「坂本龍一です。この2ヶ月間、僕はずっと日本の夏を忙しく過ごしていまして、日本のあっちこっちを旅してましたね。福島や仙台、山口、鳥取、広島、京都……いろんなたくさんの人と出会ったり、美味しいものも食べましたけど。その仙台でやった (こどもの音楽再生基金 presents) School Music Revival Live とかですね、時間を見つけて、例の毎週金曜日の首相官邸前の抗議行動なんかにも、2、3度参加してきましたが。それから、5年目になるWORLD HAPPINESSなど、今回のRADIO SAKAMOTOは、この2ヶ月の活動の総まとめとしてお届けします。」
<アナログシンセの使用頻度が増えています>
「"NO NUKES 2012" のときもそうなんですが、今回のYMOではですね、 "WORLD HAPPINESS" でも、随分と昔の曲……30年ぐらいぶり、という曲を演りました、テクノポリスを再現したりとか。ちなみに今年の僕は、YMOのパフォーマンスで、前年に比べて、よりアナログシンセ……Prophet-5ですけど、の使用頻度が増えてますね。もちろん、デジタル系のシンセは、使えば音色数は圧倒的に多いし、便利なんですけど……なんだろうな、音の存在感って言うのは、より必要っていうことでね。WORLD HAPPINESS 2012のときはProphet-5に、思いつきなんですけど、直前になってオーバーハイムの……ほんと30年前に使っていたアナログシンセを探し出して持ってきてもらってですね、それも使ったりとか。やっぱり耳に心地いいし、パワーもあるし、なんかやっぱりデジタル系のシンセの音は、芯がないというか、モノが鳴ってる感じが、あまりしないんですよね。」
<テクノ史上の快挙、YMOとKRAFTWERK>
「前回の放送でも "最速レポート" をお届けしましたが、7月7日、8日に幕張メッセで、脱原発をテーマにしたロック・フェスティバル "NO NUKES 2012" を開催しました。これをやろうと決めたのが、今年の1月……お正月明けくらいで、この規模を半年でやるというのは、あまりにも短くて、無謀で、しかも、このような主旨のロックフェスというのは、今まで日本でもなかったので、どうなることやらと。だいたいその、声をかけても参加してくれるアーティストはいるのかとかね。お客さんは来るのかとか……。心配もいろいろあったんですけども、予想に反して、参加を表明してくれたアーティストも、お客さんもとても多くて。お客さんは両日で18,000人くらいの方に来ていただきましたね。おかげで黒字になりまして(笑) それは寄付する事になっております。いま、最終的な会計レポートを作っているところだと思います。WEBなどで発表することになっています。」
「NO NUKES 2012で僕が感銘を受けたのはですね……参加してくれた、割と若い世代の……、Ken Yokoyama君とか、難波章浩君とか、TOSHI-LOW君とかですね。彼ら一様にですね、ステージ上のMCできちんと自分たちの考えを発言してくれまして。 "ミュージシャンである僕らが言わなくて誰が言うんだ"───そんなことをきちんと表明してくれて、しかもそれを、たくさんの観に来てくれたお客さんが拍手で応えてくれて、とても感動しました。それからもうひとつ特筆すべきはですね、ドイツから、あのKRAFTWERKが "自分たちも出るよ" ということで、来てしまいまして(笑) ほんとに、史上初……KRAFTWERKとYMOが同じステージで演奏するという、テクノ史上、歴史的快挙もここで起こりまして。いろいろ実行委員会内で、KRAFTWERKの後にYMOを演ってくれなんていう話もあったんですが、僕はそれはもう絶対できないということで突っぱねまして(笑)、あくまでもKRAFTWERKを最後にもってきたんですけども。それで、YMOが演ったすぐ後に、KRAFTWERKが出たんですけど、僕たちYMOはステージ袖で、3人でかぶりつきで彼らを観ていて(笑) ……で、その後ろに、まあ僕たちの弟くらいのジェネレーションですかね、テイ・トウワ君なんかが観ていて。しかも、うちの娘の坂本美雨がそれをいっしょに観ている……というようなね、ちょっと奇妙なというか、テクノが繋ぐ世代の壁みたいな(笑) ……繋いでないか(笑) テクノが壊す世代の壁、みたいな感じの光景もありました。」
