BIN'S ROOM

菅原敏の詩の世界をご紹介

2020.02.11

『バスタブの音楽』

-菅原敏ゆかりの街-
小田急線・豪徳寺駅にほど近い、現在の私の部屋から一編の詩を。

以前住んでいた古い長屋暮らしからの反動で、快適さを求めてたどり着いた今の住まいは3階建ての低層マンション。床暖房、浴室乾燥機、クリーニングサービス、シェアカー付き、広々としたお風呂で気分もいい。
毎朝昼近くに目覚め、私はいつもの音楽をかけて風呂に入り、朝食の材料とコーヒーを買いにく。
運が良いと買える美味しいパン屋がいくつかあるので、この街に住んでから、私はサンドイッチを頻繁に作るようになった。
焼きたてのバケットに切れ目を入れて、チーズ、ルッコラ、クレソン、トマトそして、切ってもらったばかりのハムやサラミを挟んで胡椒を軽く回し、バリバリと雷のような音を立てて食べている私の毎日が、この街にあります。

小田急線沿線、豪徳寺の街に注ぐ一編の詩


『バスタブの音楽』菅原敏

こんな毎日でさえ
暮らしと呼ぶことが 
ようやく許されるようになり 
あまり美しいとは言えないが
わたしはわたしの暮らしの肩を 
やさしく抱き寄せ
何か良いところを見つけてやろうと
朝から晩まで 
その時間をなぞってみる
目覚まし時計のいらない月曜の朝
カーテンの隙間から差し込む光
真昼間のバスタブで聞く音楽
運がいいと買えるパン屋
少しの仕事 少しの昼寝 
散歩ついでの一杯のお酒
そして
よくないことだと知りながら
繰り返してしまう
幾つかの後悔も含めて 
あまり美しいとは言えないが
わたしはわたしの暮らしの肩を 
やさしく抱き寄せ
その頬に手のひらを寄せる
あと十年も経てば 
おまえのことを幸せな気持ちで
きっと懐かしく思い出す
真昼間のバスタブで

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