




「明けましておめでとうございます。箏アーティストのLEOです。坂本龍一さんが二ヶ月に一度お届けしているレディオ・サカモト。今回の放送も、坂本さんが療養中のため、お休みとなります。代わりに私、LEOがナビゲーターを担当いたします。よろしくお願いいたします。それではまず自己紹介をする前に、恒例になっているようなんですけれども、坂本さんからのメッセージが届いているということで、そちらを読ませていただきます。」
Leo君たちの「1919」を聴いて・見て、衝撃を受けた。
そもそも箏で「1919」などという曲を演奏しようというのが、
かなり無謀だと思うが、君は見たところそんなことに頓着している様子はないね。何せダウランドから藤倉大、バッハからケージまで弾いてしまうんだから。
箏というのはある意味不自由な楽器だと思うんだが、Leo君はその不自由さを
無理やり自由に変えてしまう。邦楽の未来は面白そうだなあ。
|
|
「と、ものすごく嬉しいメッセージをいただいております。僕は今、23歳なんですけれども、中学生の頃に坂本さんの音楽に出会いまして、そこからもう本当にずっと大ファンで、今回このメッセージをいただいて本当に心から嬉しいです。」
「それでは、私の簡単な自己紹介をさせていただきます。私LEOは、アメリカ人の父と、日本人の母のもとに生まれているハーフなんですけれども、10歳の時に当時通っておりました、横浜にあるインターナショナルスクールで箏と出会いまして、そこからコンクールなどをいろいろ出たり、賞をいただいたりしていくうちに東京芸術大学に進み、日本コロンビアからCDデビューをさせていただいて、そして去年3月に出したアルバムで、先ほど坂本さんから出していただいた「1919」という曲をカバーいたしまして、そちらを聴いていただいたご縁で、今回お呼びいただく運びとなりました。」

<新春、箏アーティスト LEOさんによる生演奏>
「ここからは、僕の自己紹介も含め、お正月といえば箏というのもありますので、スタジオでの生演奏を2曲程お聴きいただきたいと思います。まず1曲目にお聴きいただくのは、僕の自作の曲で「空へ」という曲になります。この曲がちょうど3年ほど前の、それこそお正月に初めて演奏したんですけれども、空を飛ぶ鳥だったり雲のように、自由に何か自分の中の壁を破って、演奏そして作曲ができたらいいなと思って書いた曲です。それではどうぞお聴きください。」
「今、お聴きいただいたのは、僕の作曲で「空へ」という曲でした。続きまして、2曲目。こちらも自分の作曲となるんですけれども、「DEEP BLUE」という曲をお聴きいただきます。こちらの曲は、僕がイメージとしては、深海の中でどこか暗い暗闇の中から、光を求めてどんどんと、こう進んでいくというような曲調になっているんですけれども、お箏らしい古典的な奏法から、箏とは思えないようなリズミカルなセクションまで幅広い音色が楽しんいただける曲となっております。それでは、僕の作曲で「DEEP BLUE」をお聴きいただきます。」

<対談:本條秀慈郎 × LEO>
LEO「この時間は三味線演奏家の本條秀慈郎さんにお越しいただいてます。どうぞよろしくお願い致します。」
本條「よろしくお願い致します。」
LEO「はい。本條さんといえば、まあこの番組のリスナーさんの方はご存知の方も多いかと思うんですけれども、坂本龍一さんのアルバム『async』の「honj」に参加されております。あ今夜は、秀慈郎さんと和楽器の可能性についてや、三味線だったり日本の伝統芸能について、どう考えているかとか、普段のちょっとテンションでお話していきたいなというふうに思っております。」
本條「ありがとうございます。」
LEO「お願いします。」
本條「嬉しいですとっても、LEOさんにお招きいただいて。しかも坂本さんの番組で。」
LEO「はい、僕もこの場で一緒にこうやって改めてお話できるの今日すごい楽しみにしておりました。」
LEO「まずはちょっとお話にもあがったので、この『async』の「honj」が、どのようなレコーディングの経緯だったのか。まあ、もちろん音は知ってるんですけど、どういったプロセスで作曲されていたんですかね、こちらは。」
本條「僕がたまたま、あの、Asian Cultural Councilっていうところの助成を受けてニューヨークに半年間、留学に行ってたんですけど、そのときにたまたま僕の演奏会に来ていただいて、そしたらなんかあの、えーちょっと遊びに来ないかって言われて、で遊びに行ったら……」
LEO「ご自宅ですか。」
本條「はい。僕もいい土産話ができたなというふうに、日本に帰るのに、あの坂本さんとっていう感じで。そしたら何かまたメールが入ってきて、もう一度来てくれって言うんですね。」
