BIN'S ROOM

菅原敏の詩の世界をご紹介

2020.03.09

『Tea for Two(二人でお茶を)』

今夜はここ、上野駅から。
二つの美術館と二つの博物館、そして動物園。
上野恩賜公園は都内では珍しいほど空が抜けていて、どんな季節も気持ちの良い場所。
隣接する東京藝術大学で詩を教えていることもあり、今もこの界隈をよく訪れるのですが、
私にとって博物館は少し特別な場所した。

それでは、上野に注ぐ一編を。

『Tea for Two(二人でお茶を)』菅原敏(「裸でベランダ/ ウサギと女たち」より)


ふたりはお茶を飲んでいた。
言葉少なに過ごす三月の午後。
ふたりは通じ合ってた。
紅茶を飲んで微笑んでた。

「眠いね」
「ああ、眠いな」

いつのまにか、ふたり
ティーカップの置かれたテーブルで眠りこけた。

目を覚ますと、ふたり、ガラスケースの中だった。

周りには恐竜の化石、冷凍マンモス、ニホンオオカミの剥製。
そこは絶滅した種が展示された博物館だった。

ふたりのガラスケースの前、
白いプレートには「真実の愛」と書かれていた。
この世界で最後の真実の愛。

ふたりのことをひとめ見ようと
世界中から人々が押しよせた。

お茶するふたりの剥製は
世界で最後の真実の愛

Tea for Two

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