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Let's travel! Grab your music!
Theme is... ITALY
『Travelling Without Moving』=「動かない旅」をキーワードに、
旅の話と、旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。
★★★★★
番組前半はリスナーの皆さんからお寄せ頂いた旅のエピソードと、
その旅に紐付いた曲をオンエア!
後半のテーマは「イタリア」。
毎年、この時期になると訓市が行きたい気持ちになるのが「イタリア」...
それも、ローマより南の地域。
イタリア滞在時に体験した「コレぞイタリア人!」と感じたエピソード。
そして、国民性・気質の魅力を語ります。
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番組では皆さんの「旅」と「音楽」に関する
エピソードや思い出のメッセージをお待ちしています。
リクエスト曲をオンエアさせていただいた方には
番組オリジナルの図書カード1,000円分をプレゼントします!
番組サイトの「Message」から送信してください。
手書きのハガキ、手紙も大歓迎!
日曜日の夜に聴きたい「ゆったりした曲」をゼヒお寄せください。
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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
antenna* TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛
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MUSIC STREAM
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
The Saddest Story Ever Told / The Magnetic Fields
American Dream / LCD Soundsystem
Heathens / Twenty One Pilots
Heather / Billy Cobham
Ageha / 高木正勝
Dolce Vita / Ryan Paris
Lady, Lady, Lady / Joe Esposito
Champagne / Andrea Bocelli
Once Upon A Time In America / Ennio Morricone
ON AIR NOTES
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。
Kunichi was talking …
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今回はイタリアについて話したいと思います。なぜイタリアなの?って言われても、なぜなんでしょう。でも、最近すごくイタリアに行きたいなぁと思うんです。今くらいの時期、ヨーロッパは気分がいいものなんですが、特に初夏のこの頃は、過剰に日焼けに勤しむイタリア女性をチラチラ見つつ、完熟トマトのパスタと安物のワインなんかをガブガブ飲みながら、イタリアで過ごしたいなぁと急に思うようになりました。
イタリア人のイメージというのはどんなものでしょうか?あの国はイメージ通りの人たちが非常に多いと思います。つまり、男は伊達男がたくさんいて、ナンパが命。実際にイタリアで海とかに行きますと、例えば、美女が彼氏と一緒にいるじゃないですか。彼氏がお酒を買いに行ったり、トイレに行くでもいいんですけど、席を立っていなくなった瞬間、すぐ他の男がナンパしに行きます。自分の連れがそういうのをやっているのを見たことがあって、『すごいね。』って言ったら、『だってあの女性はあの連れの男のものじゃないんだから。一人にしたあいつが悪い。』と。小気味いいくらいはっきりした思想だと思います。女性の方も、いい男だとちゃんと相手してますね。
イタリア人のイメージというのは派手で、どこかデタラメというのが、失礼ですけどあるんじゃないでしょうか?小説家の村上春樹さんは大変人気があって、一度は読んだことがあるという方が多いと思いますが、村上さんの小説というと、『翻訳文体である』とか『ドライタッチの文章で、なぜか主人公が女にモテる』とか『なにかというと、すぐに“やれやれ”とぼやく』とか言われて、基本的にあえて感情的には書かないっていうところが特徴なんじゃないかと思います。そんな村上さんが書くエッセイは似たトーンなんですが、小説と違って、たまに感情が垣間見えることがありまして、昔のエッセイで“遠い太鼓”という本があります。これはおそらく、80年代に村上さんが日本を離れてヨーロッパとかに住んでいた頃のエッセイで、そのエッセイの中のイタリア編というのがとても感情的で面白いです。なぜかというと、多分、村上さんにとってそのイタリアでの経験というのがきっと、とてもショッキングだったからだと思うんです。それは、縦列駐車を誰かがしている時にどこからともなく人が集まってきて、やんややんや言うとか、朝のジョギングも普通は一人でストイックに走るものですが、イタリアだけはおしゃれして集団で喋りながら走るとか。ストイックな村上さんの想像を超えた国民性に対して、思わず感情的に書いてしまったのではないかと思えるからです。なんでこれを僕が面白いと思ったかというと、実際に自分もそういう光景をたくさん見たからです。