LEO「ほおー。」
本條「で、伺ったら、もう譜面ができてて、いきなりこう、ちょっと弾いてみてくれって。そしたら急にレッスンが始まっちゃってですね……君はまだ若いから、すぐそこ盛り上がっちゃうから駄目だとかって、これは何なんだろうと思いながら。で、こう弾き終わったら、ああ、やったって感じでもうあの弾き終わったら、OK、これでもう音を録ってあるからって。気づいたらもうね、マイクが置いてあるんですよ。」
LEO「あ、もう。」
本條「置いてあったというか、それも録ってあったんですよね。」
LEO「なるほどなるほど。あじゃあそのときに聴いた断片を、あの曲に。」
本條「えぇもうそのままに、もうCDになっちゃったんですよ。僕は出来上がるまで、全く訳がわからず、タイトルも知らずに。」
LEO「そうだったんですね。」
本條「はい、そういうことだったんですけど。」
LEO「レコーディングを聴いてると、三味線独特のさわりというのがあるじゃないですか。」
本條「えぇ、ええ。」
LEO「まあさわりというのは、まあ三味線のビィーンという……弦とその棹が擦れるような、雑音に近いような余韻を長くするための三味線独特の音なんですけれども。まあレコーディングを聴いてると、すごいこのさわりの伸びる、こう余韻の三味線独特の余韻だったりですとか、すり上げっていうんですけれども……狙った音の手前の音から演奏して、そこからギターでいうチョーキングのように音を上げていって、そこで上げていった音と、元々のさわりの音が共鳴して、さらにこう余韻が深まっていくような、すごいレコーディング相当なスタジオでしたのかなって、正直聴いてたら思ってたんですけれども。」
本條「(笑) ご自宅のプライベートスタジオで、すごい良い音でね。」
本條「いまLEOさんお話されてさすがだなと思う。LEOさんも、あのお箏でそういう音出されますよね。さわりに似た音とか。」
LEO 「そうですね。箏の演奏というのは基本、まあ三味線の模倣のようなテクニックっていうのもたくさんあるので、三味線の音っていうのはやっぱり意識しておりますけれども。」
本條「三味線も逆に言うと、このお箏のサラリンとかコロリンみたいなのも、たくさん入ってたりして、もう曲そのものがお箏をフィーチャーした曲なんていうのは古典の中にもありますから。坂本さんはその三味線を、実際こうもうお持ちで、要するにこう手に取って、やっぱりいろいろこう解体されて。」
LEO「ああ、そうなんですね。」
本條「ええ。だからそういうきっとさわりとかそういうことにすごく魅力を感じてらっしゃるんだと思うんですけど。」
LEO「それは初めて知りました(笑)、それはそれは。僕なんかから見ると坂本龍一さんは本当に、底知れぬ……まあ音楽への知識だとかっていうのも、作品の節々から感じられるんですけれども。実際にご一緒されて、まあ和楽器についてだとか音楽について、どのような印象を覚えましたか。」
本條「やっぱりそれは何というか本来の姿っていうんですかね。やっぱりこう、あんまり日本の楽器とかってそういう意識でないと……僕は思うんですよね。それは楽器としてとか、そのパフォーマーとしてっていう、何か究極の音も常に求められてる感じがして。この間のオペラなんかも拝見してるとやっぱり何かそういう感じがするんですよね。」
LEO「うん。」
本條「そのやっぱりこう、音楽になる前の音っていうんですかね。音楽の形になる前の可能性みたいなものを、すごく追求されてる感じがするので、……僕はとても高橋悠治さんの音楽に影響されてるんですけど、何かそういうもの、すごく感じますね。」
LEO「なるほど。また何でしょう、和楽器とかまあ自分の楽器に、多少バイアスがかかるというか、フィルターを通して自分の楽器をどうしても見てしまうかなあとは思うんですけれども、だからこそこう、秀慈郎さんもたくさんいろいろな作曲家に作品を委嘱していて。そこから刺激を得ていらっしゃるのかなと思って。」
本條「そうですね、よくLEOさんとそういう話をさせていただくんですけど、そういうときは僕、すごく幸せなんですけど。やっぱりこうなんか常にあんまりこうなんか、こう決めたくないみたいなのはありますよね、LEOさんも(笑)。」
LEO「そうそう、もうそうですね。箏ってこうでしょっていうイメージとか、まあ三味線ももちろんですけれども、どうしてもありますし、まあ自分の中でもやっぱりあるんですけれども、何かどうにかしてそれを破ってやろうっていうか、あえて考えないのが一番ベストなのかなとも思うんですけれども。」
本條「ああ、なるほどね、うんうんうんうん。」
