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Let's travel! Grab your music!
Theme is... CAMERA
『Travelling Without Moving』=「動かない旅」をキーワードに、
旅の話と、旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。
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番組前半は番組リスナーの皆さんから手紙、ハガキ、メールで寄せられた
旅にまつわるエピソードとリクエスト曲をオンエア!
後半のテーマは「カメラ」。
今、若い世代の間でジワジワと人気が出ている
「フィルム・カメラ」について訓市が思うこと...
デジタルにはないアナログの暖かさについて語ります。
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番組では皆さんの「旅」と「音楽」に関する
エピソードや思い出のメッセージをお待ちしています。
リクエスト曲をオンエアさせていただいた方には
番組オリジナルの図書カード1,000円分をプレゼントします!
番組サイトの「Message」から送信してください。
手書きのハガキ、手紙も大歓迎!
日曜日の夜に聴きたい「ゆったりした曲」
「旅で聴いた思い出の曲」「動かない旅ができる曲」などなど、
リクエストもお願いします!
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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
antenna* TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛
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MUSIC STREAM
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
The Right Place / Eddie Reader
Still Crazy After All These Years / Paul Simon
Drive / Blind Melon
You Got It All / The Jets
積み荷のない舟 / 井上陽水
Steal Away / Robbie Dupree
Fool (If You Think It's Over) / Chris Rea
On And On / Stephen Bishop
Theme From Valley Of The Dolls / Gabor Szabo
ON AIR NOTES
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。
Kunichi was talking …
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カメラ。カメラというかフィルムですね。最近、フィルムで写真を撮る人が増えています。特に若い子たちがフィルムカメラを持って写真を撮る姿というのを、東京でも海外でもよく目にします。写ルンですなんかも流行っていて、それを見ると自分が高校生や旅をしていた頃のこと思い出して懐かしく感じます。廃れたと思った、もう二度と復活しないだろうと思ったものが、こうやって戻ってくるのを見るのはなんとも不思議なものです。カメラもそうですし、レコードなんかもそうだと思うんですけど。そうするといつの日か、ポケベルとかも復活するんでしょうか。『ベルして。』なんていう捨てゼリフを残して去っていく友達が多かったですが、どうなんでしょうか。
僕は写真が大好きなんですが、写真を撮るという行為にはまるで不向きの人間です。というのも、だいたい興奮すると我を忘れて騒ぐ張本人なので、まず人物を撮るのに向かないんです。誰かがいい顔をしていても、逃してしまう。そして、風景も美しい景色とかを見るのが大好きなんですが、そういうもの見ると、その瞬間に幽体離脱するといいますか、現実の景色に重ねて過去を思い出したり空想を始めてしまうので、“撮らなきゃ”と思ったときにはもう車が移動していたり、光が変わっていたり。なので、高校の留学時代も、その後に始めた旅の写真もあまりありません。誰かが撮ってくれた写真をもらったりしたのがほとんどだと思います。とはいえ、死んだ自分の爺さんが残してくれたライカなんかが家にありまして、“俺もライカで写真を撮るぞ。”と、一丁前に持っていた頃もあったんですが、ほぼ触らない。