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訓市が antenna* からセレクトした記事は・・・
「世界6周に挑んだ男」が語る無上の喜びと空前絶後の冒険譚|北極圏に独り、完全なる孤独に浸る意味
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Theme is... Loneliness
『Travelling Without Moving』=「動かない旅」をキーワードに、
旅の話と、旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。
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番組前半はリスナーの皆さんから手紙、ハガキ、メールで寄せられた
旅にまつわるエピソードと、その旅にまつわる思い出の曲をお送りします。
お題を頂戴して訓市がセレクトした曲もお楽しみに!
後半のテーマは「孤独」。
かつて、止めどもなく孤独を感じた瞬間・・・
心がチリチリした時に訓市が決まってとる行動とは?
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番組では皆さんの「旅」と「音楽」に関する
エピソードや思い出のメッセージをお待ちしています。
「旅」に関する質問、「旅先で聴きたい曲」のリクエストでもOK!
手紙、ハガキ、メールで番組宛てにお願いします。
メールの方は番組サイトの「Message」から送信してください。
リクエスト曲がオンエアされた方には番組オリジナル図書カード、
1000円分をプレゼントします。
皆さんからのメッセージ&リクエスト・・・ お待ちしてます!
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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
antenna* TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛
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MUSIC STREAM
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
Right On Time / The APX
Bitter Sweet Symphony (James Lavelle Remix) / The Verb
Suspirium / Thom Yorke
Goodbye Pork Pie Hat / Charles Mingus
Heartbreak At Dawn / Mabanua
Purple Rain (Piano & Microphone 1983 Vers.) / Prince
Sadly Beautiful / The Replacements
River / Leon Bridges
Asleep / The Smiths
ON AIR NOTES
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。
Kunichi was talking …
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春になると出てくるのが “つくしんぼ”。秋になると出てくるのが“淋しんぼ”。肌寒くなってくると、ついつい淋しくなってしまうんですが、それは旅先にいるとさらに増したりして、本当にセンチメンタルに沈むときがあります。それもだいたい日が暮れる頃から夜中、独りでぼーっとしていると聞こえる、遠くで鳴るサイレンの音とか点滅する信号機とかタクシーのクラクションとか。街に溢れるありきたりなもの全てが何かしらの意味を持って、僕の心の奥底にある何かを照らすように刺激します。それがなぜ、日常の生活ではなく旅先の一瞬により多く訪れるのか、その理由を考えるんですけど、何故なんだろうなと。なかなか原因がわかりません。普段、能天気に楽しく暮らしているんですけど、よくそんな風に淋しいなぁという気分になることがあります。一番覚えているのが、昔アメリカの西側をずっとフラフラ放浪していて、その後、友達に会いに1人ニューヨークを訪れた時のことです。ずっと車で走り回って行く先々でキャンプをしたり、車中泊をしたり、山や砂漠にいたり。そして、何よりもひたすら高速を走った夏の終わりでした。喋ることも少ない移動が多かったんですが、それだけじゃなく、目にする風景があまりにも乾いていたので、なんとなく気持ち的にも乾いていたのかもしれません。または喋る相手がいなくて、発しようとする言葉をいつしか自分で勝手に飲み込んで、自分の頭の中で答えていたので、心の奥の方に自分が潜り込んでいたのかもしれません。