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訓市が antenna* からセレクトした記事は・・・
竹中直人が直感で決めた、『ゾッキ』監督と音楽のこと。
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『TRAVELLING WITHOUT MOVING』・・・
「動かない旅」をキーワードに旅の話と、
旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。
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#383 --- お気楽ティーンエイジャーに一石を投じた?! ---
追悼! Mr. ジャン=ジャック・べネックス・・・
訓市もティーンエイジャーの頃に背伸びして
映画館で観た名作『ベティ・ブルー』を手がけた
フランス人映画監督の訃報に接して考えたこと、
思い出したことを語る。
当時、アメリカ一色だった訓市がフランスに興味を持ち、
行ってみたいと思うに至った“きっかけ”とは?
旅をする時に必携だった『ベティ・ブルー』のサントラを
どのように愉しんだのか? いかに助けられたのか?
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「旅」と「音楽」に関するエピソードや思い出の
メッセージをお待ちしています。
「旅先で聴きたい曲」のリクエストも大歓迎!
手紙、ハガキ、メールで番組宛てにお願いします。
番組サイトの「Message」から送信してください。
皆さんからの“お便り”をお待ちしています!
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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
TUDOR TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛
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MUSIC STREAM
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
Biggest Part Of Me / Take6
Africa / Weezer
Lost Stars / Keira Knightley
Lost / Donkeyboy
In The Flight (男達の別れ) / フィッシュマンズ
Zorg et Betty / Gabriel Yared
Cargo Voyage / Gabriel Yared
C'est Le Vent, Betty / Gabriel Yared
Un baiser sur la Vitre / Gabriel Yared
ON AIR NOTES
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。
Kunichi was talking …
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『Betty Blue』っていうと映画なんですけども、それを作ったジャン=ジャック・べネックス監督が先日亡くなりました。もう随分といわゆる劇場映画というのを作っていないので、今の映画ファンにはあまり馴染みのない名前かと思います。実際にニュースもそんなに大きいものではなかったのですが、80、90年代にインディ映画を上映するミニシアター文化を愛していた者にとってはとても影響力のあるビッグネームだったと思います。フランス映画ってとにかく難解だったり、セリフが長くて哲学的と言われますがよく分からん。それよりなんといってもアメリカでしょう!服もかっこいいし、音楽だってアメリカが一番だ! そう思い込んでいた時代、まぁ特に僕なんですけど。フランス映画のイメージといえばとにかく長いとか、母親たちが大好きなアラン・ドロンのイメージしかなかったんですけども、そんな時にべネックス監督やリュック・ベッソン、レオン・カラックスという若手の監督が出てきまして、それまでのフランス映画のイメージを変えたらしいんですね。「らしい」というのは僕も付け焼刃で当時観ましたけど、過去のフランス映画と比較してそう思えるほど分かっていなかったっていうのもあります。フランス映画はとにかくサントラは良いなぁと思うぐらいだったのです。当時ちょっと突っ張りたい男の子は大体そうだったと思いますが、昔はメジャーなもの、大多数が良いというもの=ダサいという風潮が強く、東京のそれも渋谷辺りではとても強くて、音楽もアンダーグラウンドなものもちゃんと知ってなきゃいけないし、映画もとりあえずミニシアターに行ってデートで観るようなのが必要不可欠な時代だったと思います。全く理解が出来ないんだけれど面白いとしよう!