LEO「僕も最近、普段のコンサートとかでよくクラシックの奏者の方と共演させていただくんですね。ピアノとだったりバイオリンとだったり、今度はチェロだったりとか。まあそんな中でどんどんこうコラボを重ねていく中で、僕が思ったのはやっぱり最初は、クラシックの奏者と和楽器の奏者だと呼吸の方法が違うとか。まあそのテンポの感じ方、ノリの感じ方が違うとか、フレージングが違うとか。でまあ呼吸が違うから、それを合わせていかないといけないとか、あえてここはずらそうとか、すごい難しく頭で考えていた時期があって。まあ、それももちろん考えることはすごい重要だったと思うんですけれども、ある一時から、敢えて、もう一応全部考えたし、1回フラットに1人の演奏者ともう1人の演奏者として、そこで音楽をやってみよう……というふうにやってみたら、この前のヴァイオリンのコンサートですごくうまくいったんですね。敢えて難しく考えずに本当に一つの楽器として、そこでコラボレーションをして、あのそこで感じる呼吸だったりっていうので合わせていくと、何でしょう……文化の違いっていうのを感じさせないような音の融合というか。っていうのが、まあ実現できたのかなって僕の中では一つ壁を破れたような体験があったんですけれども。」
本條「指揮者の方がこう振って、我々はその指揮者からこう止まるとこに合わせちゃうんだけど(笑)、要するにあれオーケストラこう、指揮がこう打点を打った後に、うっ、ぽん、みたいな感じで出るじゃないですか。」
LEO「ふわっと出ることができないんですよ。どうしてもびしっと合わせにいってしまう、まあ……」
本條「あれがすごい最初僕もきつくて。」
LEO「そうですよね。指揮者の指揮を読み取るのもやっぱり最初大変でした。」
本條「ね。LEOさんの今のお話伺ってても思いますけど、向こうの演奏家……いろんな音楽のジャンルの演奏家が、なんかとってもこう日本の音楽のそういうことに、よりこう何て言うか、あんまり壁を作らずに、何かその可能性を追い求めてるような感じもしてまして。だからちょっと、もしかしたら面白くなってくるんじゃないかなっていうのは。」
LEO「はい。僕からちょっと秀慈郎さんにお伺いしたいんですけれども。秀慈郎さんは普段、本当に新しい三味線の活動、聴いたことのないような三味線の音楽を奏でつつも本当に、伝統芸能としてのその三味線音楽っていう部分にも、すごいそこを大事にされているような気もしていて。」
本條「ええ、ええ、ええ。」
LEO「新しい取り組みをする中で、何を守って何を破っていくっていう線引きといいますか、そのバランス感覚っていうのは、どうされてますか。」
本條「いきなり難しい質問(笑)。でもそれはまあLEOさんもね、すごく感じてらっしゃると思うんだろうけど、結構その……テーマっていうのがね、難しいじゃないですか、やっぱりあんまりこう古典とか、現代音楽とかってこう分けるのがね。」
LEO「そうですね。」
本條「でもその単純に、今この現代の中でこの楽器が呼吸をするという意味では、そのやっぱり社会とこう何かこう問いを……お互いこう投げ掛けてっていうことを考えると、やっぱりその何かこう楽器としてっていうことが、すごく大きいと思うんですよね。」
LEO「うん。」
本條「だから僕がその古典っていうことに対して……あの、ものすごく僕自身が元々古典を小さい頃からやってるってことじゃないんですよ。だからすごくそういう意味ではコンプレックスがあるし、僕自身こう洋楽から始めて、洋楽を諦めたようなところもあるんで。」
LEO「最初はギターでしたよね。」
本條「そうそう、ギターとか吹奏楽とかね、ピアノとか。ことごとく駄目だったんで(笑)。あのそういうコンプレックスもあるんですけど、なんかこう……常になに何かテーマを置かないとか、やっぱりその何かいいものをね、常に何か取り入れてく。で、それでそこにある自分のこうエゴとかそういうトラウマみたいなのが、常にぶつかると、そこに古典が……こういう部分が必要だなぁとか、現代のまだこういう人にまだ作曲家がいてまだお願いしてないな、とかって、そういうのがどんどん広がっていくんですよね。これがでも止められないっていう感じがしてね。やっぱりこの欲求というか、なんていうんですかね、収まりきれないものというかね。」
LEO「だからどんどんこう溢れていく……まあいろんな道があって、その最終的に何か迷ったときに帰る場所というか、お家みたいなのが古典の部分なんですかね。」
本條「そうですね……まぁホームって言ったらあれなんだろうけど、でも僕にとっては何か追い求めてるものの一つ……でもあるんですよね。」
LEO「うーん。」
