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訓市が antenna* からセレクトした記事は・・・
進む円安、物価上昇。日本だけ「低インフレ」が続く原因は?
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『TRAVELLING WITHOUT MOVING』・・・
「動かない旅」をキーワードに旅の話と、
旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。
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#420 --- 今こそ、海外から日本を眺めよう!---
テーマは「日本」。
18年ぶりに日本に帰国した友人と
渋谷で飲み明かした夜・・・
その時の会話から思ったこと、感じたこととは?
あの時は良かった、楽しかった?という話題のあと、
友人たちと話し込んでしまったこと。
若い世代のリスナーに向けて、
今こそ訓市が伝えたいメッセージを届けます。
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「旅」と「音楽」に関するエピソードや思い出の
“お便り”をお待ちしています。
「旅先で聴きたい曲」のリクエストも大歓迎!
手紙、ハガキ、メールで番組宛てにお願いします。
番組サイトの「Message」から送信してください。
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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
TUDOR TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛
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MUSIC STREAM
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
The Platform On The Ocean / Arthur Russell
I Didn't Mean To Turn You On / Cherrelle
Golden Slumbers / Ben Folds
Across The Universe / David Bowie
シンデレラエクスプレス / 松任谷由実
Happen / Nick Hakim
Windows / Sugar Candy Mountain
Man In The Mirror / Boyce Avenue
What A Wonderful World / Eva Cassidy
ON AIR NOTES
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。
KUNICHI was talking
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先日、18年ぶりに日本に帰ってきた昔の友人と会いました。しばらく物に触れていないと“浦島太郎状態”だとよく言いますが、本当に彼は「渋谷駅に最初へ行った時に何がなんだか全く分からなかった」と言っていました。住んでいる僕でも迷うくらいなので、そのショックがどのくらいのものだったのか見当がつきませんでした。ちょっと前のことですが、何年かぶりにそれが半蔵門線と呼ぶのかももう分からないんですけど、渋谷で降りた時に自分が本当に渋谷駅にいるのかどうかも分からなくなってしまって…。とにかく外に出なきゃと彷徨うこと20分くらいですかね、結局電車に乗ってる時間より駅の中を彷徨っている時間の方が長くて落ち込んだんですけど、そのぐらい変わってるわけですから、その18年ぶりに見る渋谷とか、日本っていうのがどういう風に見えたんだろうって興味津々だったんですけど。会ってから海外に住んでる間の苦労話を聞いて、うーんと頷きながら酒を飲んでいたのですが、それを聞くたびに18年ぶりってどうなの? 出国したのが2004年、ちょうど僕が30代に突入したばかりで、まだまだ勝手気ままな暮らしをしていた頃です。月に10万円ちょっとあれば楽しく毎日過ごせていた日々。借りたばかりのアパートには色んな人が出入りしていて、あーでもないこーでもないという話をしていた頃です。「あの頃のアイツはどうしてる?」「あいつは元気か?」・・・そういう話がたくさん出てきて、気付けば随分会わなくなったなーとか、亡くなってだいぶ経つ友達。色々なことを互いに思い出すと同時に、よくもまぁこの歳になるまでやってこれたなぁという話になりました。