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Let's travel! Grab your music!
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『TRAVELLING WITHOUT MOVING』・・・
「動かない旅」をキーワードに旅の話と、
旅の記憶からあふれだす音楽をお届けします。
ナヴィゲーターは世界約50ヶ国を旅した野村訓市。
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#487 --- 夜の小話 ---
夜の街をテクテク歩いて徘徊して感じること。
人出が減ったから店が閉まるのか?
閉店時間が早まったから人出が減ってしまったのか?
昨年末、六本木で飲んだあとに
友人と二人で散歩している時に出会った年配の男性・・・
沸々と溢れ出た“優しさ”から
訓市と友人がとった行動とは?
そして、その顛末は・・・。
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「旅」と「音楽」に関するエピソードや思い出の
“お便り”をお待ちしています。
「旅先で聴きたい曲」のリクエストも大歓迎!
手紙、ハガキ、メールで番組宛てにお願いします。
番組サイトの「Message」から送信してください。
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宛先は・・・
〒106-6188
株式会社 J-WAVE
TUDOR TRAVELLING WITHOUT MOVING 宛
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MUSIC STREAM
動かなくても旅はできる。
ミュージック・ストリームに
身をゆだねてください。
Somebody Else's Guy / Jocelyn Brown
Walking In The Rain / Frontera feat. Luca Santucci
I Can't Make You Love Me / Boyz II Men
Feeling Good / Nina Simone
Aoharu Youth / Supercar
Low Season / Poolside
Nothing Compares To You / Soul II Soul
Footsteps In The Snow / Chris Rea
Eyes Without A Face / Comme Un Coeur
ON AIR NOTES
どんな会話を交わしたのか。
何を見たのか、何を聞いたのか。
その音の向こうに何があったのか。
KUNICHI was talking
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2月になり、ちょうどようやく、2024年という年に慣れてきた頃だと思うのですが、皆さんの2024年はいかがですか?僕はですね、なんだかんだ年明け早々から仕事に追われて、ご飯を食べるのも忘れて、気づけば夜中の12時近くということが何日もありました。PCを前に猫背になってカタカタとタイピングしているとですね、気づくと自分の格好っていうのが椅子に座ったピグモンのようになっていて・・・ピグモン、分かりますかね?両手が前に出ていて背中が完全に丸まってる。自分のデスクで勝手にエコノミー症候群になってしまいそうで怖いのですが、「いかん、いかん」と事務所のソファに寝っ転がってタバコに火をつけてボーっとしたり、あとは頭が回転して落ち着かないので、1杯ひっかけるかと夜道に出るわけなんですね。こういう時はテクテク歩いて繁華街に出たり、飲み屋が点在する街まで繰り出したりするのですが、今年に入ってさらに気づいたんですけど、深夜営業をする店が減ったなぁということです。馴染みの飲み屋だのバーだのはもちろんやっていますが、全体で見るとコロナを経て街の顔がすっかり変わったなと思うんです。1杯ひっかけて酔っ払ってタクシーなんかに乗って帰る時に僕は大抵運転手さんと話し込むんですが、みな同じ話をします。「客がいなくなったから店が早く閉まるようになったのか、それともその逆で店が閉まっているから人が出歩かなくなったのかは分からないけど、夜が早くなった」と言うのです。確かに言われてみればコロナ前は深夜営業をしていた店が12時前に閉店になってしまった、そういう所がたくさんあります。酔っ払って小腹が減ったと、昔、寄ったラーメン屋も何もかもが早く閉まるようになりました。知り合いの店の中にはバイトが見つからなくて深夜営業を辞めた所もあります。