなくて、遅刻ギリギリで学校に行くものですから、ランドセルが潰れるくらいのラッシュに巻き込まれまして。そうすると窓から見える楽しかった景色もだんだん憂鬱になってきて、高校の頃にはまず、朝、学校に行くということはなかった気がします。そんな僕ですが子供を持ち、今度は一緒に通園することになりました。しかも電車。遅くまで仕事をして、そこからストレスで飲んでしまうことが多い僕にとって、朝起きて子供を送るというのは、苦行以外のなにものでもない、絶対にできないんじゃないかと思ってました。でも、下の子供が今年卒園するんですけど、今になって振り返ると、これは本当に楽しかったなぁと。そういう思い出しかないんです。赤ん坊から幼児となって、これから一丁前に乗車料金を取られる子供となるわけですが、その短い間の季節を一緒に電車に乗るというのは、すごく楽しいことでした。そしてそれは僕がまだ朝の電車が好きだった頃のことを思い出させてくれました。子供というのは通園の時間に前の日何をしたかとか、そういうことを夢中になって話してくれたり、誰と仲がいいとか、何を知って驚いたとか、たわいもないことをとても新鮮な言葉遣いで一生懸命に説明してくれます。とにかくうなずいて、驚いたり感心したりしていたんですが、なにが面白いかというと、僕は仕事の一つとして原稿も書くので、言葉遣いは“なるたけ正しく簡潔に”というのが叩き込まれたことというか、クセになっているんです。でも、子供というのはそういうこちらの常識をすっとばした説明の仕方をします。それを聞いてるだけで、“自分は随分つまんない大人になっていたんだなぁ”と感心することも多かったですし、それがやがて、どんなに二日酔いや徹夜続きでも、送るのだけは苦にならない、と感じるようになりました。
★★★★★★★★
通園というのはとにかく大変なんですが、その楽しさも実際にそうなってみないとわからないのかな、と思います。子供の成長を見るというのは、それだけで素晴らしいじゃないという話で、それももちろんあるんですけど、それと同時に自分の人生を巻き戻しでもう一度みているような気分になることがあります。子供が初めて触れるものや初めて何かをするというところを目撃したときに、自分の子供時代へと一瞬でタイムワープするような気分になるんです。それが忘れていた感情だったり、忘れていた思い出、そういうものを瞬時に自分の心にまた呼び戻してくれるといいますか、それは素晴らしいことだと思います。でも。この巻き戻しの映画を見終わったときには、子供は大人、僕らはじいさん。まぁなんとも切ないロードショーだなぁと思いますが、とにかくすごく面白いです。なんてったって“あぁ、自分もこういう風に感じてたなぁ”ということを突然思い出したりするんです。そうやってシンクロすることは多いんですが、願わくは途中から、僕と同じような成長はしないで、まともに育ってくれればいいなぁと思っています。
僕にとってこの数年間、朝、子供を送るというのは一番楽しい旅だったような気がします。子供が小さいので、自分の体をかがめて子供の目線でいろんなものを見てきましたが、その目線で見る景色のなんと懐かしいことか。最近ちっぽけにみえるなぁと思っていたいつもの光景というのを、無限の広がりで見ることができました。子供のときは本当に目線が低いので、全てがひろく大きく見えるんですが、それをいつの間にかすっかり忘れてまして。昔と変わらない光景を、自分は背が大きくなっただけで随分見下して見ていたなぁということに気づきました。皆さんも一度、子供の目線で電車に乗ったり、歩いたりしてみてください。懐かしい気分になると思います。
今はちょうど卒業の季節で、リスナーの皆さんの中にもいろんな方がいると思います。バラバラに進学する人。親元を離れて一人暮らしをする人。海外に留学する人。社会に出て働き出す人。様々だと思いますが、まずは、おめでとうございます。終わりは新しい旅の始まりです。よい旅を。そして幼稚園児のみなさん、『ラジオを聞いてる』と言われたことがあるので、この場を借りて、ありがとう。そして卒園おめでとう。小学生になったら一人でいろんなところに行けるようになるのかな?少しずつ、少しずつ、遠くを探検して、自分の世界を見つけて行ってください。事故にはくれぐれも気をつけて。4月になったら友達を100人作ってください。そして、これから子供の送り迎えを始める若いパパさんママさん。こんなに素敵な時間というのは二度とやってこないと思います。これからはじまる朝晩の貴重な小さな旅を、ぜひ楽しんでください。
野村訓市
1973年東京生まれ。幼稚園から高校まで学習院、大学は慶応大学総合政策学部進学。
世界のフェスティバルを追ってのアメリカ、アジア、ヨーロッパへの旅をしたトラベラーズ時代を経て、99年に辻堂海岸に海の家「SPUTNIK」をプロデュース。世界86人の生き方をたったひとりで取材した「sputnik:whole life catalogue 」は伝説のインタビュー集となっている。
同名で「IDEE」よりインテリア家具や雑誌なども制作。現在は「TRIPSTER」の名で幅広くプロデュース業をする傍ら、ブルータス等の雑誌などで執筆業も行う。