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訓市が antenna* からセレクトした記事は・・・
カナダの山火事の煙で、アメリカ北東部は火星のような風景に
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『TRAVELLING WITHOUT MOVING』・・・
「動かない旅」をキーワードに旅の話と、
旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。
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#456 --- “50の大台”に乗って痛感したこと ---
番組前半はリスナーの皆さんから寄せられた
“お便り”を紹介!
曲のリクエストや選曲のオーダーにもお応えします。
後半のテーマは「旅での会話」
先日、国内移動も含めて
約2週間のアメリカ旅を体験した訓市・・・
これまで感じたことが無かった“異変”について語る。
サンフランシスコ、ニューヨーク、ロサンゼルス・・・
各街に滞在する間、
お世話になったのは現地在住の友人たち。
旅先での恩を訓市はどのように返すのか?
バーで偶然に遭遇した懐かしい友人との会話が
今でも忘れられない理由・・・。
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「旅」と「音楽」に関するエピソードや思い出の
“お便り”をお待ちしています。
「旅先で聴きたい曲」のリクエストも大歓迎!
手紙、ハガキ、メールで番組宛てにお願いします。
番組サイトの「Message」から送信してください。
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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
TUDOR TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛
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MUSIC STREAM
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
Carnival / Cardigans
For The Roses / Joni Mitchell
Stop This Train / John Mayer
I've Got To Have You / Carly Simon
Nothing But Your Love (Jay Dee Remix) / 久保田利伸
Rainy Days / Alf Wardhana
I'd Have You Anytime / George Harrison
Stay Close / The Blue Nile
Isn't It A Pity / Nina Simone
ON AIR NOTES
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。
KUNICHI was talking
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旅行中には色々な人と出会います。古い友達や知り合いはもちろんのこと、あまり覚えてないけれど向こうが覚えてくれていて声をかけてきてくれたり、もちろん初めて会う新しい人と出会ったり。「やぁやぁ久しぶり、元気だった?」もあれば、「えっと、ごめん誰だっけ?あーそうだ、昔会ったよね。思い出したよ」もあれば、「初めまして」もあるわけです。僕はちょうど先日、サンフランシスコへ行ってからニューヨークへ行き、そこからロサンゼルスに行ってシスコ経由で帰るというのをやりました。3、4日置きに移動で、昔は全然平気だったんですけど、今回は思いのほか身体にきまして、とうとう自分も、もう昔とは違うんだなぁと衰えを本当に実感してしまったんですけども。たくさんの人たちに会うことができて充実はしたのですが、とにかく1週間以上の移動付き海外旅がキツいと感じたのが生まれて初めてのことで、なんだかなぁ〜という感じでした。サンフランシスコではいつもの友達と共に新しい知り合いもできましたし、ニューヨークではちょうど4月にも行っていたんですけども、その時には会えなかった友達たちにも会えました。若くしてアルコールの依存症になってしまいリハビリをしている若い友達とも会えて、長い長い話ができましたし、季節が良かったので外で滑るスケーターの仲良し達とも会って、ニューヨークを出る時には彼らのスケートパーティに寄ることもできました。