本條「要するにそこには何かもっと雑多な感じっていうんですかね。いわゆる邦楽の、すごくこう洗練されたっていうものよりは、もっとこう雑多な感じの中に、自分がかっこいいと思うものがあったりして、だからそれは多分LEOさんもそうだと思うんですけど……うーん、なんかこうね、一つじゃないみたいなところが、それは意外と現代音楽と古典の真髄みたいなところは、ものすごく共通してますよね。」
LEO「はい、そうですね。その雑多な感じっていうのが、すごい共感できる部分で、今ね、僕たち奏者目線でもそうですし聴くお客様の側からしても、日本の古典芸能といったらすごくなんか敷居が高くて、由緒正しいものでっていうイメージがあるかもしれないですけれども、歌舞伎なんかももちろんそうですし。当時は本当に最新のエンタメだったはずなので、もっとこう気楽に楽しめるもので。」
本條「そうですよね(笑)、能楽なんかもね、そうですよね。」
LEO「はい、そこに深いしきたりというものは、もちろんね、ルールとかもあるでしょうけれども、そこを崩してやっている人もたくさんいたでしょうし。何かそういった、改めて古典芸能に対する取り組みが、自分の中でそういう……何でしょうポジションに置けたらいいなあというふうに、いま思ってるんですけど。」
本條「もっと広くなっていく必要がありますよね。何かそういう歌舞伎とか能楽はもちろん、こう代表するものなんだけど、そこに根底を支えるその何というかもっとこう……もうあらゆるこう何て言うんですかね、昔でいうと、どんな市民でも貴族でも、武士でも何でも共通して楽しんでいたものっていうのかね。そういうものを何かもうちょっとこう、省みる必要がある、返っていく戻っていくみたいなことは、すごく必要かなと思います。」
LEO 「はい、そうですね。」
LEO「そろそろ、本條秀慈郎さんとはお別れの時間となるんですけれども、お知らせなどはありますでしょうか。」
本條「そうですね、2022年の今年、2月27日ですね。日曜日18時半から、東京はムジカーザという、あの代々木上原にあるホールなんですけど、そこで僕の10回目のリサイタルを。やっと10回目なんですけれども。」
LEO「おめでとうございます。」
本條「ありがとうございます。LEOさんもね、こないだ素晴らしいリサイタルされてあれでしたけれども、今回はゲストに、ギターの佐藤紀雄さん、アンサンブル・ノマドの音楽監督ですね。で、バイオリンの周防亮介さん。そしてチェロの水野優也さん。豪華ソリストたちを迎えての、1夜限りのコンサートということで。これはね、僕、カルテットってすごい憧れがあるんですよ。」
LEO「はい。わかります、その気持ち。」
本條「そうですね。なんか究極じゃないですか音楽の。だからそういう……三味線の新たなカルテットっていうのは、結構室内楽好きなんで。LEOさんもそうですよね。」
LEO「そう。もう全く同じですね。」
本條「そうそう。なんかすごいLEOさん、コンチェルトとかバンバン弾いてるのに、え、こういう室内楽のコンサートも出るんだ、とかね。アンサンブルのコンサートも果敢に出てらっしゃるから、僕そこがすごく素敵だなと思うことの一つなんですけど。で、ほぼ全曲異色作品で。」
LEO「本当に豪華な内容ですね。」
本條「そうなんですよ、豪華なんですよね。で、1曲この松平頼暁さんっていう、御年もう90歳ぐらいになるのかな。」
LEO「あぁそんなに、はい。」
本條「ええ、素晴らしいほんと歴史的な、それこそ草月会館とかでアートセンターで武満さんとか一柳さんとか、あと高橋悠治さんとかと一緒にこう、いろんなことされてきた方なんですけど、あるとき坂本さんが三味線のソロをご自身の番組で演奏してほしいということだったんで、迷ってたら、松平頼暁さんの作品はないのって言われるんですよね。」
LEO「はいはい。」
本條「それで、そういえば確かに考えたこともなかったなと思って。ちょっと松平さんにそういうふうにちょっとお願いに上がって、坂本さんからのそういう経緯をお話したら……2年前ですけどね、やっと今年、あの出来上がって。」
LEO「えー、なるほど。それはすごく楽しみですね。三味線の独奏曲ですかね。」
本條「独奏曲ですね。で、それで他にもヘベルト・バスケスさんってメキシコの作曲家の曲ですね、これはあの佐藤紀雄先生が薦めてくださったんですけど。あと牛島安希子さんという名古屋の作曲家の方で、これは全部三味線ギターバイオリンチェロのアンサンブルの作品です。」
LEO「どういった響きが聴けるのか、すごい楽しみです。絶対僕も聴きに行きます。」
本條「ありがとうございます。」
LEO「はい。それでは、ありがとうございました。」
本條「ありがとうございました。」
LEO「この時間は、三味線演奏家の本條秀慈郎さんをお迎えしてお送りいたしました。最後に1曲かけたいと思うんですけれども、こちらの曲紹介をお願いしてもよろしいでしょうか?」