実際お金も本当になくて、職もなくて、何も考えていない振りをしながら、実はみんな将来を悲観的に考えつつ「お前はどうするんだ?」ってジャブで相手を伺っていた20代。その頃に僕らは出会って、互いに色んな所をフラつく貧乏旅行のプロなだけだったわけですから、貧乏旅行が出来ることを誇りにしていましたし、無駄なお金を払う者をバカにしていましたが、本当は全然贅沢がしたかったです。まぁ出来なかったんですけど、でもみんな配達のバイトをしたり、道路工事、もっと手っ取り早く新薬の人体実験に参加する者・・・とにかく1ヶ月毎日働けば、3ヶ月くらいは物価の安いアジアをぶらつくことができるだけの軍資金を手に入れることができました。いざとなれば海外に逃げればなんとかなる。そう考えられることで、どれだけ心に余裕が持てたことか。もちろん、それは円が強いということが大前提だったんですけれども。
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18年ぶりに帰ってきた友達と、「昔は楽しかったなー」って話もしました。朝からお金の心配をすることなくカフェで好きなものが食えたインドは楽しかったなぁとか、ノーヘルで海岸線をバイクで走るタイの景色がいかに素晴らしかったかとか、お金が尽きてバリに行って自分で染めたバティックをフリーマーケットで売ったねとか、そういえばシルバーアクセサリーも作ったねとか。色んなことをして旅を続けたなぁという話は尽きなかったんですけども、とにかく行き当りばったりでよく生きて来られたなーと。そんな話をしていると、居酒屋でこうしてご飯をつつきながら、まだ酒を飲めているのが奇跡のような気がしてきました。止まっちゃった友達もたくさんいたからなんですけども、毎日がまだこうして続いて生きていることが何かのご褒美だか分かりませんが、とてもありがたいなと。それをつい口にすると、「本当だよなぁ〜」とみんな箸を動かしていた手が止まりました。「なんとかなるもんだね、俺たちも」。ずっとそういう話をする羽目になったんですけども、まぁ結果的に俺たちは俺たちなりのちゃんとしたモラルがあって、ぶれずに何とかやってきたからなんじゃないかっていう話になり、これからは年に1度は会えたら良いねっていう結果になったのですが、そこから昔話じゃなくて日本の話になりました。ずっと遠くから眺めていた日本。帰りたいと思っていたけど仕事を休んで旅費を出すっていうのがままならなかったっていう彼が、やっと帰ってきて「本当に日本って大丈夫なの?」って。久しぶりに帰ってきた故郷を見て、そう聞かずにはいられなかったようです。それは彼が住んでいるフランスの方が良いとか進んでいるって話では全くなくて、ただ単純に自分が生まれて育って旅立っていった日本が没落してきているのではと感じたということです。物価の安さにも驚いていましたし、「これって自分たちが90年代にバックパックで回ってたアジアみたいだよ。滞在中に見るニュースでも不安になるだけだ」と言っていました。「簡単に平和ボケという言葉は使いたくないけれど、どんな国になってしまうのか不安でしかたがない」。そう言われてとても考え込んでしまいました。先日久しぶりに村上春樹さんにお会いしたのですが、戦争の話をしていた時に『村上ラジオ』でも話したと言っていました。年寄りの政治家が決めて若者が死ぬのが戦争だという話なんですけども、そりゃあそうですよね。年寄りの政治家は最前線には行かなくて、安全な場所にいて「戦争だ!攻め込め!」って決めるわけですから。それと同じで年寄りの政治家が決めて若者が借金を返すのが政治で、今の日本だと思います。僕の周りではビザ無しで日本に来れるようになって観光客がどんどん増えると言われていますし、実際に毎日誰かしら連絡が来て、「来週日本に行くから会えるか」とか「11月の頭に2週間いる」とかそんな連絡ばっかりなんですが、逆に国境が開いている中で、「海外に行ってきます」「初めてどこどこに行きます」っていう若い友達の話が一切ないんですよ。円安でキツイっていうのもありますけども、今色んな国に若いリスナーの皆さんは行ってもらいたいです。そして外から俯瞰して日本っていうものを見て、自分たちが今、置かれている立場とかこれから何を変えてかなきゃいけないのかっていうのを何とか肌感で掴んで欲しいなと強く強く思いました。本当に行ってみてください。
野村訓市
1973年東京生まれ。幼稚園から高校まで学習院、大学は慶応大学総合政策学部進学。
世界のフェスティバルを追ってのアメリカ、アジア、ヨーロッパへの旅をしたトラベラーズ時代を経て、99年に辻堂海岸に海の家「SPUTNIK」をプロデュース。世界86人の生き方をたったひとりで取材した「sputnik:whole life catalogue 」は伝説のインタビュー集となっている。
同名で「IDEE」よりインテリア家具や雑誌なども制作。現在は「TRIPSTER」の名で幅広くプロデュース業をする傍ら、ブルータス等の雑誌などで執筆業も行う。