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訓市が antenna* からセレクトした記事は・・・
映画『フレンチ・ディスパッチ』監督&キャストが撮影を振り返る特別映像【Cast編】が公開
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『TRAVELLING WITHOUT MOVING』・・・
「動かない旅」をキーワードに旅の話と、
旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。
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#385 --- 訓市、後悔の念でいっぱいになる ---
番組前半はリスナーの皆さんからお寄せいただいた
メッセージの中から訓市がセレクトして紹介。
リクエスト曲もオンエアします。
後半のテーマは「フレンチ・ディスパッチ」。
友人で映画監督【ウェス・アンダーソン】の通算10作目、
新作『フレンチ・ディスパッチ』完成までの経緯について。
前作『犬ケ島』に声優としても参加した訓市だが今作は?
今、どうして後悔の念を感じているのか?
その理由について語ります。
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「旅」と「音楽」に関するエピソードや思い出の
メッセージをお待ちしています。
「旅先で聴きたい曲」のリクエストも大歓迎!
手紙、ハガキ、メールで番組宛てにお願いします。
番組サイトの「Message」から送信してください。
皆さんからの“お便り”をお待ちしています!
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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
TUDOR TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛
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MUSIC STREAM
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
The Way That I Do / Durand Jones & The Indications
Both Sides Now / Judy Collins
手をとりあって / Queen
Ooh La La / The Faces
踊り子 / Vaundy
A Pair Of Brown Eyes / Cat Power
On The Level / Mac DeMarco
Broken / Teenage Fanclub
Aline / Christophe
ON AIR NOTES
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。
Kunichi was talking …
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この映画『フレンチ・ディスパッチ』はウェス・アンダーソンの10作目となる映画なんですけど、ちょっと前に公開になりました。それについては色んな雑誌やなんだでちょこちょこ書いているんですけど本当にウェス節全開といいますか、それでいて新しい要素もあって面白いので是非リスナーの皆さんにも機会があれば観ていただきたいです。海外に行きたいなぁ〜 そしてその街をほっつき歩きたいなぁ〜という欲求をズキズキと刺激する映画なのですが、僕は今回参加しなかったんですよ。声はかけてもらっていたんですが、後で本当に後悔するっていう最大限にデカイやつでしたね。この映画の脚本はウェスが映画『犬が島』の公開で来日している時にホテルでカタカタとラップトップに打ち込んでいましたから2018年にスタートしました。2018年と英ば『犬が島』の公開に合わせて1月から4月まではなんだかんだとプロモーションで世界中を飛び回っていました。自分の人生でこんなことは2度とないだろうと思いましたし本当に楽しかったんですけど、自分の仕事をする時間はほぼなし。初めてやって知ったんですけどプロモーション活動というのは製作の契約をした時に込みになっていて、「出来たらあなたはそれに参加する」と。なのでもちろん旅費とかそういうのは全部カバーしてもらえるんですが、そこでお金が貰えるわけではありません。これはまずいなぁと思いつつ5月にはウェスが来日して一緒に国内旅行などもしてしまい、6月からちゃんと働かないと本当にまずいぞ…という時にウェスから連絡がきました。いつもの短い軽いメールでして、「次の映画の脚本作りをやるから7月にイタリアにおいでよ。脚本を書くローマン・コッポラやジェイソン・シュワルツマンも一緒に船に乗りながらやるよ」というものでした。