何ヶ月も旅行していて、現像に出したらロールが1本終わってないとか、そんなこともありました。それでも撮らないよりは、1枚でもあった方がいいと思うのが写真です。『人生、生きた証は写真だけ。』というのは、なんのセリフだったかな。思い出も自分の生きた記憶も、自分が死んでやがて周りの人の記憶からも消えたら、その人がいた証拠っていうのは多分、写真しかない。自分が覚えてれば良いとしても、今、実際に起こりつつあることなんですが、自分の記憶が信用できなくなってくると、本当にあったのかどうかもあやふやになってきて、頼りになるのは写真だけです。時たま突然、昔の写真をフェイスブックやインスタに上げる古い友人たちがいます。忘れていた光景、友達、そしてそのときの感情。ただのスナップだったり、手ブレがひどかったり、写真としてのクオリティーははっきり言って0なんですが、それでもそこに詰まった過去の一瞬の価値というものが下がるわけではないと思います。音楽や匂いというものは、もちろん記憶とつながっていて、瞬間的な時間旅行をさせてくれるものですが、写真というのは唯一とても具体的な記録で、音楽や匂いとはまた違うパワーがあると思います。ただ、こんな幼い顔してたっけとか、こんなに俺たちダサかったっけとか。美化された思い出を木っ端微塵に破壊するパワーがあるのも写真です。
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数年前になりますが、よく僕の事務所に出入りするオーストラリア人の友達がいました。かなりの流れもので、今はドイツのミュンヘンで音楽をつくっています。彼は僕のところによく来ては、『次は何の小説を読めばいいかな?』とか『写真集を見せてくれ。この人はどういう一派のカメラマンなんだ?』とか。実際にちゃんとその本を読んだり、写真を見たりして、その感想を教えてくれる子だったんですが、とてもきれい好きな子で、僕の机の上の汚いの片付けているときに、鉛でできた袋を見つけてきました。『これは何?』と聞かれて、『それは昔フィルムを入れて、空港のX 線検査でフィルムがだめならないようにする鉛の袋だよ。』と教えました。すると、『現像してないフィルムのロールがたくさん入ってるよ。』と。それを見ても、いつのロールなのか全く思い出せず、しばらく考え込んでいたんですが、彼が『訓は忙しいし、何よりズボラだから、僕が現像に出してきてあげるよ。何が写ってるか興味ない?』『それはいい考えだね。』そして彼がビックカメラにそれを持っていって、1週間後かな。現像したものを届けてくれました。今、素晴らしいんですけど、現像を頼めば、プリントはその場で焼いてくれますし、現像したネガはCD-R に焼いてくれるんです。まるでレコードを買ったらデジタルコードがついてきて、PCでも聴けるみたいな。現像されたものを見たら、自分でも本当にびっくりするほどバラバラな場所のバラバラな時間の写真が出てきました。いくつかのロールはネガがもう変色してしまって、現像すると上半分がピンク色になっていました。粒子の粗い、いかにもフィルムといったプリント。友達と島巡りをしたタイの写真。戦争が終わり数年後のサラエボの街を撮った写真。土手の写真がたくさんあるのに気がついたんですが、それは『まだそこに地雷がある。』と言われてびっくりして撮ったの思い出しました。子供が生まれたばかりでまだ赤ん坊をおっかなびっくり抱く昔の友達の姿や、代々木公園で酔っ払う仲間。1枚もそこの写真など持っていないと思っていた居候先の写真。プリントの束から1枚1枚写真をめくっていくたびに、いろんな記憶がまるで紙芝居のように甦りました。フィルムカメラというのは、全部が綺麗に写るわけではありません。こちらに技術がないからなんですが、でもそういう失敗の中に、なぜそうなったかという記憶、そのときのもっと深い背景というのがそこに含まれてます。撮った本人にしか分からない、そのときの記憶。失敗するとすぐデータを消してしまうデジカメやスマホには残らないそういう記憶というのが、とても素晴らしいなと思いました。皆さんの中にもまだタンスの奥にフィルムカメラが残っていたりすると思います。どこかに出かけるときや日常。たまにフィルムで写真を撮ってみるのはいかがでしょうか。
野村訓市
1973年東京生まれ。幼稚園から高校まで学習院、大学は慶応大学総合政策学部進学。
世界のフェスティバルを追ってのアメリカ、アジア、ヨーロッパへの旅をしたトラベラーズ時代を経て、99年に辻堂海岸に海の家「SPUTNIK」をプロデュース。世界86人の生き方をたったひとりで取材した「sputnik:whole life catalogue 」は伝説のインタビュー集となっている。
同名で「IDEE」よりインテリア家具や雑誌なども制作。現在は「TRIPSTER」の名で幅広くプロデュース業をする傍ら、ブルータス等の雑誌などで執筆業も行う。