夜行性の僕らにとってこれはとても寂しいことです。24時間眠らない街と言われた東京が、今や一部を除いて黄昏期に入っているのかなと、そんなことを考えながら歩いていると冬の寒さがやけに身に染みるわけなんですよね。きっとでも、やっぱり減ってるんだと思います。何て言ったって、夜、元気なのは20代とか30代ですから、その人口が年々減っているわけですから、観光客がいるような街以外っていうのは夜が早くなるのも当たり前かもしれません。でも、それって本当に寂しいなと思います。無駄な資源を使わないってことは良いんですけども、都会の良さっていうのはやっぱりそこじゃないですか。24時間やってるっていう。だからこそ週末に自然を見ようよ、みたいなことで幸せを感じるんじゃないのかなって思います。
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とにかく僕は夜道を酔っ払ってよく歩くのですが、そういえば年末に不思議なことがありました。僕は六本木っていう街はこのJ-WAVEの仕事以外、そして高校生の時から通っている古い中華家さんに行く以外、まず来ないんですけどね、知り合いのバーで忘年会がありまして、久しぶりに出てきて飲んだんです。まぁその時も年末なのに昔の六本木に比べて人が少ないなーって思っていたんですが、たらふく酒を飲みまして、帰ろうと思ったら知り合いが作った新しいバーというのがすぐ近くにあるので寄ってくれと言うので、じゃあしょうがない、もう1杯飲むかってことで飲んで。さすがにそろそろ帰るかという時に一緒にいた友達が、「訓ちゃん、ちょっと家に帰る前に酔い覚ましに歩こうよ」と言うので2人で歩いたんですよ。外苑東通りを曲がって六本木通りへ。歩いているうちに小腹が減ったと連れが言うので、「かおたん」でラーメンでも食うかという話になりました。はい、グルテンフリー生活はまだ続けていますが、週に1度のラーメンを僕は自分に対してのささやかなご馳走として許しているんですね。それをその晩使おうと思ったわけです。酔っ払って蛇行しながら、今となっては1ミリも覚えていない、何の役にも立たない与太話をしながら西麻布の方へ歩いていると、前から老人の男性が歩いてくるのに気づきました。その老人は腰をかがめて、何ですかね1歩が2、30センチで、ゆっくりって言葉がふさわしくないぐらいゆっくりなスピードで歩いていたんですよ。僕も連れの友達も同時に「大丈夫ですか?」と声をかけていました。夜にサングラスをかけてる舐めた野郎だと思われがちですが、これでも僕は親切心はあるほうなんですよ。するとその老人は「今、池尻から歩いて来て、これから日本橋の方まで歩いて帰る」と言うじゃないですか。その晩は本当に寒い夜で、時間は3時ぐらいだったか。僕と友人は顔を見合わせて言いました。「無理ですよ。まだ半分以上あるかもしれないですし、着く頃には夜が明けてしまいますよ」。そう言うと老人は、「いいんです。歩きじゃないと帰れないですし」。僕と友人は頷き合って、友人が道に出ると運良く空車のタクシーが停まりました。停めたところで老人に言いました。「タクシーにどうぞ乗ってください。お気遣いなく」。「いやいや、いいんですよ、大丈夫です。歩きます」と老人は答えました。手持ちのお金もあまり無さそうな感じでした。僕と友人は財布を取り出して現金を数えました。2人でちょうど5千円近くありました。「どうぞ、これで乗ってください。足りると思いますから」。その時はですね、酔いも回ってか、そして年末だっていうのとそのシチュエーションで2人ともなぜか突然、心の中が善意で溢れていたんですね。乗ってくれるかな…。そうしたら老人は「いいんですか?」と言い終わらない内に、マッハの速さで僕らの手からお金を受け取ると、真っ直ぐスタスタと歩いてタクシーに乗り込み、立ち去ってしまったんですよ。僕と友人は「かおたん」まで、それから一言も話しませんでした。夜の散歩には色んな不思議な人と出会うんですけども、あれは何だったんだろう。僕らを騙そうとしてるんだったら、ものすごく前からずっとその演技をしていたわけで。今でもあの老人が誰だったのか、すごく気になります。
野村訓市
1973年東京生まれ。幼稚園から高校まで学習院、大学は慶応大学総合政策学部進学。
世界のフェスティバルを追ってのアメリカ、アジア、ヨーロッパへの旅をしたトラベラーズ時代を経て、99年に辻堂海岸に海の家「SPUTNIK」をプロデュース。世界86人の生き方をたったひとりで取材した「sputnik:whole life catalogue 」は伝説のインタビュー集となっている。
同名で「IDEE」よりインテリア家具や雑誌なども制作。現在は「TRIPSTER」の名で幅広くプロデュース業をする傍ら、ブルータス等の雑誌などで執筆業も行う。