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訓市が antenna* からセレクトした記事は・・・
何かを変えたい人へ贈る魔法の言葉『Think different.』
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Theme is... APPLE
『Travelling Without Moving』=「動かない旅」をキーワードに、
旅の話と、旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。
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番組前半はリスナーの皆さんから手紙、ハガキ、メールで寄せられた
旅のエピソードと、その旅にまつわる思い出の曲をオンエア!
訓市による“メッセージ返し”もお楽しみに。
後半のテーマは「APPLE」。
どこの馬の骨とも分からない頃の訓市に全幅の信頼を置いて
サポートしてくれた恩人との出会いから現在に至るまでの
長い付き合いについて語る。
先日、突然その友人を失った訓市が今、感謝したいこととは?
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番組では皆さんの「旅」と「音楽」に関する
エピソードや思い出のメッセージをお待ちしています。
「旅」に関する質問、「旅先で聴きたい曲」のリクエストでもOK!
手紙、ハガキ、メールで番組宛てにお願いします。
メールの方は番組サイトの「Message」から送信してください。
リクエスト曲がオンエアされた方には番組オリジナル図書カード、
1000円分をプレゼントします。
皆さんからのメッセージ&リクエスト・・・ お待ちしてます!
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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
antenna* TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛
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MUSIC STREAM
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
Sunday / HNNY
Maybe Tomorrow / Stereophonics
Ain't It The Life / Foo Fighters
I Will Follow You Into The Dark / Death Cab For Cutie
潜水 / Mr.Children
I'm So Tired / The Beatles
One Mo'Gin / D'Angelo
Corridor Of Dreams / Cleaners From Venus
Joey / Concrete Blonde
ON AIR NOTES
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。
Kunichi was talking …
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僕はよく「なんの仕事をしてるかわからない」と言われますが、実はすごく地味で、いろんな仕事をただ同時にしているだけです。事務所にこもって原稿を書いて赤文字を入れたり、Excelを作って送ったり、内装のスケッチを書いて見積もりを全部チェックしたり。熱中するとPCの前から4時間ぐらい全く動いていないとかはよくあって、このせいで老眼と四十肩、腰痛も持っています。それに追い討ちをかけるように、毎月片道10時間以上かかるフライトもあると。いつまでこれできるのかな?と思いつつも、文句は全くありません。僕が長い旅から帰ってきたときは本当にお金も家もなくて、いろんなバイトで食い繋ぎながら、それでも何をしたいか全く分からんという生活でした。だから、初めて原稿を書いてお金をもらったときは社会に認められたというか、自分の名前でちゃんと責任を持ってやった仕事でお金をもらったと、もったいなくて使えなかったのを覚えています。それと同じで、ものすごく嬉しかったことがもう一つありました。それは、僕が海の家をやっていたときに、どうしてもPCが必要なプロジェクトがあって、知り合いに連絡先を教えてもらって、当時、初台にあったAppleの本社に行きました。海から行ったので僕はビーサンに海パン、それにタンクトップで、しかも、日焼けで黒い。当時のAppleの社員さんはまだ皆スーツ姿で、PRの方が3人ぐらい玄関にいたのかな?ギョッとした目で見られましたが、その中の1人の男性だけが「お、野村さんは“Think Different”な人ですね」と笑顔で迎えてくれました。“Think Different”というのは、一時期潰れかけていたAppleに創業者のスティーブ・ジョブズが戻ってきたとき、最初にお金を突っ込んでやった企業広告というかキャンペーンです。