こどもの音楽再生基金 presents <School Music Revival Live>
8月5日に宮城県仙台市で行なわれた、School Music Revival Live。去年の8月に立ち上がった、被災した岩手・宮城・福島の学校1,800校の壊れた楽器の調査、修復などを目的とした "School Music Revival" の二次活動として行なわれた、コンサートです。当日は、つるの剛士さんが特別ゲストとして登場。アナウンサーの渡辺真理さんも出演されました。
「School Music Revivalは、まだ続行してますが、かなりの部分、達成しまして、今年からは、被災した学校の生徒さんたちのLIVEをみんなで楽しむ、そして、盛り上げよう、と、いう活動もやっています。今回、参加してくれたのは23グループなんですけど、主に宮城県が多いんで、ぜひ、来年以降もあるとしたらね、岩手や福島からもたくさん応募してほしいと思います。今回は特別ゲストとして、つるの剛士さんに来ていただいて、トークやLIVEも演ってくれました。」
「学生たちの演奏は、上手いものもあれば、そうでないものもある。でも、みんないいな、と。上手い子たちは上手いですね。吹奏楽の他、けいおん!みたいなバンドや、AKB48みたいなのもありました。残念ながら今回はオーケストラの応募はなかったんですけども、今後、ぜひ応募してほしいと思います。海外の一流ミュージシャンなんかも、この活動に興味を持ってくれていて、来年以降、こどもたちの演奏を聴いてもらう、あるいは、演奏の技術指導とかですね。そういう学校的な教育プログラムもやっていこうかなと思っています。盛り上げていけたらいいと思います。」
「つるの剛士です。実は僕も、中学校では吹奏楽部で、部長でした。三年間、ホルンを吹いていました。これからも、末永く、こういったイベントをやっていただいて、たくさんのこどもたちに、未来の希望を持っていただきたいなと思います。」
「アナウンサーの渡辺真理です。参加している中学校とか高等学校の皆さんが、ステージ上じゃなくて、廊下を走り回ってるとか、袖でちょっと練習してるときとか、緊張している横顔とか……そういうこところから、気づくとこっちが元気をもらってる、っていうことに驚いた一日でもありました。」
WORLD HAPPINESS 2012 <特筆すべきは、岡村ちゃん>
今年で5周年になる、野外フェス "WORLD HAPPINESS"。今年、出演された皆さんからメッセージが届いています。
「はじめまして、坂本美雨です。ずっと出してもらえないなーって、ちょっと思ってました。ずーっと毎年、遊びにくるのがほんとに楽しい……いろんなLIVEを観て、YMOのLIVE観て、わーって帰る、そんな楽しい場所だったんですけど、今年は出していただけるということで。あっという間に終わってしまって、夢のようでした。(近くに居た教授に向かって)……LIVE観たの?……文字通り、父兄参観なんですけど、ラジオでは伝わらない教授の表情もお届けしたい。」
「シンガーソングライターの、さかいゆうです。初出演ということで楽しみにしておりました。YMOも好きですが、坂本龍一さんの音楽がほんとに好きで、日々、癒されたり興奮させられたりしております。ほんとにほんとに大好きな方と対バンできて、心の底からありがとうございます。」
「ORIGINAL LOVEの田島貴男です。今日は雨になる予定だったんですよね……どうなることかなと思いましたが、見事に晴れまして。僕も結構、晴れ男なんですけど、今日出演なさる方は、かなり晴れ男が多いみたいでね。すごく楽しくね、ステージ演らさせてもらいました。まさにハピネス……ステージでも連呼してしまいましたが(笑) 」