本條「はい。先ほどLEOさんにもご案内いただきました、坂本さんのアルバム『async』から「honj」を聴いていただきます。」

<対談:藤倉大 × LEO>
LEO「今回は療養中の坂本龍一さんに代わって、箏アーティストのLEOがお届けしております。この時間は現代音楽家、そして作曲家の藤倉大さんをお迎えしております。藤倉さんはロンドンにお住まいですので、今回はリモートでお繋ぎして対談させていただきたいと思います。藤倉さん、こんばんは。」
藤倉「あ、こんばんは。」
LEO「ありがとうございます。」
藤倉「お久しぶりです。」
LEO「いやー、今回、えー坂本さんの番組で藤倉さんといろいろとお話させていただくの、すごい楽しみにしておりました。まずはちょっと僕と藤倉さんのご関係について、ちょっとお話できればなと思うんですけれども、ちょうど最近……2021年にですね、初演いたしました「箏協奏曲」、オーケストラとの箏のコンチェルトになりますね。こちらを2021年に初演させていただいたんですけれども、こちら……どういった経緯だったか、少し藤倉さんから教えていただいてもいいですか。」
藤倉「そうですね。まず最初に、「Koto Concerto(箏協奏曲)」の前に、箏のソロの曲がありますね。あの「竜」っていう。」
LEO「はい。それの初演が2018年だったかな。」
藤倉「おお、もうそんなになるんですね。」
LEO「はい。」
藤倉「そうですね。LEOさんからそれも委嘱していただいて。まだね、そのとき、LEOさんと会ったことなくて。」
LEO「そうですね。」
藤倉「それで、そのソロの箏の作品を、その時書いたことはなかったんですけど、その時はまだなかったと思うんですね。あ、箏の曲はあったんですけど。それでね、研究しようってことで、Facebookのメッセンジャーだったかな……を使ってLEOさんと、ね。最初にビデオをたくさん送ってもらったり、やりとり、書いては見せてやってもらったりだとか。」
LEO「でも、それで書いていただいた「竜」という曲なんですけれども、本当に名作で、僕も数え切れないほどいろいろな場所で演奏させていただいてますし、僕の師匠である沢井一恵先生も、これはもう本当にずっと残る名曲だって断言して仰ってましたし。今ではね、僕以外の方もたくさん箏の方、弾いてますよね。」
藤倉「そうみたいですね。あの、ニューヨークの箏の奏者の方とかが。時々、インスタグラムで、練習中の箏の「竜」を上げてたりして。ああ、やっぱこれ難しいんだなって思いますね(笑)。」
LEO「それこそ、番組の最初に出ていただいた本條秀慈郎さんも、藤倉さんに「neo」という曲を書いていただいてて。僕、その「neo」という三味線のソロを聴いて、今回委嘱しようっていうふうに思ったのがきっかけだったんですけれども。」
藤倉「そうでしたか。」
LEO「その「neo」っていうのもやっぱり……まぁ僕も三味線を少し弾くんですけども、やっぱり……弾けるのか弾けないのか、どうなんだろうという限界のライン、ぎりぎりの難しさなんですよねやっぱり。ふふふ(笑)」
藤倉「これ、あれですよね、ほら……あのパンデミックが始まってから、たくさん僕、今まで三味線の作品を秀慈郎さんのために書かせてもらってたんですけども、パンデミック始まってから僕もやることが何かないので、三味線を習い始めたんですね。」
LEO「そうですよね。それこそ師匠が本條秀慈郎ということで。」
藤倉「そうなんですよ。」
LEO「意外な繋がりなんですけれども。」
藤倉「習い始めると、すごい難しいじゃないですか、当たり前ながら。まあ、何だって難しいんでしょうけども。」
LEO「ご自身の曲を弾いてみたりされましたか。」
藤倉「それが面白いのが、言ってみれば、LEOさんに書いたその「竜」も「Koto Concerto」も、もうある一部を除いたら、一つひとつ取ったら、あの伝統的な奏法じゃないですか。」
LEO「うん。そうですね。」
藤倉「そう、散らし爪だとか。」
LEO「はいはい。」
藤倉「別に伝統的なその弾き方が、こう伝統的でないスピードだとか、その組み合わせで書かれてるだけであって、「neo」も結構、言ってみたらそういうところがあるんですね。」
LEO「そうですね。」
藤倉「あの、途中の部分とか違っても。そこで秀慈郎さん、僕教えてくださるときに、あのここはこういう感じ、こういう感じでって言って、neoっていう三味線の曲がありまして……って時々、言うんですよ。あそこの冒頭の部分をちょっと、もしYouTubeで検索して……あの技術であります、って言ってくださったりしてるんですけど(笑)。」
LEO「なるほど(笑)。じゃあ大さんも、ご自身の曲を弾けるようになる日も、そう遠くないのかもしれない。」