というような映画をみんな観に行っては睡魔に襲われながら鑑賞していた気がします。そんな中の映画にべネックス監督の『Betty Blue』がありました。これは冒頭からいわゆる一つの激しい愛のシーンで始まるので、家族で一緒に鑑賞したりするのにはものすごく不向きな映画なので是非やめていただきたいんですけども、これを僕が最初に観た時は「はいはい。フランス映画って奇を衒うというか、ショッキングな感じですよね」という感じでした。それが段々と引き込まれてしまい、とても疲れる話でもあるんですが観終わった後にはものすごい感情への刺激と疲労感と、「これが本当の恋愛映画なのか! だとすると今まで観たものは何だったんだ?」と疑問符もたくさん頭に浮かびました。僕だけがそのような感想を持ったわけではなく、周りにはこの映画をきっかけに彼女と別れる者が何人もいました。お気楽ティーンエイジャーで、とにかくたくさん彼女ができれば良いと思っていた僕らに何か考えるきっかけを与えたのは間違いありません。
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映画や音楽、そして本というのはどこで、時には誰と観たかがとても重要で、若い時に心が震えるほど感動したのに、後で見返したらどこが良かったのかさっぱり分からないということがよくあります。それが一切無い、いつ観ても同じように感動するっていうのを本当の名作っていうらしいんですが、そんなの滅多に無いと思います。というわけで、ある一瞬に自分の心に火を付ける映画とか音楽っていうのは奇跡というかミラクルなのかもしれません。この『Betty Blue』も最初に観たのがもし僕が30歳だったとしたら途中で観るのを止めていたかもしれませんし、好きだったかどうかっていうのは分かりません。最近もう一度観直そうと思ったんですけど、観るバワーが無いというか、もしもう一度観て嫌いになったらどうしようと思うというか。でも特に最初に観た頃の僕には本当に心に残る素晴らしい映画で、それまで全く行こうとも思ってなかったフランスに行きたいと思うようになったくらいでした。それは映像もとても素晴らしいからだったんですけども、特に冒頭に出てくる主人公たちが住む海辺のバンガロー。それから田舎の丘陵地帯。特に海辺には行ってみたくて色んな人に聞き歩いたんですがノルマンディーのどこかだということしか分かりませんでした。あるのは確からしいので、いつかそのロケ地に行ってみたいなと思っています。そしてこの映画を語るに欠かせないのがサントラで、本当に素晴らしいので先ほど3曲もかけましたけども、手掛けているのがガブリエル・ヤレド。たまにヤーレと表記されたり読み方がすごく難しい音楽監督なんですが、彼は『The English Patient』という映画のサントラでアカデミー賞も獲っていますし、かなり多作な人で色んなサントラを手掛けていますがハズレがほぼ一つもありません。彼の音楽が背景に無かったら映画は成立しないのではないかと思うくらい大事です。そう考えると旅に持っていく時に聴く音楽っていうのもすごく大事なんだなぁと改めて思いました。目にする景色も一緒に聴く音楽で随分と印象が変わるものです。僕はこの『Betty Blue』のサントラを色んな場所で聴きました。CDウォークマンの時代で、CDブックケースというプラスティックのケースからCDとブックレットだけを移すファイルがあったんですけども、それのとんでもなく分厚いものに、こういう時にはこういうものを聴かなきゃいけないんじゃないのかと想像しながら持ち歩いていたんですけど、フォークからプログレ、チルアウトの音楽にトリップホップ。本当雑多なセレクションを持ち歩いていましたが、『Betty Blue』のサントラは一度も外すことの無いロングセラーで必ず持ち歩いていました。貧乏ですごい場末の定食屋みたいな所にいてもこの音楽を聴いているととても優雅な気分になったり、景色の良い所で一人ぽつんといる時も孤独なんですけども何故か孤独を感じなかったり。今のような冬の晴れた、そして人気のない浜辺で聴くのにももちろん合います。僕も試したことがあります。是非皆さんもまずはサントラから聴いてみて下さい。そしてまだ観たことがないという人がいれば是非映画も観てみて下さい。最初に言いましたように家族鑑賞には向かないので一人か、もしくは恋人と。ジャン=ジャック・べネックスという素晴らしい監督がいたということを是非忘れずにいてあげて下さい。
野村訓市
1973年東京生まれ。幼稚園から高校まで学習院、大学は慶応大学総合政策学部進学。
世界のフェスティバルを追ってのアメリカ、アジア、ヨーロッパへの旅をしたトラベラーズ時代を経て、99年に辻堂海岸に海の家「SPUTNIK」をプロデュース。世界86人の生き方をたったひとりで取材した「sputnik:whole life catalogue 」は伝説のインタビュー集となっている。
同名で「IDEE」よりインテリア家具や雑誌なども制作。現在は「TRIPSTER」の名で幅広くプロデュース業をする傍ら、ブルータス等の雑誌などで執筆業も行う。