「きゃりーぱみゅぱみゅです。今年の夏は、かなり、夏フェスに出演したんですけども、こんなにも私がアウェイな会場は、WORLD HAPPINESSが初めてかなと思います。でもお客さんはみんなノリノリに、いっしょに踊ってくれたりとか歌ってくれたりとか、ほんとに楽しいフェスになりました。」
「木村カエラです。ありがとうございます、とっても楽しみにしていました。景色とか自然とかお客さんの空気を感じながらLIVEをしていた感じがしました。とりあえずこう、盛り上げるというよりも、お客さんといっしょに楽しむっていうこと……いつもそうなんですけど、それをより感じたフェスだったなと思いました。」
「……どうも皆さん、ありがとう。いろいろメッセージがありましたけど、さかいゆうくんが、とてもピアノが上手くてびっくりしました。特筆すべきは、岡村ちゃんですよ、岡村靖幸さん。すごかったです……ダンスとかすべてが。格好もなんかこう、サラリーマンみたいだし。汗だくでね、狂気でしたね、あのダンス。動きっていうのがもう、狂気が入ってましたね。なんか会場、ぜんぶもってかれたね、今回……岡村ちゃんに。あと、きゃりーぱみゅぱみゅ。言いにくいな(笑) YouTubeなんかで、PVを観てるよりも良かったです、はっきり言って。これも結構、もってきましたね、お客さんの心を。なんだろう、ああいう作り物っぽい世界なのに……LIVEは存在感があるんですよね。不思議な存在感でした。」
<晴れて還暦バンドとなったYMO>
「高橋幸宏くんがですね、今年60歳……還暦を迎えまして。6月6日の誕生日なのですが、晴れていうか、YELLOW MAGIC ORCHESTRAは3人とも還暦。公式な還暦バンドとなりまして。それで、その還暦のトリビュート・アルバム『RED DIAMOND 〜Tribute to Yukihiro Takahashi〜』っていうのが出たんですよね。細野さんと僕もコラボレーションしまして、YMOのY……幸宏のYがいないということで、MO(モー) というユニット名にしました。MOというユニットが今後も何かあるのかは、本人たちも知らないんですけどもね(笑) 」
トークショー:坂本龍一×岩井俊二監督 <肌触りというか、触感のような音楽>
教授が監修している音楽全集のCDシリーズ『commmons: schola』──その10巻 "映画音楽" のリリースを記念して、映画音楽にスポットを当てた特集上映『坂本龍一 Selections スコラ映画祭』が、東京・TOHOシネマズ 六本木ヒルズで上演されました。それに合わせて行なわれた、教授と岩井俊二監督のトークショー。その模様を少しお届けします。
「岩井さんは、映画音楽は……」
「僕は大好きでして、80年代は割と、坂本さんを中心にこう、映画のサントラだけのためじゃなくて、映画と音楽の境界線が自由自在な印象があったんですけど、映画をモチーフに音楽になったり、みたいな行き来とか……そういうのが結構、盛んだった気がするんですけど」
「なるほどね。インストゥルメンタルが多いので、そういう意味では映画に使いやすいかもしれないですね。それから例えば、YMOの1枚目ですと (ジャン=リュック・) ゴダールらの映画のタイトル、そのまんまですもんね。"東風" とかね。だけど、その映画に刺激されて音楽を作るっていうのは、今でもありますよね。そういう一派というのかな。アコースティック・エレクトロニカみたいな(笑) ちょっとフォークっぽい、あるいは、ピアノとかを使った、でもエレクトロニカ的な音も入っているようなものは、いまだにありますけど」
「新しい作品でいうと『アメリカン・ビューティー』の……」
「トーマス・ニューマン。これが、どれだけこの後、この亜流がね、今でも生産されてるというか。ものすごい数……これに似たものは、この後、出てきましたけど」
