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訓市が antenna* からセレクトした記事は・・・
松田聖子ベスト盤「Bible」シリーズ初の完全生産限定アナログ盤 4月1日発売?
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『TRAVELLING WITHOUT MOVING』・・・
「動かない旅」をキーワードに旅の話と、
旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。
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#367 --- 過去ではなく、未だ知らない未来へ ---
前半はリスナーの皆さんから寄せられた
数多くの“お便り”の中から、
訓市がピックアップして紹介します。
旅の思い出、恋愛、進路、生き方などなど、
テーマはさまざま・・・。
後半のテーマは「時間旅行」。
先日、思いがけず耳にした松田聖子の名曲「時間旅行」。
その時、訓市の頭に浮かんだこと、思い出した風景・・・
自由に旅ができない今、未来を夢想して思い描く
訓市の頭の中とは?
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「旅」と「音楽」に関するエピソードや思い出の
メッセージをお待ちしています。
「旅先で聴きたい曲」のリクエストも大歓迎!
手紙、ハガキ、メールで番組宛てにお願いします。
番組サイトの「Message」から送信してください。
皆さんからのメッセージ&リクエストをお待ちしています!!
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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
TUDOR TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛
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MUSIC STREAM
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
A Campfire Song / 10,000 Maniacs
I Want It All / Warren G
I'll Be There / Eric Benet
Send It On / D'Angelo
サヨナラColor / ハナレグミ 忌野清志郎
Cherry Wine / Nas feat. Amy Winehouse
Wings / Mac Miller
Slide / Calvin Harris feat. Frank Ocean
Champagne Supernova (Live Version) / Oasis
ON AIR NOTES
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。
Kunichi was talking …
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自分も実際に歳を取ってきてジジイだなんだっていう話をよくするんですけども、歳を取るということのはただの数字だという話もよく人はします。それというのは心の持ち様で、心が若ければ歳というのはただの積み上がっていく数字だと。もちろんそうだと僕も思いますし、逆にそうであってほしいと願う気持ちは年々重いといわれるほどに強くなっていくのですが、実際はただの数字じゃないっていうことを薄々気づいてます。年々硬くなっていく体、覚えられない人の名前、よりひどくなる二日酔い。日々の暮らしの中で、あ?これはただの数字の積み上げじゃないぞと実感することが多々あるというか、多すぎるのです。それでも気持ちだけはまだ違うぞと思っていたのですが、それを覆すようなことが先日ありました。僕が高校生の頃、定番の失恋ソングといいますか、特に女子たちが大変好む曲トップ3の中に松田聖子の「時間旅行」という歌がありました。確かこれはシングルにもなっていないアルバム収録曲で、通を自称する女の子たちが「これは名曲よ、名曲だわ!」と話していたのをよく覚えています。その歌詞を見て10代の高校生が歌う心情じゃないだろ!と冷めた目で僕は見ていたんですけど、だいたい高校生のくせにですね、彼氏と別れるとカラオケ屋さんで皆、鈴木清美の「タクシー」とか、アン・ルイスの「ウーマン」などを歌って、ラグビー並のスクラムを組んで励ましあって泣くという女子の姿を何度も見ましたが、本当にそうなってしまうほど恋というのは一大事だったわけです。