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Let's travel! Grab your music!
Theme is... PIZZA SHOP in NEW YORK
『Travelling Without Moving』=「動かない旅」をキーワードに、
旅の話と、旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。
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番組前半は番組リスナーの皆さんから手紙、ハガキ、メールで寄せられた
旅にまつわるエピソードとリクエスト曲をオンエア!
後半のテーマは「ニューヨークのピザ屋」。
ニューヨークを知り尽くした地元在住の訓市の親友でさえ知らなかった
「ニューヨークで一番美味しいピザ屋」...
マンハッタンからも程近いビーチ沿いの抜群のロケーションにある店で
食べたピザの味とは? それにしても何か様子がおかしい?
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番組では皆さんの「旅」と「音楽」に関する
エピソードや思い出のメッセージをお待ちしています。
リクエスト曲をオンエアさせていただいた方には
番組オリジナルの図書カード1,000円分をプレゼントします!
番組サイトの「Message」から送信してください。
手書きのハガキ、手紙も大歓迎!
日曜日の夜に聴きたい「ゆったりした曲」
「旅で聴いた思い出の曲」「動かない旅ができる曲」などなど、
リクエストもお願いします!
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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
antenna* TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛
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MUSIC STREAM
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
Municipality / Real Estate
Mother Nature's Sun / The Beatles
Everybody Hurts / R.E.M.
Will You Dance? / Janis Ian
じゃっ夏なんで / かせきさいだぁ
Deacon Blues / Steely Dan
New York / St. Vincent
Thinking Of A Place / War On Drugs
Cry (Extended Remix) / Godley & Creme
ON AIR NOTES
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。
Kunichi was talking …
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ニューヨークのピザ屋。僕はもう本当に何回行ったかわからないぐらいニューヨークを訪れていまして、だんだん自分の故郷のような安心感というか安定感というか。もう行ってもものすごく落ち着いたものです。それと同時に、その街というものをもう知った気になっていて、今更ちょっとしたことではいそいそと出かけなくなってしまいました。僕は極度の方向音痴なんですが、その僕でさえ、碁盤の目のようなマンハッタンの地図というのが頭に叩き込まれてしまいまして、住所言われればだいたいどの辺りかすぐわかる。そろそろタクシーのドライバーでもできるんじゃないか、と思うくらいです。なので、ちょっとやそっとのことではやっぱり腰が重くなってきたんですね。特に、最新のものとか流行の店とかよりは、古いビルとか老舗が好きなので、そんな店や場所が減っていく一方のニューヨークでは、なじみの場所に行ったりすることの方が、新しい場所を開拓するよりはるかに多いわけです。でも、今年の夏の初めにニューヨークに行ったとき、やっぱりまだまだ知らないことが多いなぁと思うことがありました。友達の一人にトム・サックスという面白い現代アーティストがいます。前回のニューヨーク滞在中はほぼ毎日会って遊んでいたんですが、帰国する前日のことです。一緒に海に行こう、ということになりました。ニューヨークのサーファーには有名なロッカウェイというビーチがあるんですが、トムはその近くにセカンドハウスを持っていて、『家の中も見せたいし、近くに面白いバーがあるから一杯飲もうじゃないか。』と言われたわけです。そこで、ニューヨークの親友の一人である友達のジープで高速をかっ飛ばして、夕方海に向かうことになりました。後部座席にはレンタルで使うバカでかいスピーカーをシートベルトで固定して、爆音でソウルとか、AORとかディスコをかけてました。東京でこんなことやって知り合いに見られたら完全にアウトだと思うんですが、真夏のニューヨークだとこういうことはアリなんです。なぜなら、逆にみんな笑いかけてきますし、交差点で止まるとこっちに向かって踊ってくる黒人のおばさんなんかもいるんですから。
