at home QUIET POETRY
一日の終わりに、一編の詩を。
詩人の菅原敏が 街にそっと詩を注ぐ 真夜中のひととき。
新たな街、新たな言葉との出会いをナビゲートします。
菅原敏の詩の世界をご紹介
2020.02.25
ピアノがこぼれる三軒茶屋のカフェ。
渋谷からタクシー乗り込み、246から茶沢通りを少し入った雑居ビルの二階。この店には、一台の古いピアノがあります。
この店のピアノのための一編の詩を。
『白と黒』菅原敏
車がずらりと連なって
クラクションが
鳴りわめいているので男は
果たしてこの渋滞の始まりは何かと
タクシーを降りて
蛇の頭でも探すように
8月の真昼間 歩きゆく
たどり着いた雑居ビルの前
狭い道にトラックを止めて
配送業者の男たちが5人がかり
古いピアノ ビルの中へと
運ぼうと躍起になっているのだが
ドアはピアノを頑なに拒み続け
どうしても通り抜けることはできない
繰り返すうちに
エナメルの塗装は 剥がれ落ちた
白と黒の
鍵盤はぽろぽろこぼれ落ちて
乾いた音符をいくつか奏でたあと
ひざから崩れ落ちて 死んでしまった
男たちは汗を拭きながら
タバコを一本吸った
そしてピアノの亡骸を
トラックに積んで
走り去っていったので女は
骨のような白鍵を一本拾い
それからタクシーを拾った
2020.05.20
『古いホテル』
2020.05.11
『タンザニア』
2020.05.05
『ピーターラビット』
2020.04.30
『ふたつ重ねて』
2020.04.29
『森の生活』
2020.04.14
『すべて悲しき若者たち』
2020.04.08
『街の素顔』
2020.03.30
『裏窓』
2020.03.24
『4月のふたり』
2020.03.17
『背中に気をつけろ』
2020.03.09
『Tea for Two(二人でお茶を)』
2020.03.03
『食卓に溺れる』
2020.02.27
『甘い生活』
2020.02.25
『白と黒』
2020.02.18
『夜のかもめ』
2020.02.11
『バスタブの音楽』
2020.01.30
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