藤倉「いやいやいやいや。もうね、すごい大変ですよ、三味線。でも本当ね、面白い。僕にとっては初めてのあの弦楽器だし、もちろん初めての日本の楽器なので。」
LEO「今回、この書いていただいた曲も、もうまさにやっぱり……僕目線、箏もたくさん弾いてきた身からしても、箏ってこんな音が出るんだ、みたいな。こんなにいろんな……何でしょう、カラーが出せるんだっていう、僕も新しい発見になりましたし。そこにさらにオーケストラが加わることで、昔ならではのスタイルでオーケストラがあって、ソロ楽器があって、二つ別のもの……みたいな考え方っていうか、そういう何かイメージがあったんですけれども、藤倉さんに書いていただいた「Koto Concerto」はその……オーケストラと箏がさらにこう、合体して、もうすごい一つの、まぁ箏が一番頭の部分にあるんですけれども、一つの大きな生命体というか……もうオーケストラの様々な楽器を使って、鳥が羽ばたいているような。」
藤倉「うんうん、いやもうまさに。まさにそんな感じですね。そう例えば、水面があったら、雫が落ちると輪っかが広がる……波紋が広がるじゃないですか。でも、その水滴っていうのが箏のソロなので、その箏の、ソロが弾かれたらこう反応していくっていうのは……」
LEO「なるほど。」
藤倉「だからオケのだけのリハーサルなんか聴いてたら変なもんですよね、だからほら、波紋しか見えないわけだから。なんで波紋が起きてるんだっていう。それで、その次の日のリハーサルとかでLEOさんが入ってきて、あ、なるほどってなったら、しめたもんですよね。」
LEO「いやー本当に。」
藤倉「だからね、オケの方たちとのLEOさんの箏協奏曲、LEOさんと共演したね、オーケストラとか読売交響楽団だとか、やっぱりスーパーオーケストラなので、そういうの反応が早いんですよ。早いと思いました、現地にいて。」
LEO「思いました。」
藤倉「何か弾いた瞬間、ああ、なるほど。っていうのが、ビビビッていくじゃないですか。」
LEO「どんどんこう……変わっていくし。」
藤倉「だからそういったものは、やっぱりあるから。とにかく協奏曲書くのが好きなんですよ。あのー、うん。あの、協奏曲のソロの方とね、あのLEOさんなんかは、特別にこうやって、その音楽とか作曲に限らず、仲良くさせてもらってるので、いろいろ話せんじゃないですか。そういった意味で、そういうコラボレーション、すごいやりやすいですよね。」
LEO「「藤倉大:箏協奏曲」を少しお聴き頂きます。」
藤倉「逆にその指揮者のあれって、合わせるの難しかったですか。」
LEO「そうですね。まぁ藤倉さんの作品の前にも何度か、別の箏のコンチェルトをやっていて。それこそ一番最初に箏のコンチェルトをやったのが、僕は確か「春の海」のコンチェルトバージョンだったんですけれども。春の海なんかもう特に……箏の春の海が僕の中に染みついているから、指揮者の指揮と、僕の伸び縮みする拍と、うまくそこのコミュニケーションが取れなくて、すごい……大変だった記憶がありますね。それは僕が指揮を読むのができなかったからこう、指揮のタイミングに合わせて休みのあと出てくるタイミングが微妙に合わなかったりだとか、逆に僕のやりたいようにうまく進めないなあって思ったりだとか。」
藤倉「それって指揮者が出す音、まぁオケが出す音の方が遅れてるってことですか、それとも早いってことですか。」
LEO「ああ……その時はうん、オケの音が遅れてましたね。」
藤倉「ですよね。まあ、そうなんですよ。それね、オケの音が遅れて……これ面白い話で、これまさになんですよ。これもまた西洋のオーケストラの変なところで。指揮者のこの「1」ってやって、見てから(音を)出す人が多いと思うんですよね。」
LEO「うん。で、僕は多分、その一番早い……その一番テンションが高いその瞬間に音を出しちゃう。」
藤倉「だからあれですよね。ダウンビートの下のところで音出せってやつですよね。」
LEO「そうです、そうですそうです。」
藤倉「だからそれ言ったのはブーレーズだからね。ブーレーズが指揮してるときは、オーケストラに、このポイントで出せって。」
LEO「へー!」
藤倉「それが、そのロマンチックや、ロマンチックでその18世紀、19世紀のその例えば……あの東ヨーロッパのロシアとかに行くと、すごい遅れて出るわけですよ。」
LEO「はいはいはい。」
藤倉「1……ボーン(笑)」
LEO「(笑) 逆に出づらいな、うーん。」
藤倉「そうそう。出づらいんですけど、オケでそれを分かってる人たちのオケだと一緒になるわけですよ。一緒に遅れて鳴るから、それはそれで凄くて。なんていうんでしょ……指揮者のエネルギーを感じて、それを表して出すから、その0.5秒ぐらいみんな遅れるわけですよ。だからと言って遅くなるわけではないですね。」
