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訓市が antenna* からセレクトした記事は・・・
馬具工房がメゾンの原点。エルメスが開催する馬術の祭典。
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Theme is... パリ北駅
『Travelling Without Moving』=「動かない旅」をキーワードに、
旅の話と、旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。
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--- バイバイした記憶が蘇る喫茶店「カバ」---
番組前半はリスナーの皆さんから手紙、ハガキ、メールで寄せられた
旅のエピソードを紹介しながら、
その旅にまつわる思い出の曲をお送りします。
訓市による“メッセージ返し”もお楽しみに!
後半のテーマは「パリ北駅」。
先日のロンドンとパリ旅で久しぶりにユーロスターを利用した
訓市がしでかしてしまったアクシデントとは?
かつて、友だちとの別れの前に足を運んだ喫茶店のサインを
目にしてセンチメンタルになってしまた訳について語る。
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番組では皆さんの「旅」と「音楽」に関する
エピソードや思い出のメッセージをお待ちしています。
「旅」に関する質問、「旅先で聴きたい曲」のリクエストでもOK!
手紙、ハガキ、メールで番組宛てにお願いします。
メールの方は番組サイトの「Message」から送信してください。
リクエスト曲がオンエアされた方には番組オリジナル図書カード、
1000円分をプレゼントします。
皆さんからのメッセージ&リクエスト・・・ お待ちしてます!
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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
antenna* TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛
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MUSIC STREAM
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
All I Need / Air
Easy / Sky Ferreira
The Pretender / Jackson Browne
I'm Yours / Jason Mraz
私のフランソワーズ / 荒井由実
What Becomes Of The Brokenhearted / Jimmy Ruffin
Woman / Mumford & Sons
Ballad Unknown / Boy Bjorn
Oceans / Petit Biscuit
ON AIR NOTES
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。
Kunichi was talking …
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今夜は『パリの北駅』をテーマにお話します。先週お話ししたロンドンの後にパリに行きました。まぁ、今回のロンドンとパリというのはフランスのブランド『エルメス』のメンズのショーをロンドンで見て、その後エルメスがスポンサーする馬術障害競争のレースである『ソウエルメス』というのを見に行くことになっていたのです。最近、ロンドン行ってパリに行くというのはあんまりなかったんですが、久しぶりにユーロスターを使いました。都心部から都心部へ2時間半で行ける。駅には30分前に行けばいいというのが売りのユーロスターですが、先週話したブリグジットのせいで税関の人たちの仕事がこれから大幅に増えるということで、パリ側の方ではそれがものすごい抗議のデモみたいになっていて、駅で5時間待たされてパリからロンドンまで8時間とか、ものすごいことになってるという話だったんですが、逆のロンドンからパリはそうでもないと聞いてですね、昼間からワインを飲んでのんびり朝食をとっていると町のあちらこちらで起こっている通行止の大きな工事のせいで大幅遅刻をしてしまいました。駅に着いたのが出発の20分前、いろんな人に泣きついて「早めに通してくれ通してくれ」って言いながら突き進んだんですが、最後でパスポートコントロール、スタンプを押すところで残り1分。電光掲示板から電車の名前が消えて、「ああ、乗り過ごしてしまった」っていう久しぶりの事態を起こしましました。幸い1時間後のものにすぐ振り替えられて乗り込んだんですけども、逆に夕方の田園風景をゆっくり眺めることができました。国境を越えると確かにどこか国の変化を感じることができるっていうのは何故なんでしょうかね。