それは、外の人たちのためでもあるし、そこで働く人たちのものでもありました。ガンディーとかジョン・レノンやモハメド・アリ・・・世界を変えたという人たちは、時にクレイジーと言われる人たちで、でも、だからこそ世の中を変えられたんだと。人と一緒じゃなくて違った考えで上等という、その後のAppleの方向性を決定づけたキャンペーンが僕はすごく好きでした。出てくる写真の人たちも好きでしたし、その意味、“無理に人と違うことをする必要はないけれど、合わせる必要もないんだよ”という、そういうところがすごく好きだったんです。なので、初対面でどこの誰かも分からない僕にそう言ってくれたその人は、すごく素敵に見えましたし、しかも、僕の話を真剣に聞いてくれて、「わかりました」と、機材を貸してくれたりサポートしてくれました。以来、僕はAppleと20年近くいろんなことをしました。それもこれも全てはその人のおかげで、Appleというのは僕はちっちゃいときにそのロゴを見てから大好きな会社でしたが、そんな世界の会社にどこの馬の骨ともわからない僕が協力してもらえる。それは初めてもらった原稿料とかと同じぐらい社会の一員になれたというか、信用してもらえたんだという、本当に嬉しい瞬間でした。
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今となっては僕もいろんな仕事をし、特定の人たちにはそのことを知られたりして、いろんな仕事を持ちかけられたり、逆に何か頼んだときに便宜を図ってもらえたりするようになりました。とても有り難いんですけど、それは同時に、自分が今までやってきたことをそれなりに評価してくれた人たちが何か見返りを求めてきてくれてるわけなんです。それは僕の仕事の質がいいのか、それとも僕を使えば少し人に知られるんじゃないのかとか、そういう理由だと思います。だけど、僕が忘れないようにしていること、大事にしなきゃいけないことというのは、そういうキャリアを積んだ僕に仕事が振られるようになる前・・・つまり、僕がまだ何ができるか自分自身も分かっておらず、しかも証明するものさえ何もないときに手を差し伸べてくれた人たちのことです。例えば、自分の原稿というものを書いたことのない、ただの話の面白い旅帰りのあんちゃんと言われていた頃に、「君は面白いことを書けると思うから、ページをあげるから書いてごらん」と仕事に誘ってくれた編集の人。「書けなかったらいくらでも教えてあげるから」と、1年ぐらい毎週ご飯を食べさせてもくれました。「海の家がすごくデザインが面白いから、僕のお店を好きに改造していいよ」と、店舗の改装を依頼してくれた人。Appleにいたその人も、そんなふうに最初に何の根拠もなく僕を信じてくれてサポートしてくれた人でした。そして、先日も『犬ヶ島』がアカデミー賞にノミネートされた時、ニュースを見てすぐ「おめでとう。立派になったね!」とテキストしてくれました。考えてみると10何年そうやってずっと見てくれていたんですが、そんな人が先日、突然亡くなってしまいました。僕がちょうど友人と彼の誕生日を祝って乾杯して騒いでる頃に、その人は亡くなっていました。人生って本当に何なんだろうなと心から思いましたし、僕はずっと見守ってくれていた人を失くしたんだなと気づきました。最初に会った時、「肩書きなんてなくてもいいんだよ。いい仕事をしてハッピーにやっていれば」と言ってくれたのも彼でした。普段、良く会ったり食事をするようなことはなかったですが、定期的に連絡をくれては目にした仕事を評価してくれたりする人でした。感謝の言葉をどうして言わなかったんだろうなと、今、「感謝してます」と言っても本当に意味はありません。人生は旅だと、よくみんなかっこよく言いますが、その旅路の途中で会った人たちに感謝の気持ちをちゃんと口にして別れていかないと、本当にダメなんだなと僕は強く思います。皆さんもそれをぜひ忘れないようにしてください。そして、肩書きとかそういうことを抜きにして面白い若い子がいたら、話をよく聞いて信じてあげてください。それはとても嬉しいものです。僕にそれを教えてくれた恩人はポールといいます。J-WAVEと同じビルにあるAppleで誰よりも長い間働いて、生き字引のようだったポールは僕にとってはどんなMacよりもiPhoneよりも、ポールがAppleだったんだなと、今になると思います。みなさんはAppleというとスティーブ・ジョブズやデザイナーのアイブしか知らないかもしれませんが、こういう人たちがいるから会社というのはあるんだと思います。
本当にありがとう! ポール。
野村訓市
1973年東京生まれ。幼稚園から高校まで学習院、大学は慶応大学総合政策学部進学。
世界のフェスティバルを追ってのアメリカ、アジア、ヨーロッパへの旅をしたトラベラーズ時代を経て、99年に辻堂海岸に海の家「SPUTNIK」をプロデュース。世界86人の生き方をたったひとりで取材した「sputnik:whole life catalogue 」は伝説のインタビュー集となっている。
同名で「IDEE」よりインテリア家具や雑誌なども制作。現在は「TRIPSTER」の名で幅広くプロデュース業をする傍ら、ブルータス等の雑誌などで執筆業も行う。