7月のイタリア、船でアドリア海をクルーズしながら。そりゃあ良いに決まってますし、頭の中は一瞬で僕が大好きな『紅の豚』の世界に染まったんですけど、その頃僕は番組でも話したことがありますがバンコクでデザインしたレコードバーの仕事がありまして、締切が7月末だったんです。恐る恐る一緒に内装する友達に聞いてみました。「ちょっと7月にイタリアに2、3週間行かなきゃいけないかもしれないんだけど、大丈夫かな?」。すると彼はものすごい真顔で「それって内装絡みの仕事だよね?バンコクのその知り合いとイタリアで会うってことなんだよね?」。そう言われたので「いや全然関係なくて、また映画なんだけどさ…」と言うと「別にいいけどさ、バンコクはクンの知り合いの仕事でしょ?はっきり言って間に合わないよ」。そう言われたら断るしかありません。ウェスには「申し訳ないけど行けない」と言いました。彼ら達とは違う、こちらは時給で働く働きマンですからそんなに自由に2、3週間パッといなくなるっていうのは出来ません。ただ断った時にものすごーく嫌な予感がしていました。もしかしたら、いやきっとこの次作は傑作になってしまうんじゃないかと。
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ウェスというのは色んな映画を撮ってるんですけどリズムがありまして、個人の趣味が爆発する実験的、つまり興行などあまり考えていないというか、それよりも作品でやりたいものをやるっていうものと、万人に受けるだろうという大作を交互に作る風潮があるのです。彼に聞いたことがあるんですけど、何か映画が当たると次の映画って割とプレゼンしやすいらしいんですよね。そこでやろうと思っていた実験的なことをやってそれを続けると資金繰りが悪くなるのでまたちゃんと作るっていう。前作の一緒に仕事をした『犬が島』が人形を使ったストップモーションであるということを踏まえますと、その次というのは王道のウェスらしい大作の番です。連絡を取っていたのでちょこちょこと情報を聞いていたんですけども、「ビル・マーレーがまた出るよ」「まぁもちろんそうだよね」「エイドリアン・ブロディも出ることになった」「えーいいな」「昔の常連だった、大学時代からの親友オーウェン・ウィルソンが数作ぶりに戻ってくる」「え、本当に?」「そうそう、それから新しくベニチオ・デル・トロが出る」「嘘でしょ?!」・・・キャストやなんとなくのプロットを聞くたびに驚くと同時に、あ〜イタリアに行けばよかったという後悔がひたひたと押し寄せてきました。パリが舞台の映画ですが現地でロケで撮影するのは難しいと、車で1時間半ほどの郊外の街で撮影をすることになったと聞いていたのですが、とてつもなく大変だとプロデューサーの友達が話していました。ウェスは毎回新しいことにトライするというか、昔は色々な制約で出来なかったことが段々規模的にも技術的にも出来るようになってきたので毎回新しいことを取り入れるのですが、今回は人形劇『犬が島』でやったセットを作り自分の思うように人形を動かして撮った手法を、実際の街で人を使ってやるというもので、街を背景にしてセットを組んで撮影したりするのが予算的にも大変だということでした。「無茶なこと考えるなぁ、それでどんな映画を撮るんだろう…」と思っていましたが、映画の仕上がりを観て本当に素晴らしいものになったと思います。ウェスの映画というとセットデザインやコスチュームがすごいというのが常で、インテリアデザイナーもファッションデザイナーにものすごくファンが多いのですが本作はその意味でいうとまさにズバリの映画です。何しろオムニバスの様な作りの映画ですので、それぞれのエピソードに全く違うテイストのセットとそれに合わせた衣装が出てきます。なので、もし興味がありましたらリスナーの皆さんにもぜひ映画館に行って観てもらいたいなと思います。SFとかアメコミの実写版でもないですし、現代を舞台にしたリアリティのある映画でも予算をたっぷりかけたハラハラするアクション映画でもありませんが、映画という表現方法でしか作り上げることのできない世界がそこにはあると思います。そして、そのありそうでありえない空想の外国のビジュアルを見れば、「あぁどこか知らないとこへ行きたいなー」という気持ちをなだめてくれると共に、「やっぱり今すぐどこかへ行きたい!」という思いを強くさせる、そんな映画です。僕は今、フランスに行きたくてしょうがありません。
野村訓市
1973年東京生まれ。幼稚園から高校まで学習院、大学は慶応大学総合政策学部進学。
世界のフェスティバルを追ってのアメリカ、アジア、ヨーロッパへの旅をしたトラベラーズ時代を経て、99年に辻堂海岸に海の家「SPUTNIK」をプロデュース。世界86人の生き方をたったひとりで取材した「sputnik:whole life catalogue 」は伝説のインタビュー集となっている。
同名で「IDEE」よりインテリア家具や雑誌なども制作。現在は「TRIPSTER」の名で幅広くプロデュース業をする傍ら、ブルータス等の雑誌などで執筆業も行う。