本来、だれもがクリエイティブ─共に編む「コンテクストデザイン」を渡邉康太郎が語る

本来、だれもがクリエイティブ─共に編む「コンテクストデザイン」を渡邉康太郎が語る

J-WAVEナビゲーターに、ラジオの魅力や声での情報発信のこだわりをインタビュー。

今回は、デザイン・イノベーション・ファームTakramのコンテクストデザイナー、慶應義塾大学SFC特別招聘教授などさまざまな肩書を持つ渡邉康太郎にインタビュー。J-WAVEの番組『TAKRAM RADIO』(毎週木曜 26:00-27:00)でナビゲーターを務めている。

同番組では毎月様々なテーマでトークセッションを行い、そこでうまれた気づきをもとに新しい「問い」を投げかける、実験的・社会実装型プログラム。今回は渡邉康太郎に番組を続ける中で得た手応え、そして自身の専門である「コンテクストデザイン」についてのことなどを話してもらった。

■「NAVIGATOR'S VOICE」過去のインタビュー

リスナーに問いを投げかけ、考えを深める番組

──『TAKRAM RADIO』を通じて、どのような手応えを感じていますか?

2018年から始まって、丸4年が経ちました。スタートした当初は30分番組でしたが、1時間の尺になって良かったと思うのは、ゲストの方とじっくりお話ができること。

ゲストは私が知り合って、もっと話を聞きたいなという方にお声がけをしています。それぞれの分野で著名な方に来ていただくこともありますし、まだあまり世間に知られてないけど才気にあふれるという方も。ただ、「この人と言葉をかわしてみたい」という人に出演してもらっています。会話の喜びを味わうには、ある程度の尺が必要だなと思っていて。そういう意味でも放送時間が伸びて良かったです。実際の対話は放送よりも長尺なので、ノーカット版はSPINEARで公開しています。

ラジオでは、物事を面白がる力をリスナーの皆さんと一緒に養えたらいいなと思っています。様々なテーマで対話していますが、正解を出すというよりも、むしろ終わる頃には謎が深まるような内容が多いです。もちろんその中に「気づき」はあると思いますが、インスタントな学びは得られません。聞いても明日の仕事には役立たないと思います。

往々にして、"長期的に向き合うべきもの"は、すぐには役立ちません。でも私はそういうものこそ大事にしていきたいと思っています。毎回、ゲストの方にはトークの最後に「リスナーと一緒に考えたい問いを投げかけてもらえませんか?」とお願いしていて、私自身も考えるようにしています。

例えば、牧場で日々馬と向き合っている方がゲストだったとき、人間の動物性に思いを馳せるような対話になりました。その方からの問いかけは「リスナーの皆さんが一番恐怖を感じた瞬間はなんですか?」というもので、Twitterにはさまざま恐怖体験が投稿されました。これは単に人間と動物のあわいを物語るようなエピソードを集めている、というよりも、リスナー一人ひとりが自分の経験や思考と照らし合わせてトークの内容を振り返るきっかけにしてほしい、という思いを込めています。ゲストの言うことを単に受け取るだけではなく、むしろ自身で考え続けてほしい。

実際、リスナーの皆さんとは、Twitterを通じて必ずしも答えを求めない対話ができていて、心地よい手応えになっています。

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本来、だれもがクリエイティブ─その力を引き出すために

──メディアが多様化する中で「ラジオ/ポッドキャスト」の魅力はどんなところに感じていますか?

ラジオは思いがけない人の元にも届く、出会いの余地が魅力です。番組が始まった最初の年、トラックの運転手さんがTwitterに「深夜、高速道路を走っているときにいつも聞いてます」とお便りを寄せてくださって、かなり興奮しました。デザインに関わりがある人が聞いているのかなと想像していたので、僕にとっては意外な広がりで、非常にうれしかったです。

一方で、深夜放送でもあるし、そもそも日常生活にラジオが組み込まれていない人も多いと思うので、その限界は感じています。radikoの存在も、ラジオ業界にとっての追い風だと認識しつつ、出会いのきっかけやUI(ユーザーインターフェイス)をもっと工夫しないとユーザーが増えないんじゃないかな、と思っています。そういう意味ではPodcastは、より手軽に聴いてもらうための手段になってます。

──渡邉さんの専門分野である「コンテクストデザイン」について説明していただけないでしょうか。

デザイナーといえば、絵を描いたり図面を引いたり、独創的なアイデアを思いつく仕事と考える人が多いと思います。もちろんそういった側面もあるんですが、個人的には、一個人がデザイナーとして優秀かどうかよりも、その場にいる全員が何かを発想・表現したくなる状況を作ることのほうが、よっぽど重要でクリエイティブだと思うんです。