イギリスとフランスっていうのは海峡に挟まれていますから違うんですけども、ヨーロッパの地続きの国でも国境を越えると必ず景色どこか変わるのが毎回不思議に思います。イギリスとフランスの間ですとイギリス側を走っていた時は有名な低く垂れ込んだ青空の隙間一つ無い雲が続いてですね、それがドーヴァー海峡を超えてフランス側に行くといつの間にか雲間から陽が差していたり、やがて青空が広がっていて最後パリに着く頃には本当に綺麗な夕焼けを見ることができました。この飛行機じゃなくて電車とかバスの旅っていうのがヨーロッパではやっぱり余裕があれば良いなあってすごく思ったんですけども。そう思いながら『パリの北駅』に降り立って… 北駅っていうのはこれぞターミナル駅っていう雰囲気で古くてかっこいいなぁと再び惚れ直しながら外に出ました。駅を出てタバコに火を点けて辺りを見回していると、角にあるカフェの赤いネオンサインが目につきました。『ヒポポタマス』、日本語でいうと『喫茶店カバ』といえばいいんでしょうか。「ヒポポタマス、ヒポポタマス」って数回自分で呟いた後、一瞬で僕は昔のことを思い出しました。バックパッカーの頃、ロンドンに住んでいた頃、そして初めて雑誌を作った頃、随分とロンドンとパリの間を往復したものでした。僕が友達を見送る時もあれば、友達が僕を見送ることもある。それはいつもパリでは北駅で、イギリスだとその当時はウォータールーだったんですけども、パリ側で最後に一杯コーヒーでも飲もうと駆け込む場所、それが『ヒポポタマス』だったのです。
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カフェの『ヒポポタマス』、確かサンドイッチも何も決して美味しくはなくて、その割に値段も安くない。つまり駅の目の前にあるという地の利を活かしただけのずるいカフェと僕らは呼んで呼んでいたんですが、とは言ってもその地の利に勝るものはないですよね。そのギリギリまで駅の近くのそこに居られる。それで思い出したのが若さゆえのセンチメンタルな気持ちなのか、それより自分の人生がそれからどうなるか分からないのだから次にいつ会えるか分からないという気持ちか。それとも、大して別れというものに今ほど慣れていなかったから若い頃っていうのは一々バイバイすることがとても大事だった気がします。誰かが長旅に出るという時は毎度毎度、大勢で駅や空港まで見送ったりしたものでした。今では数年ぶりに帰国した親友っていうのがいても誰も総出で見送ったりはしないですよね。一回どっかで集まって喋ってドライに別れたりするというか。感覚というものが苦くて飲めなかったコーヒーを美味しく感じるように、何故かだんだん麻痺していっていくようなものなのかなぁと思います。まあ、そんなこんなっていうのを喫茶店カバ、『ヒポポタマス』のサインを見た瞬間に一瞬に思い出したのです。それはとてもとても不思議な感覚でした。そもそも最初に『ヒポポタマス』に行った頃っていうのは僕がまだ20代でEUがまだECだった頃。ユーロもなくってフランだリラだルーブルだと言っていた時代です。そんな20代を過ぎて40代も半ばを超えた今、イギリスはEUを脱退し平成は終わりを迎えて、僕のかつての友達とか今やどこにいるかも知らない彼ら、今頃どこにいてどんな人生を過ごしているのだろう。そして、こういうカフェとかで名残惜しくバイバイしたことなんていうのを今でも覚えているのだろうか?そんなことをすごく1人で考えていました。迎えの車の中で同行した人たちが「なんでそんなにボーっとしたり、カフェの写真を撮ってるんだ」って言うんで説明してんですけども、多分僕より若い同行者に一々駅まで来てバイバイするっていうことが多分あまり理解できなかったと思います。パリも2泊滞在しまして『ソー・エルメス』という馬術障害レース、僕は馬術障害っていうのは初めて見たので、まぁ背の高い馬を使って僕らの背よりも高い障害を跳んでいくんですよ、ものすごい迫力で。久しぶりに馬に乗りたいなぁと思いましたし、それから監督のウェスにも会って一生奢ってくれるというディナーを奢ってもらいまして、またちっちゃい街の食堂みたいなところで美味しいイタリアンが食べられるんだなぁとか、素晴らしい短い旅でしたがそれでも帰りの飛行機で何を一番思い出したかっていうと、北駅の角にあったカフェと当時沢山したバイバイの数々でした。もうこれから生きてく間にああいうお別れのシーンとか「さよなら、さよなら」っていうのはあるんでしょうか。そんな旅をまた持てるのかなぁ〜とずっと考えていました。
野村訓市
1973年東京生まれ。幼稚園から高校まで学習院、大学は慶応大学総合政策学部進学。
世界のフェスティバルを追ってのアメリカ、アジア、ヨーロッパへの旅をしたトラベラーズ時代を経て、99年に辻堂海岸に海の家「SPUTNIK」をプロデュース。世界86人の生き方をたったひとりで取材した「sputnik:whole life catalogue 」は伝説のインタビュー集となっている。
同名で「IDEE」よりインテリア家具や雑誌なども制作。現在は「TRIPSTER」の名で幅広くプロデュース業をする傍ら、ブルータス等の雑誌などで執筆業も行う。