その時、僕はものすごく大きなバックパックに、テントから何から全部1人用じゃない物を持っていて、それにギターとジャンベと呼ばれるドラム、そしてディジリドゥという楽器まで持っていました。最初はギターだけでしたが、道中でいろんな人と出会っていくうちに楽器が増えてしまったのです。バンで旅をしていたので、荷物をたくさん積めたのと、楽器さえあれば電池が切れても心配なしに音楽が楽しめるという理由で、結局そういう大物に手を出してしまったわけです。ところが、そういう旅を数ヶ月やったあとに突然、飛行機移動でニューヨークに行くとなると、それはそれは大変で。一番安かったのは金曜の夕方にニュージャージー州のニューアーク空港に着いて、そこからバスでマンハッタンへ行く経路。ぎゅうぎゅう詰めのバスはやがてタイムズ・スクエアへと到着しました。当時のタイムズ・スクエアというのは観光客も多かったですが、もっといかがわしい店なんかもあってとにかく混んでたんです。人気のない砂漠にいた人間が、突然、タイムズ・スクエアのど真ん中に放り出される。しかも、それは週末を迎える金曜日の夕方で、電飾に明かりがついていて、家路に急ぐ人たちや遊びに繰り出す人たちなど、とにかく歩道には人がいっぱい。そんな中、背中に大きなリュックを背負って、さらにギターもついていて、両脇にドラムとディジリドゥを抱えた僕は、歩道のただの障害物でした。『邪魔だ、どけ!』って言われて『あぁ、ごめんなさい。あぁ、すみません。あぁ、イクスキューズ・ミー』。やがて、前からも後ろからも押し寄せる人の波に僕はどっちを向いて歩けばいいのか全く分からなくなっていました。
ニューヨークで人波にのまれて、右も左も何も分からなくなった。もともと方向音痴なので、そういうのはしょっちゅうなんですけど、本当にどっちを向いて歩けばいいのか分からないと心の底から思ったのは多分、そのときが生まれて初めてでした。本当に大した理由じゃないんですけど、そこで今までに感じたことのないような孤独を感じたんです。誰も知らない環境には慣れていましたし、訪れたことのない町に行って、そこから知り合いをつくるということも、まるで食事を取るように当たり前にできるようになっていましたが、その時ばかりはそういうスキルも全く役に立たない。『邪魔だ、そこどけ!』ってカバンを押しのけられたりして、どんな荒れ地に独りでいるときより、いつ乗れるかわからない経由便を夜中に独りで待つ空港より、本当に孤独を感じました。できることならここからすぐ消えたい、とにかく人のいない所に行きたい。贅沢で乗ったことのないタクシーに乗って、とりあえずここから去ろうかと。ただ、お金もなかったですし、たぶん、そもそもタクシーに乗るっていうことすらできないほど、孤独を感じていたと思います。なので、僕は結局いつもの行動を取りました。それは、歩くこと。何かを感じたり、心がチリチリしてきたら、とにかく歩く。ヘッドフォンをつけて、前へ前へと足が進むような曲をかけて、目の前に広がる景色だけに気持ちを集中してひたすら歩く。その時、僕がいたのはタイムズ・スクエアのブロードウェイだったと思うんですけど、自分の目で見える一番近くの角を右でも左でもいいので曲がって、そこから1ブロック歩いたらまた曲がる。そうやって僕は人の群れから少しずつ離れていきました。人と距離をとると、不思議と少しずつ今度は自分のリズムが戻ってきます。辺りをキョロキョロ見渡したりして、やっと自分が今ニューヨークにいるんだと気づいて、その景色を楽しむ余裕が生まれてきました。結局、気づけば1時間以上歩いて、紙に書いておいた友達の住所にたどり着く頃にはすっかり気分が戻っていました。旅先でこういう気持ちはたまになるんですが、何も旅先でなくても、なんだか孤独を感じたり不安になったりすることが、きっとあると思います。特に最近のように日が短くなり、寒くなる秋に。通勤の電車や、学校の帰りに。そんな孤独っていうのは理由がある時もあれば、何の前触れもなく突然やってきたりもします。僕にとって多いのは楽しいパーティーの帰りとかです。そういう時は電車を途中で降りてしまいましょう。そして、気が済むまで歩くこと。旅先ではどんな場所でどんな時間に歩くかというのがとても大事で、時に危ないこともあるのでどこでもやっていいわけではないですが、それでも歩ける所は歩く。ドキドキしていた自分の心音が、やがてヘッドフォンから聞こえる音とちょうど心地良く混ざって聞こえるとき、きっと皆さんの心は落ち着いて、孤独じゃなくなってるんじゃないのかなと思います。
野村訓市
1973年東京生まれ。幼稚園から高校まで学習院、大学は慶応大学総合政策学部進学。
世界のフェスティバルを追ってのアメリカ、アジア、ヨーロッパへの旅をしたトラベラーズ時代を経て、99年に辻堂海岸に海の家「SPUTNIK」をプロデュース。世界86人の生き方をたったひとりで取材した「sputnik:whole life catalogue 」は伝説のインタビュー集となっている。
同名で「IDEE」よりインテリア家具や雑誌なども制作。現在は「TRIPSTER」の名で幅広くプロデュース業をする傍ら、ブルータス等の雑誌などで執筆業も行う。