LEO「うんうん。」
藤倉「でもそれがあの、それってやっぱりね、びっくりすることらしくて。大友良英さんがジャズだけじゃなくて、あのバンドリーダーとかもやってらっしゃるじゃないですか。それで大友良英さんが、クラシックの人たちに向けて、このリードしたわけですよ。その指揮ってわけじゃなくてもほら……リードするのは慣れてるわけなんで。したときに、やっぱこうなるんだって言ってたのを思い出しました。それやっぱ遅れるらしいですね、やっぱり。」
LEO「ジャズとかだと、やっぱりその拍を意識するから、そんなことはない?」
藤倉「拍は、っていうか……でもやっぱりほら、ここっていうときに出るじゃないですか。クラシックだけですよ、そんな遅れるのは。1……ダーンって。」
LEO「そろそろちょっとお時間なので、今後、藤倉さんがこれからやっていきたいことを、ちょっとお聞かせいただけたらなと思います。」
藤倉「そうですね、あの……邦楽の、日本の楽器のためのラインが結構まとまって来たのがあったって言ったと思うんですけど、今はなぜかね……あの古楽。バロックの楽器、ピリオド楽器ですね。だから17世紀、18世紀の楽器のための作品を書いてくださいっていうのがこう、別々に4件、5件、一気にまとまってきてて。最後に一つ夢は、北斎……北斎をテーマにオペラを描きたいって思ってですね。」
LEO「かっこいい。」
藤倉「今までオペラを3つ書いてて、今まで1回も日本の題材のオペラを作ったことがないので、ぜひ……あまり僕、日本の題材のものっていうのはすごく少ないんですけど、北斎はぜひやりたいなと。まあその、パンデミックの間のほら……僕のオペラの台本を書くパートナー、コラボレーターもロックダウンですから。彼はスコットランドに住んでるんですけど、だから2人でちょっとこのロックダウンを生かしてですね、いろいろ書いてみようって言って、すごいかなり出来上がったプロポーザルなんかあるんですけど、ぜひそれをやりたいなと。」
LEO「へー。」
藤倉「北斎だったらやっぱり、和楽器でてこないわけいかないだろって。」
LEO「そうですね、それは楽しみですね(笑)、和楽器の入ったオペラってのも、本当もう、ほとんどないですからね。」
藤倉「そうですよね、考えてみたら。」
LEO「うん。そうなんですよ。まぁちょこちょこは見たことがありますけれども。」
藤倉「でも和楽器が出るんだったら、やっぱ和楽器の人はステージに出た方がいいですよね。そういうのが、僕が思うに、西洋楽器の人たちと和楽器の楽器の人たちの違いだと思うんですよ。」
LEO「はいはい。」
藤倉「例えば、舞台の上で歩いたりするとき、和楽器の人たちはやっぱり綺麗だし、ちょっと何か教わってる感じがするんですよ。でも本番で、西洋楽器の人たちってびっくりするぐらいね……人を左から右と下に動かすと、弾いてるときすごいのに、歩き始めると素人っぽくなる、という話なんですよ。分かります?」
LEO「ああ(笑)、なるほど。」
藤倉「では監督、左から右に歩いてくだいって言ったら、「え、私ですか…」みたいになっちゃうみたいな。いや、なんでそこだけ、そこでいきなり素人になるんだみたいな。弾いてるときはすごいのに。だからね、それ結構ね、僕なんかもう作品で、奏者の場所がいつもの場所と違うところであったりするときに、それって動くんですかって言われたときに、あの西洋楽器の場合、動かさないんですよ、僕。そういうのが目立っちゃうから。」
LEO「はいはい。」
藤倉「でも邦楽の人たち……和楽器の人たちはこう、歩いたりする場面が多いんじゃないですかね、伝統の音楽でも。」
LEO「どうですかね。そんな基本、正座で弾いてるイメージだったんで、まぁただやっぱり。」
藤倉「入ってくる時とか……」
LEO「そうですね。その能楽堂とかにおいては、やっぱりその立ち振る舞いとかも大事ですし、着物を着ていて、その着物の着崩れがないかだとか、そういったところもやはり、もうお稽古として教わったりするので。」
藤倉「やっぱそこですよ、そこですよ。」
LEO「意識があるのかもしれないですね。」
藤倉「でも、和楽器って面白いですよね。だってさ……西洋楽器的にそれ、音出たらそっちでいいです。ってことあるんですけど、和楽器の場合は、その指は使ってはいけませんだとか、あるじゃないですか。三味線とか全部一つの指で弾いてくださいっていうのが、もう本当にびっくりで(笑)。」
LEO「お知らせなど、藤倉大さんの方からございますか。」
藤倉「1月の下旬にですね。」
LEO「はい。」
藤倉「これまで2年間半、あの連載文章、僕の連載をしていた……まあ僕の自伝ですね。」