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そのロッカウェイの家を目指して、夕方走っているときに、突然、トム・サックスが『腹が減った。』と言い出しました。『いま食わないと遅くなったら何もやってないから食い逃す。近くのビーチに美味いピザ屋があるから行かないか?ニューヨーク1うまい。』と言うのです。車を運転していた僕の親友というのは、ニューヨーク生まれニューヨーク育ちで、もう50年いる。しかもカメラマンだったので、あらゆることに詳しい人なんですが、『そんな店聞いたこともない。本当にうまいのか。』と。ところがもう完全に目がピザの形になっているトムが、食べないとヤダヤダヤダ、みたいになってしまいまして、じゃあ行こうかと。『俺がナビをするから言った通りに走ってくれ。』後部座席に座っていたトムが身を乗り出してきて、『ここを右だ、左だ。』と、ナビをし始めました。すると、無人のゲートのようなところに出て、知らなかったら絶対その奥に行かないだろうという門をくぐると、本当にだだっ広い駐車場。しかも他の車がほぼ止まってないので、逆に不安になるような大きさの駐車場に止めろと言うのです。『ここだ、ピザだ!』トムは車を降りると、スタスタと僕らを置いて奥の方に行ってしまいました。慌てて追っかけていくと、そこにはニューヨークでこんなに大きくて綺麗なビーチがあるのかというくらい広大なビーチ。時刻はちょうど夕暮れときで、うっすらと広がる雲はピンク色に輝いて、目の前に広がる海はその光を反射してずっと沖のほうまで淡いパステルブルーに光っていました。そして、ほぼ誰もいないビーチの波打ち際には、チドリの親子たちが並んで歩きながら餌をついばんでいる。マンハッタンから1時間も走らないでこんなにきれいな夕日が見える場所があるのかと、本当にびっくりしました。するとトムが『まずはピザを頼みに行こうよ。焼き上がるのに時間がかかるから、まずオーダーをして、そこから海だ。』僕と親友はもう、茫然と夕日を眺めていたんですが、ふと我に返って、“ああ、そういえばピザ。というか、こんなところにピザ屋があるのか。”指さされた先には鋼鉄製のピザ釜がスタンドで外にむき出しになっている、屋台式というかスタンド式のピザ屋が見えました。こんな素晴らしいロケーションにポツンと佇むピザ屋。きっと素敵な親父が素敵な音楽をかけてピザを焼いてるんだ、と思いました。そうやって近づいていくと、なんか微妙に音がやかましい。トムが確かこのピザ屋のことを『ニューヨーク1うまいけど、ニューヨーク1クレイジーな親父がやってるピザ屋だ。』って言ってたことを思い出しました。かかってる音楽がデスメタルなんです。しかも爆音。美しいビーチでデスメタルを聞くなんて、生まれて初めての経験。爆音過ぎて、オーダーを取る声も何度言っても聞いてくれないし、その後、焼きあがったときも地獄のような声で ” Tom, your pizza is ready.” びっくりしましたけど、でも本当に美味しかったです。街の全てを知ってると豪語していた親友も、『俺もまだまだだな。というか知った気で探さなくなったらおしまいだな。』と言ってました。僕も本当に同感で、新しい発見というのが必ずあるんだなと思って反省もしましたし、だからこそ旅はいつまでもやめられないなと思いました。
余談ですが、帰国後その親友からニューヨーク・タイムズのリンクが送られてきました。あまりにも美味しくて、自分の彼女連れてったらやってなかったらしいんです。調べたら、デスメタルを爆音でかけるな、という苦情を何年にもわたって無視してきたその主、とうとう立ち退きにあったそうです。
野村訓市
1973年東京生まれ。幼稚園から高校まで学習院、大学は慶応大学総合政策学部進学。
世界のフェスティバルを追ってのアメリカ、アジア、ヨーロッパへの旅をしたトラベラーズ時代を経て、99年に辻堂海岸に海の家「SPUTNIK」をプロデュース。世界86人の生き方をたったひとりで取材した「sputnik:whole life catalogue 」は伝説のインタビュー集となっている。
同名で「IDEE」よりインテリア家具や雑誌なども制作。現在は「TRIPSTER」の名で幅広くプロデュース業をする傍ら、ブルータス等の雑誌などで執筆業も行う。