「その前まで、多分あまりなかったと思うんですけど、人のお芝居に対する、こう……曲的な意味の付け方が、やっぱ、この辺が出てきた90年代ぐらいのアメリカ映画って、第三の選択肢として、ああいう音感というか調子を、映画のいいところに当ててくるような、それによって、なんか違う芝居のアングルが見えてきて、もうほんと、いろんな映画で使われてましたね。日本にはあまり来てないんですね、この調子っていうのが。アメリカですごい流行ってるなって実感したことありましたけどね、みんなこれ使ってるな、みたいな」
「実は今回のコモンズ:スコラには、その作品から数年後の、スティーブン・ソダーバーグのリメイクの『ソラリス』を入れてるんですが、これもまさに、より抽象化したような映画音楽で。そこからの流れですよね、完全にね」
「アメリカの映画陣が、こういう調子がすごく映画との親和性が高いのに気づいたんでしょうね。けっこう流行ってたんすよ。CMソングでも多いですね、日本ではあまり見かけないんですけど、向こうではモワモワしたのが、一時、多かったですよね(笑) 」
「あの、テレビのドラマの音楽でも多いですね、こういうのはね。でも不思議なことに、アメリカのPOPチャートには全然出てこないでしょう。こういうエレクトロニカ系のものっていうのは、POPチャートには、ほとんど出てこない。面白いですよね」
「なんか音楽の "POP" のジャンルが、段々、こうリズム系に行ったのに対して、なんかそこで失ったものがこっちに行ったような、二分してったような感じがしますよね。エモーショナルなものだけが、何かヒーリングみたいになっていって、分かれていくみたいな。向こうでのヨガ・ブームとかも、こっち側ですもんね」
「なんかね、さっきのアメリカン・ビューティーもそうだけども、肌触りというか、触感っていうかは、非常に個人的なものじゃないですか。そういう音楽に僕は感じるよね、僕はね。すごく……英語で言うと "intimate" な関係っていうのかな、そういう音楽のような気がするんですよ。だから、そういう定義からも、POPSには向いてないのかもしれないですね」
(撮影:御厨慎一郎 写真提供:アカデミーヒルズ)
<オーディション総評>
「今回は数が多かったので、かけられなかったものでも、いいものがたくさんありました。どうもありがとうございます。何か特別その、こういう傾向が多かった……ということはなくて、分散されている感じですかね。全体的に感じたのは、いわゆるエレクトロニカ系とか言われるもの……まあ、その中にもたくさんあるので、ひとつの言葉で括るのは難しいんですけど、ま、そういう傾向のものが、あまり新鮮に聴こえなくなってきたっていうことですかねぇ。難しいもんですよね、やっぱりね、音質っていうのかな、音源っていうかな、そういうものもあると思いますね。それと、"今後どうなるんだろう、見守っていきたいな" みたいな人もたくさんいますので、どしどし送ってください。」
「渡辺和三郎さんの「くものくち」。この音を聞いて、雲を想像するかっていうのは人それぞれなんですけども、音の佇まいっていうのかな、音の佇まいが、すごくいいですね、堂々としてて。今回の作品の中では、いちばん好きですね。素晴らしいと思います。……こういう感じで作ればいい、っていう訳じゃないんだけど、もしかしたら偶然なのかもしれないし、何かがうまくいくときってあるんですよね。音色(おんしょく)とか、すべてがぴたっと、うまくいってるような気がしてます。」
オーディション・コーナーで紹介した作品はこのサイトでも試聴できます。またコーナーは、全体を世界へ向けてポッドキャスティングでインターネット配信しています。すでに著作権管理団体に登録している作品の応募は受け付けられませんので、オーディションに応募される方はご注意下さい。
※オーディション応募作品をじっくりと聴けるポッドキャスティングは近々このサイトにUPされます。お楽しみに! |
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