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訓市が antenna* からセレクトした記事は・・・
『映画:フィッシュマンズ』予告編公開 原田郁子らが佐藤伸治との出会いを語る
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『TRAVELLING WITHOUT MOVING』・・・
「動かない旅」をキーワードに旅の話と、
旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。
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#355 --- 訓市が語る、フィッシュマンズ ---
デビュー30周年の節目に当たる今年、
ついに公開されたフィッシュマンズの
ドキュメンタリー映画を鑑賞した訓市が、
彼らの音楽との出会いや第一印象、
そして、今改めて感じる魅力と儚さについて語る。
選曲も異例のラインナップで、
後半は訓市セレクトによるフィッシュマンズ特集!
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「旅」と「音楽」に関するエピソードや思い出の
メッセージをお待ちしています。
「旅先で聴きたい曲」のリクエストも大歓迎!
手紙、ハガキ、メールで番組宛てにお願いします。
番組サイトの「Message」から送信してください。
皆さんからのメッセージ&リクエストをお待ちしています!!
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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
TUDOR TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛
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MUSIC STREAM
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
Fais Comme L'oiseau / Michel Fugain
Flores De Color De La Mentira / Cafe Tacuba
Nunca Mais / Joao Donato & Marisa Monte
Le Temps Des Cerises / Yves Montand
Wedding Baby (Live Version) / Fishmans
ナイトクルージング (Live Version) / Fishmans
救われる気持ち / Fishmans
In The Flight / Fishmans
ON AIR NOTES
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。
Kunichi was talking …
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7月9日公開になったフィッシュマンズのドキュメンタリー映画、『映画:フィッシュマンズ』を公開前に観る機会があったんですが、3時間近くあるんですがとにかく色んなことを考えすぎましたし、感動もしましたし。3時間あっという間に終わってしまって、そこはかとない悲しい気分にもなりました。クラウドファンディングでできたこの映画、是非色んな人に観てもらいたいと思い今日はそれについて話そうかなと思いました。この映画はただのバンドのドキュメンタリーというだけでなく、90年代という年代をなぜかすごく感じさせるものでもありますし、観た僕にとってその頃を思い出して時間旅行に出掛けたような映画です。フィッシュマンズは僕も大好きで、今では若い人たちも「フィッシュマンズ好き」って聞くことが多い伝説のバンド扱いされていますが、当時はそこまで人気もありませんでしたし、そもそも僕もぶっちゃけ最初は好きではありませんでした。ちょうど90年代の始まりと共に登場したバンドですが、その時代というのは僕を始め周りの友達の多くは先端はアメリカやイギリス等の海外にあると信じ込んでいて、歌謡曲とかJポップと呼ばれる邦楽と洋楽っていうのが今よりきっちりと線引きされていたように思います。そして洋楽から影響を受けてそれをなんとか日本風にアレンジする人たちより、本場に行って向こうのバンドのライブを観たりする方がすごいというような風潮も確かにありました。浅はかだった僕はその1人で、日本で悪戦苦闘しながら海外で生まれた新しい音楽や文化を日本で独自にやろうとする人たちを横目に、俺は本場に行ってその真ん中でそのオリジナルを観てやろう!と気張っていたのです。それでバイトをしてはお金を貯め、どこかへ出かける内に行きっぱなしの旅をしたりしていたのですが、そんな中で僕はつまり日本のバンドやミュージシャンよりとにかく海外の新しいものを見つけたい!という感じだったのです。バンドブームと呼ばれたものが去った頃に登場したフィッシュマンズのことは最初は知りませんでしたし、渋谷系と呼ばれたバンドも避けていました。ベレー帽を被ってカルチャー好きで、雑誌『オリーブ』が大好きな女友達が「フリッパーズギターが大好きなの!」と言うと、「なんだそんなの!」という感じで、音を聴く前にその雰囲気だけで拒否していたくらい浅はかな若者でした。今思うのは音楽というのは見てくれやムーブメントで選ぶのでなくて、ちゃんと音を聞いてから判断する。それに尽きると思っています。
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僕が最初にフィッシュマンズをちゃんと知ったのは、アルバム『空中キャンプ』が出た辺りからです。熱狂的に彼らのことが好きな知り合いが出てきたり、サブカル雑誌と呼ばれるものやダンスミュージック好きやらが「音がやばいから聴いてみてくれ」と教えてくれたのが最初です。ちょうどチルアウトと呼ばれる音楽が流行ってきた頃で、当時あったトリップホップのようなダブな感じの音色といい、素敵だなと思ったのですが、ボーカルの声に特徴があって最初はちょっと僕は苦手かもと敬遠したのを覚えています。まるで猫の鳴き声のようというか、かなり個性的で楽器のように聞こえるんですけども、それに慣れるまで時間がかかったのです。けれどもやがてその声が感情を電気に通したようなもので、その最小限の長さの簡単な言葉を組み合わせて作る情景の浮かぶ深い歌詞と合わさることですっかり虜になってしまいました。そこにダブとかレゲエって言われるんですが、ファンクといいますかタイトなドラムとベースが合わさり、カッティングギターやピアノやヴァイオリンの音がディレーと共に絡むとなんとも言えない雰囲気を醸し出します。初期のよりポップで少し可愛いらしいメロディの曲も良いですが、僕はやっぱり“世田谷三部作”と言われる後期のアルバムが好きです。ライブ盤で聴いても分かるんですが、毎回違うアレンジで1曲が長く、もし今もボーカルの佐藤さんが生きていたら日本版のグレイトフル・デッドじゃないですが、ツアーを一緒に回るファンっていうのがたくさん生まれていたんだろうなと思います。そして彼らの音源っていうのは1つ1つが旅というか、本当に心を色んな場所に連れてってくれるためのサウンドトラックのようなもので、まるでよく浮遊感のある音って言われますけど、本当に地上から数センチ浮いた中を自由に街をふらふら歩いているような、そんな音です。車の中で、そしてキャンプの夜にこれほど合う音楽もないと思います。配信サービスやSNSの影響でフィッシュマンズを知った海外のファンというのがどんどん増えていて、全世界の音楽好きが投票して採点する『Rate Your Music』というサイトがあるんですけども、すごく信用があるとされているんですが。そこでは最後のライブアルバム『男達の別れ』は全体の17位です。100位以内に入る日本のバンドっていうのはもちろん1つもないですし、17位以上にいるのはレディオヘッド『OK Computer』とかピンクフロイドとかビートルズだったりして。生きている内に望んだような評価を得ることが出来なかったと思いますが、メジャーデビュー30年後、佐藤さんが亡くなって20年以上経った今、その音だけでそこまで評価されたっていうのは本当に素晴らしいですし、佐藤さんが生きている内にその評価っていうものを知ることが出来なかったのは本当に残念ですけども、短いけどその命を全部使って作り上げた音楽っていうのを、ぜひ皆さんも聴いてみてください。良いなぁ、どうやってこういうのを作ったんだろうって思った方は、ぜひ映画を観てみてください。
野村訓市
1973年東京生まれ。幼稚園から高校まで学習院、大学は慶応大学総合政策学部進学。
世界のフェスティバルを追ってのアメリカ、アジア、ヨーロッパへの旅をしたトラベラーズ時代を経て、99年に辻堂海岸に海の家「SPUTNIK」をプロデュース。世界86人の生き方をたったひとりで取材した「sputnik:whole life catalogue 」は伝説のインタビュー集となっている。
同名で「IDEE」よりインテリア家具や雑誌なども制作。現在は「TRIPSTER」の名で幅広くプロデュース業をする傍ら、ブルータス等の雑誌などで執筆業も行う。