それで“時間旅行”ですが、別れた相手を空港で見かけてしまい、あぁ〜あの時に別れてなければと過去と未来を時間旅行するという切ない歌詞なのですが、これをまた最近どこかで耳にしたんですよ。定食屋だったかどうかは忘れてしまったんですが、それをぼんやりと聞きながら、あぁ自分もよく若い頃は時間旅行をしたものだと思ったのです。時間旅行といえばタイムトラベルのことで過去にも未来にも行けますが、僕の場合はもっぱら未来。過去の辛い恋愛を思うのではなくて、これからアメリカに行くとしてとか、モンゴルの砂漠に行きたいから行くとしてどうやって行くかっていうことを想像するのが僕の時間旅行でした。フラフラと旅行を始める前はとにかくアメリカに行きたかったので、色々と本や雑誌を調べたり、人の話を聞いては夢想したものでした。例えばスケートボードにハマり、とにかくアメリカに行きたかった頃は「まず、ハンティントンビーチにあるというヴァンズの直営店に行ってパーソナルオーダーのスニーカーを注文して、それをはいてヴェニスビーチに行って、きっと好きなスケーターに出会える。その時には同じジミーズのパンツを買って、それからモールに行ってポップコーンを食べながら映画を観てみたい」とか、妙に詳細な夢想をしたものでした。
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いざ自分がバックパッカーになると、夢想していた旅というものが実現できるんじゃないのかっていう思いをたくさんしてしまったものですから、それはそれはその今後の旅というものにさらに期待をするようになってしまいました。そして夢想していた旅というのを一つずつ叶えていくというのが僕の旅人生と言ったらオーバーですけども、その時期の生き甲斐だったような気がします。それはハードなバイトと、格安航空券と、10時間以上バスに揺られたり、3等列車を乗り継ぎながら夢見た行き先にどうやっていくか?それをどうにか実現していくというものでした。さんざん時間旅行で行く前から何度も訪れた気でいたので、実際に行ってものすごく感動する時もありましたが、がっかりしたこともありました。けれども夢想する旅、時間旅行というものは常に先を見ていたんだなぁと。それが先日、松田聖子の「時間旅行」を耳にした時、僕はドキッとしました。最近というかここ何年ですが、時間旅行という奴がすべて過去に向かっているということに気づいたからです。過去の旅や日々を考えたり、夢想することが多いというか全てでした。ヘミングウェイの短編集に「何を見ても何かを思い出す」というタイトルのものがあるんですが、僕の日常っていうのはいつの間にかまさにそれで、日々何かをしている時、ふと目にした何かが昔の記憶を呼び覚ますわけです。するとほんの数秒なのか、数分なのか、何十分なのか、僕は呼び起こされた昔の記憶の中をフラフラと旅するわけです。それは目についた看板から、今回のように店先で流れてきた音楽から、匂いから。若い頃はこんなことはなかったんですけどね。どちらかと言えば「何を見ても何かを夢みる」に近かったと思います。昔のことばかり思い出すということこそ、僕が歳を取ってきた証拠なんだということに僕は気づいてしまいました。コロナが蔓延してから、僕はずっとどこかへ行きたいとばかり思っていましたが、それはひょっとして決して戻ることのできない過去へのことだったんじゃないか。そんな風に考え出すと、そうに違いないと思うようになりました。過去ばかり思い出すのではなく、知らないもの、経験したことのない場所やことに思いを馳せないとダメだなと今は思っています。僕は海外への行き来が再びできるようになったら友達たちのいる街へまず行きたい、いやむしろ帰りたいような心情だったんですけども、最初の一回こそ今まで行ったことのない場所に行きたいなと思う様になりました。というかそうじゃないと旅ってつまらないなと。昨日より明日へ。言うのは簡単ですが、なかなか難しいんですけどね。皆さんもコロナの間に色んなことを考えて、旅したいとか、前に行ったあそこに行きたいっていう思いがたくさんあると思うんですが、こんな時こそ行ったことのない場所でやったことのないことをしてみるっていうのが良いんじゃないのかなと思います。
野村訓市
1973年東京生まれ。幼稚園から高校まで学習院、大学は慶応大学総合政策学部進学。
世界のフェスティバルを追ってのアメリカ、アジア、ヨーロッパへの旅をしたトラベラーズ時代を経て、99年に辻堂海岸に海の家「SPUTNIK」をプロデュース。世界86人の生き方をたったひとりで取材した「sputnik:whole life catalogue 」は伝説のインタビュー集となっている。
同名で「IDEE」よりインテリア家具や雑誌なども制作。現在は「TRIPSTER」の名で幅広くプロデュース業をする傍ら、ブルータス等の雑誌などで執筆業も行う。