ニューヨークに着いた日からカナダの山火事の煙がすごくて、外出禁止令が出るほど天気が悪かったのですけども、その初日は何でも世界最悪の大気汚染で、地球上の街で一番汚染しているというわけでコロナの時よりマスクしている人が多かったので、そんなに悪いの?って一瞬焦りましたが、その汚染の酷さというのがタバコ6本分だというニュースを読んでマスクを取った自分がいました。こちとら2箱吸ってますからね、6本ぐらいでマスクをするわけにはいかんですよ。3日ほど天気が悪くて、外に出るとちょっと焚き火の匂いがしたりみたいな。結局、スケートのパーティが行われた滞在最後の日だけは青空が広がって眩しい日差しの中、良い風も吹いていて・・・なんですかね、都会で迎える今年初の夏日といいますか、夏の始まりを感じました。みんながビール片手に音楽を聴きながら、トリックを決めるスケーターたちに歓声をあげる。デジャヴってよく言いますけども、その時の僕はまさにそれでした。夏の始まりを感じる週末の晴れた日。いつまで経っても子供なのかもしれませんけども、歓声が上がる夏の始まりを感じて、僕は懐かしいような、ちょっと切ないような、そんな気分を味わいました。なんで切ない感じになったかと言うとですね、昔コッポラ監督の『ランブルフィッシュ』という映画の中でトム・ウェイツ扮するバーテンがこう言っていたんですよ。「考えてみろ、あと何回人生に夏が残ってる?」真剣にそのセリフを噛み締めるようになったからかもしれません。
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ロス行きは夜便だったのでニューヨークを夕方には出なければならならず、スケートパーティーから空港へは友達が送ってくれました。送ってくれた友達はギャラリーをやっていまして、「AIのせいでアート界も変わる」「これからは写実的なものより、もっと人の手が入ったということが分かりやすい、そういうものが中心になる」と言ってました。アートにもAIが絡むのか?うんざりというか、なんとなく暗い気持ちになりながらロスに着きました。空港ではまた別の友達が迎えに来てくれていました。街から街へ、友達リレー。2週間弱いたんですけども、考えてみればタクシーやウーバーをほぼ使いませんでした。誰かが必ず迎えに来てくれる。本当にありがたいことですし、看板が立ち並ぶ夜のロスのハイウェイを走りながら、どうやって皆に恩を返せるかなぁと考えていました。そうやって日本に友達が来たら返そうと思うんですが、その回数が多すぎて恩返しのために人生の3分の1は費やされて行くという、そんな感じなんですけども。今回久しぶりに週末2回を挟む取材とか含めた旅行だったんですけども、色んな友達と話をして楽しかったんですが、一番記憶に残っているのは、ある晩バーで久しぶりに古い友達に偶然会った時のことでした。随分久しぶりで、出会った時は10代だったその子も、もう20代半ばとなっていました。音楽が鳴り響いて、それぞれが大声で話したり、音に合わせて身体を揺らしている中「訓、調子はどう?」と聞かれました。僕はグラス片手に別の友人と大声で話している時で、「悪くないよ。と言うか、まぁいい感じだよ」と答えました。すると相手は、まあ酔っ払ってたとは思うんですが、僕の目をまっすぐと見ながら「本当に?」と。「本当に悪く無いよ」。そう言うと、「だってあなたは悲しい人でしょ」と言いました。そんなことを突然言われたら誰だってドキッとするとは思うんですけども、「どういうこと?別に僕は悲しくなんかないけど」。すると相手はゆっくりとこう言いました。「あなたは心の奥底では、いつも悲しい人でしょ。私はそう思ってた。調子がいいなら何よりだけど」。そう言ってちょっと微笑むとカウンターの方へと消えていきました。それを言われて思い出したのが、僕が20代の半ば頃は確かにそんな気持ちを持った人間だったと。何か特別悲しいことがあったとかそういうわけじゃなくて、ただ時が流れて行くなーとか、今日が終わってしまうなーとか、そういうどうしようもないことに、やけに悲しい気持ちを感じたりしていたことを。先が見えない若い故の感傷的な気分だったのかもしれませんが、そういう気持ちを自分がよく持っていたことすら忘れていました。それを急に指摘されたような気がして、そのバーでの短い会話が今もとても心に残っています。旅って、良いものですよね。
野村訓市
1973年東京生まれ。幼稚園から高校まで学習院、大学は慶応大学総合政策学部進学。
世界のフェスティバルを追ってのアメリカ、アジア、ヨーロッパへの旅をしたトラベラーズ時代を経て、99年に辻堂海岸に海の家「SPUTNIK」をプロデュース。世界86人の生き方をたったひとりで取材した「sputnik:whole life catalogue 」は伝説のインタビュー集となっている。
同名で「IDEE」よりインテリア家具や雑誌なども制作。現在は「TRIPSTER」の名で幅広くプロデュース業をする傍ら、ブルータス等の雑誌などで執筆業も行う。