縦列駐車をする時に、一発で停めれば『ブラボー!』と知らない人が拍手してくれますが、それが何度も切り替えしていると『このヘタクソ!』とヤジが飛びます。もし、自分が実際に縦列駐車をしてる人間だとしたら、本当、こんなに大きなお世話はないと思いますが、それを横から見ている分には本当に面白い人たちだなぁと思います。だいたいイタリアの人というのは、レストランでも頼んだものが届かないとか、ちょっと苦情を言っても全く悪びれるところがない。英語を話さない人が多いんですけど、バス停とかでおばさんが話しかけてきて、『僕は一言もイタリア語を話せない』って言っても、バスが来るまで30分くらいずっとイタリア語で話しては一人で笑ったりとか。もう放っておいてくれ!と思うというか、気配りと控えめになるというのを美徳とする日本人と、イタリア人ではまるで正反対の国民性なんじゃないかと思います。が、どこか惹かれるところがあるのも確かです。
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実際に僕もイタリア人と仕事をしたことがあるんですが、彼らと仕事をしていると、突然、音信不通になったり納期遅れは当たり前で、とにかく苦労します。これはイタリアで洋服を作っていた友達も言っていたんですが、1ヶ月も2ヶ月もメールを放置しておいて、突然、むこうから悪びれる様子もなく『そういえばアレ、どうなった?』みたいな連絡がきたり。『この野郎』と思ったりもするんですが、そんな対応も、普段の彼らを見ていると文句を言うこっちが悪いのかと思ってしまいます。でも、何かを作り出すと世にも稀な美しいものを、時間をかけて作ったりする。それがイタリア人ですから、すごく不思議です。まず、イタリア製と言っていいのが、色。発色の良さといったら誰も勝てないんじゃないでしょうか。例えば、赤。洋服でもそうですし、イタリア車の赤というのはもう本当に美しいですよね。日本車の赤とイタリアの赤い車が並ぶとすぐわかるくらい違います。そして洋服でいうと、縫製も綺麗。すごく細くって、すぐに壊れてしまうことは多いんですけど、その耐久性よりも仕上げの美しさを選んでしまう国民性というのにも、すごく魅力を感じてしまいます。日本人の僕としては、なるべく壊れないように、とそっちを考えてしまいますが、“どうせ物は壊れるんだから、美しい方がいいじゃないか”という割り切った考え方というのはすごくいいなぁと。
僕には、アメリカンカルチャーをこよなく愛するカリフォルニア出身の大工の友達がいます。洋服も家も、典型的なアメリカのインダストリアルだったり、ワーキーな感じで、日本人の僕としては“すごく渋いやつだ”という感じ。彼は全てにおいてアメリカンな男なんですが、ただ、車とバイクと自転車とコーヒーマシンに関しては完全にイタリア党で、イタリア製しか使いません。もっともアメリカでその辺を全部イタリア製にするとすごく高くつくので、彼の場合はジャンクヤード、ゴミ捨て場とか車の廃車工場、それからイタリア各地で誰かが探してきた古い壊れたエスプレッソマシンなんかを何台も買って、それを自分で直しています。『なんでそんなにイタリア製が好きなの?』と聞くと、『とにかく機械が美しい。蓋を開けたときにネジ、溶接、全てがすごく繊細で、カーブがいい。』と。でも、よく壊れてしまうので、実際は修理してるときの方が長いんじゃないかと思うんですが、それでも『あの美しさと、セッティングがピタッと決まったときの性能の素晴らしさを前にすると、どんな苦労も俺をイタリア製から引き離すことはできない。』と言っていました。僕も自転車が好きなのでロードバイクを買ったことがあるんですが、確かにイタリア製の自転車は美しいんです。今となってはだいぶ減ったと思うんですけど、家庭内工房みたいなところからいろんなものが生み出されるのがイタリアの特徴で。本当に繊細で素敵です。耐久性を考えない人たちですからそうなのかもしれませんが、でもあの美しさにこだわる国民性っていうのがすごく不思議ですね。ちょっと付き合うと陽気でいい加減な人たちですが、ご飯にしたって突然、やれアルデンテだのとものすごくこだわったり、旬の野菜しか使わなかったり、ある種こだわりというのが細かい日本人を超えていて、そのギャップが面白くて、『うーん』と唸ることが多いです。なんでこの人がこんなところにこんなにこだわるんだろう、と。
イタリア人になにかを褒めると、すごいドヤ顔を返してきます。そのあとにニカッと笑われるとずるいなぁと思います。あと、イタリア人が話すあのものすごい訛りの英語。訛りのある英語で一番美しいのは、女性の場合はフランス人。男の場合はイタリア人と僕は思っているんですが、彼らの訛りは本当に素敵です。
そろそろイタリアに行きたくなってきました。僕はミラノがある北部より、ローマからもっと下の方が好きですね。海沿いを下って行シチリアまで行くと、伊達男とか渋い爺さんというのがまだいます。ニコリともしなかったりしますがね。そういう爺さん達と通りに面した風が入る安い食堂なんかで、パスタを食べたり、ワインを飲みながら、派手な姉ちゃんを眺めて初夏を迎えたいなぁと、そう思います。
野村訓市
1973年東京生まれ。幼稚園から高校まで学習院、大学は慶応大学総合政策学部進学。
世界のフェスティバルを追ってのアメリカ、アジア、ヨーロッパへの旅をしたトラベラーズ時代を経て、99年に辻堂海岸に海の家「SPUTNIK」をプロデュース。世界86人の生き方をたったひとりで取材した「sputnik:whole life catalogue 」は伝説のインタビュー集となっている。
同名で「IDEE」よりインテリア家具や雑誌なども制作。現在は「TRIPSTER」の名で幅広くプロデュース業をする傍ら、ブルータス等の雑誌などで執筆業も行う。