たったひとりの力で突破できる課題って、複雑な世の中にはあまりないですよね。チームの力によって初めて解決の緒が見えたり、ものごとが駆動することの方が圧倒的に多い。僕は一緒に仕事をする人と、クリエイティビティを高めていくことに興味があるんです。

「コンテクストデザイン」は"文脈を作る"と解釈することもできるんですが、僕の実践はそうではありません。ラテン語で「コン」は「共に」、「テクスト」は「編み込む」という意味につながりますが、デザイナーと非デザイナーの垣根を超えて、全員がひとつのものを編み込んでいくような状態を作りたいんです。それはラジオ番組の作り方にも共通していることです。

例えばある会社から「新サービスの構想から立ち上げまでを一緒に伴走してください」と依頼されたとします。アイデア発想やクリエイティブ施策の話題になると、「このあたりはデザイナーの皆さんにお任せします」「わたしはクリエイティブ系ではないので......」と遠慮がちに言われることがあります。でも本来、全員がクリエイティブであるはず。

「私は専門じゃないので......」と自らを卑下するというか、そういう見えない足かせに縛られている人は多い。でも、それから解き放ってあげることは、意外と小さな工夫でもできることだと思っていて、私はそういった場作り・環境作りに興味があります。これも、「コンテクストデザイン」の一貫です。

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──確かに人はどこかで苦手と感じているものを排除したくなりますよね。

小学校から中学校にあがるくらいのタイミングで、子供が社会性を獲得するにつれて、周囲と自分との比較を始める。そのときに「得意・不得意」を強く意識するようになるのではないでしょうか。

スポーツでも図画工作でも、周囲との比較で「得意」「不得意」だと決めつけてしまう。でも、何かを発想したり表現をするとき、そもそも周りの誰かと比較しなくてもいいんじゃないでしょうか。例えば、世の中には素晴らしく歌が上手なシンガーがいるけれど、普段、お風呂で口ずさむとき「私はプロに比べて下手だから......」なんて思わないし、遠慮しないですよね。ただ楽しいから歌う。こういった、他人との比較や見えない足かせから自由な状況が、あらゆるシーンにあっていいはず。ビジネスの場でも、生活でも、そう思える人が増えたらいいなと思っています。

度重なる転調。聴くたびに生まれ変わる感覚を味わえる曲は?

――渡邉さんが最近「いいな」と感じたモノがあれば教えてください。

夢枕獏さん作・谷口ジローさん画の漫画『神々の山嶺』は冬のたびに何度も読んでいます。実在の人物や史実にヒントを得た、エベレスト登頂にまつわる物語です。"なぜ人は山を登るのか"という問い対して、かつてイギリスの登山家マロリーが"そこに山があるから"と答えた有名なエピソードがありますが、この物語の登場人物も一人ひとり、その答えを考えながら登ります。「なんで厳冬の雪山を、こんなにつらい思いをしながら登らなくちゃいけないんだ......」と自問する。読んでいるだけでこちらも辛くなってきて、週末に羽毛布団の中でページをめくるだけで、極寒の世界を味わえます(笑)。5年前にKindleで初めて読んだのですが、以降は毎冬、この本でエベレストに挑戦しています。

──何が「良い」と感じるのでしょうか?

吹雪や高山病に見舞われ、極限状態にあるなかでの鬼気迫る心理描写、山で死んだ仲間に取り憑かれる脳内のビジョン......そういった描写が凄まじいんです。純粋に登山という私の知らない世界に触れられることも楽しいです。

──最後になりますが、気持ちが新たになる1曲はありますか?

ジェイコブ・コリアーの『Moon River』のカバーです。度重なる転調は聴くたびに、生まれ変わる感覚を味わえます。世界中のアーティストがさまざまな音程で歌う「ムーン」の声を集め、ジェイコブがそれをアレンジすることでイントロが構成されている。彼自身の声も重なって結果的に一大スペクタクルになります。YouTubeに映像も上がっていますよ。

Jacob Collier - Moon River

(取材・文=中山洋平)

渡邉康太郎 プロフィール

Takramコンテクストデザイナー/慶應義塾大学SFC特別招聘教授。使い手が作り手に、消費者が表現者に変化することを促す「コンテクストデザイン」に取り組む。サービスの企画立案、組織のブランディング、企業研修など幅広いプロジェクトを牽引。J-WAVEのブランディングプロジェクトでは、新ステートメントの言語化とロゴデザインを行い、2020年度グッドデザイン賞を受賞。
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