LEO「はい。」
藤倉「ちょっと早すぎる自伝なんですけど、"どうしてこうなっちゃったか早すぎる自伝" っていうタイトルの本なんですけど、それでやっと出ることになっているので、皆さんぜひ。」
LEO「それは楽しみ。ぜひぜひ僕も読ませていただきます。」

<坂本龍一、新曲「IETA」まもなく配信スタート。>
今回は番組をお聴きいただいたリスナーの皆さんへ、教授からのプレゼントとして、1月19日から配信がスタートになる新曲「IETA」のオンエアがありました。この曲は、CREOのTV-CMのために、教授が書き下ろしました。

<デモテープオーディション – U-zhaan, 長嶋りかこ, 蓮沼執太>
U-zhaan「ここからは療養中の坂本龍一さんに代わって僕、U-zhaan と、」
長嶋「長嶋りかこと、」
蓮沼「そして蓮沼執太の3人でお届けしていきます。」
U-zhaan「2022年もいつもどおり、全員リモートでの審査となってまーす。皆さん、明けましておめでとうございます。」
蓮沼「おめでとうございます。」
長嶋「おめでとうございまーす。」
U-zhaan「執太には会ったばっかりですもんね。」
蓮沼「そうですね。」
U-zhaan「あの、31日に、年越しじゃないけど31日の夜に一緒にライブをして。」
蓮沼「そうです。」
U-zhaan「長嶋さん何やってました、年末年始。」
長嶋「年末年始は掃除をしてました。」
蓮沼「掃除(笑)」
U-zhaan「ねー、大掃除とかやるんですよね。」
長嶋「はい。掃除をしてました。はい。」
U-zhaan「教授はあれですよね、あの年末、595音のNFT販売企画ってのを実施されてましたね。」
長嶋「そうですね。」
U-zhaan「戦場のメリークリスマスの右手の音、全部の音階を分割販売。」
蓮沼「すごい良いなと思ったよ。」

U-zhaan「さて、今年からレディオ・サカモトのオーディションは、世界中の音楽配信ストアから音楽を配信している音楽配信代行サービスの "BIG UP!" とコラボレーションしていくそうです。音楽作品に関しては、BIG UP! からのエントリーを審査しています。フィールドレコーディング音楽は、今までと同じ送り方でも大丈夫です。審査を通過した優秀作品には、BIG UP! の配信利用料が無料になるクーポンがプレゼントされるそうなんですけど、詳しくはレディオ・サカモトのホームページやオーディションのページをチェックしてみてください。今回の審査からなんですけど、なんかちょっとエントリーの仕方が変わったせいか、作品もちょっと全然違う感じの作風が増えてますよね。」
長嶋「だいぶ違いましたね。あの、歌ものがすごい多かった。」
U-zhaan「そうですね。」
長嶋「うん。」
U-zhaan「なんだろ。今までここに送ってくださった方と、全く違う人たちがくださってるので、あと作品数がまた増えましたね。これで500作品ぐらいですからね。この2ヶ月の間で。500曲……すごかったですね。(オンエア紹介作品を振り返って) 今回は皆さんが選んだやつ、本当に僕が選んだのと全く同んなじ感じでした。」
長嶋「あ、そうなの。」
蓮沼「うんうん、僕もそうでしたよ。唯一、鈴木さんだけはちょっとフォローできてませんでしたけど、でも鈴木さんが入ったおかげで、かなり締まった2022年の一発目なんじゃないすか。楽しかったです。レンジが広がったよね。」
長嶋「レンジが広がりました。」

音楽ジャンルのオーディションが、音楽配信代行サービス「BIG UP!」と連携しました。

■音楽作品
「BIG UP!」のアカウントからエントリーをお願いします(「BIG UP!」での配信を希望される場合、そちらの登録も必要です)。
審査通過者には、副賞として「BIG UP!」のベーシックプランでの配信利用料が無料になるクーポンを贈呈いたします。



■音楽以外の作品
今まで通りノンジャンルで受け付けています。作品はファイルのアップロードのほか、YouTubeのURLを指定しての投稿も受け付けます。
詳しくは、エントリーフォーム内の応募要項をお読みください。

 |
|

番組サイト内エントリーフォームより御応募頂いた作品にまつわる個人情報の管理、作品の管理は、J-WAVEのプライバシー・ポリシーに準じております。詳細は、こちらを御確認ください。 |
|

<坂本龍一:プレイリスト「RadiSaka2022-01」>
2022年1回目のオンエアでしたが、今回も番組のために教授が選曲したプレイリストを約25分間ノンストップでオンエアしました。
Spotifyに、プレイリスト「RadiSaka2022-01」としてもアップしています。

|